第53話 パーティ登録と過剰戦力

目を覚ますと僕はベッドで寝ていた。


何故か横にユリアも寝ている。


「お目覚めですか? セイル様」


「あれっ、僕はどうして...あっ治療中に倒れたのか?」


「はい、それでベッドまでお連れしましたの」


「所で何でユリアも寝ているの?」


「私が掃除している最中に様子を見られまして、気絶してしまいましたわ、まぁあの惨状ですから無理もありませんわね!」



確かに斬り落とされた下半身は腸から骨まで見えるし、上半身は臓器がこぼれ落ちた状態で放置だ、普通に考えたら気絶するよな。


僕は虫の勇者になってから、何故かこういう物に恐怖を感じなくなった。


「掃除してくれたんだ、有難う!」


「あれは私の治療でしたから当たり前です!」


「それで、体の処分ってどうすれば良いか解るかな?」


「流石にこんな経験私も初めてですから、ですが私は教会から勇者の権利を剥奪されましたので教会では無く冒険者ギルドの管轄になると思います!」



「それじゃ、後で冒険者ギルドに相談に行こうか? それで体の方は?」


「樽があったんで樽に詰めておきましたわ、部屋も綺麗にしてカギは大家さんに返しておきました」


「そう、ありがとう..それで樽は?」


「あれですわ」


部屋の入口に確かに樽がある。



「申し訳ございません、丁度樽詰めをしている時にユリアさんに見られまして、目をまわしてしまいました」


「確かに衝撃的だったから仕方ないよね!それじゃ起こして冒険者ギルドに行ってから、ご飯でも食べようか! ユリア、起きて!」


「ううん..あっセイル、さっき死体が...」


「ユリアあれは、ホーリーの元の体だから、安心して」


「えっ、そう言えばホーリーさん..治っている! 良かった..だけど、何が何だか解らないよ」



「簡単に言うとホーリーの体の悪い所を全部切り取って、エリュクサーを使って体を再生した、そんな感じかな?」


《嘘だけどね》



「そんな事、本当に出来るの? 体の殆どを斬り落として、再生なんて神様みたいな事」


「出来るわ! 伝説の秘薬エリュクサーなら死んでいなければどんな大怪我でも一瞬で治す事が可能なのよ」


「そんな物があったら誰も死なないんじゃないかな? だったら何で皆使わないの?」


「物凄く高いのよ..」


「高いって言っても薬だよね? 金貨1000枚位?」


「全然足らないわ..金貨にしたら、最低でも5万枚..タイミングによっては1000万枚以上の値段が付く場合もあるわ」


「冗談よね..」


「嘘じゃないわ」


「セイル..その薬どうしたの? もしかして借金したのかな?」


「大丈夫だよ、ダンジョンで手に入れた物だから、借金とかはしてないよ」


「そう、それなら良かった」




この二人は、本当に優しくて善人なんだわ。


お城より高いエリュクサーを使ってしまったのに、何も言わない。


私がもし、手に入れたとしても、きっと他人には使えない。


だって、一生どんな贅沢をしても使いきれないお金が手に入るんだから。


そんな高価な物を私の為に使ってくれたんだ...



「どうしたんだ! ホーリー」


「ホーリーさん、元気ないけど、まだ何処か調子悪いの?」



「大丈夫! 私は元気ですわ」





ギルドに着いた。


セシルさんが直ぐにやってきた。



「セイル様とユリアさん...それに、ホーリーさん」



流石に驚いているわね。



「サロンを使わせて貰えるかしら?」


「はい、ただ今、ご用意します」



教会と国の後ろ盾が無くなった野良勇者だからランクは下がっているかも?


それでも金級ではある筈だわ。



「今回のお話を聞く前にギルドから報告があります..ホーリーさん、貴方のランクは銀級になります」


「何でそうなるの?」


「ホーリーはミスリルだった筈だよ」


「ミスリルは国が認めた者のランクです、イルタの国から正式に後ろ盾を辞める届けが出ています、更にゾラン教からも今後は関係ない物と扱う様にと届も出ています」


「それは良かったわ」


「良かったですか?..説明をさせて頂きます。 後ろ盾が無くなったので金級になりました、更に依頼放棄で1ランクダウン、その結果銀級になります」


「それは正式な物なのね」


「はい、残念ながら」


「そう、それは良かったわ、今の私はセイル様の終身奴隷なのよ...丁度良いわ、これでセイル様のパーティーに正式に入れるわね」



「終身奴隷..そんな」


「勘違いしないで欲しいわ、これは私が望んだ事よ!」


「貴方はジョブが勇者でしょう? それが奴隷になってよいのですか」


「その前に、私を見て..気が付かない?」


あれっ..怪我しているように見えない、確か報告では二度と戦えないという筈だった。


「健康に見えます」



「はい、これ..」


「何ですか? この樽は..嘘、死体が入っている、一体何をしたのですか? まさか殺人」


「違うわよ..それは私の体よ」



「何が何だか解りません」


「それじゃ僕が説明します」


僕は、筋書き通りにホーリーに言った事と同じ事を説明した。


虫の聖人では無くエリュクサーで治したと嘘をついて。



「エリュクサー..手に入ったんですね、信じられませんが、それ以外考えられません」



「あの状態の私にエリュクサーを使ってまで治してくれたのよ? 一生仕えたくもなるわ」


「あははははっ、エリュクサー使っちゃったんですね! 国宝よりも高いのに」


「僕が手に入れたんだから自由ですよね?」


「確かにそうですよね..まぁ勇者だから問題は無いでしょう..それで今日の用件は何でしょうか?」


「この、体の処分と、パーティにホーリーを入れる手続きです」


「あっ「エターナルラブ」にですね..解り、ちょっと待って下さい..ギルマスを呼んできます」



これは、私の判断を越えてます。



「どうしたんだ、セシル」


「セイル様からパーティーの申請が出ています」



「勇者様、それで俺はどっちが良いか? 何時もの俺と、勇者扱いする俺と!好きな方で良いぞ!」


「いつもの方が良いです」


「そうか? それじゃセイルで良いな? お前ならそう言うと思ったぜ..問題無いOKだ」


「解りました、本当に良いんですね?」


「勇者だからって特別扱いするなよ? 普通に扱ってやれ」



「解りました、それでは手続きさせて頂きます、冒険者証を三人とも預けて下さい。」


《本当に良いのかな?》


それぞれの冒険者証にパーティメンバーの名前が加わり


僕の冒険者証に 奴隷ホーリーという項目が加わった。


ホーリーの冒険者証に 主人セイルと言う項目が加わった。



「これで手続きは終わります..ホーリさんはセイル様の奴隷なので報酬は一回セイル様の物になります、その後は話し合いで分けて貰って下さい」



「「「解りました」」」




ギルドを後にして三人で高級そうなお店に来た。


私は奴隷だから立っていたんだけど..


「早く座りなよ」


「えっと、私は奴隷ですわ」


「あっ、奴隷とは扱わないから安心して、しいて言うならユリアの終身護衛だから..食べ物も生活も基本は一緒だから」


「そうそう、友達みたいに思って良いよ!」



「本当に良いの?」


「別にそれで良いよ」



「それじゃ、同じ物で良いよね..ミノタウルスのステーキ セットで3つとエール3つ」


《それ高級肉だわ...勇者の時でもそんなに食べた事は無いのに...》



久々に食べたステーキは本当に美味しかった。


だけど、これ絶対に奴隷の扱いじゃないわ..こんな幸せなら、奴隷になりたく無い、何て人は居なくなるもの...






ギルドにて




「あの、ギルドマスター本当に良かったのですか?」


「何がだ?」


「勇者二人がパーティーを組む事ですよ! セイル様がマモンと互角だとしたら、そこにホーリーさんが加われば国相手に戦える戦力になりかねないのですが...良いのですか?」


「ホーリーだったのか!」


「まさか気が付いて無かったのですか?」


「ああ」


「どうするんですか!..問題になりますよ」


「多分、大丈夫だろう? 一応王城に報告をあげるが、セイルは帝国が認めた勇者だ、その勇者の仲間に勇者が加わる..喜ぶよな?」


「私に振られても知りませんよ!」


「あああ明日、俺は帝王様に謁見願いを出してくるわ」


「そうして下さいね」



帝王様なら大丈夫..今となってはそう思うしかない。



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