第2話 全てを失う前の3日間
無能になったその日の夜、朝までユリアは傍に居てくれた。
何も言わずに一緒に添い寝してくれた。
勿論、変な事はしていない。
これがお別れである事を僕は知っていた。
「無能」である僕の価値は家畜みたいなものだ。
多分、これがユリアの家族からの最後の思いやりなのだろう。
本当なら、今日はご馳走を食べ、お酒を飲んで成人を祝う最高の日。
それなのにお祝いもせずユリアが此処に居る。 無能の僕の為に..申し訳ない。
他の人には最高の日、だが僕には最悪の日だった。
「僕が人間扱いされなくなる日」それが今日からなのだから。
次の日の朝、早速「無能」の扱いが始まった。
村長からいきなり家を出るように言われた。
この家は両親が建てた家で権利は本来は僕にある。
だが、「無能」は家や畑を持つ権利も無い、だから取り上げても誰も文句は言わない。
「すまない..だがこれは決まりだ、3日間だけ猶予をやる、もし村に居るなら儂の家の馬小屋を特別に使わせてやる」
すまなそうな顔をしているだけ村長はまだ良い人だ、そう思うしかない。
仕方ない事だ。
ジョブを貰うとそれがどんなジョブでも能力が底上げされる。
「農夫」や「お針子」のジョブですら、貰う前とは雲泥の差になる。
力で言うなら、毎日頑張って14歳まで木刀を振り続ければゴブリンなら倒せるようにはなる。
だが、「農夫」のジョブを貰えば、そんな修行をしなくても「鍬の一撃」という技で簡単に倒せてしまう。
そして、畑仕事にしても、能力が無い者と比べれば「農夫」のジョブ持ちは収穫量が倍になる。
つまり、無能力者がどれだけ努力してもジョブ持ちには勝てないのだ。
人から嫌われる「娼婦」というジョブや「街人」なんてジョブでも基礎の力が上がるだけ無能よりは良い。
いまの僕は15歳の年齢の中では「一番使えない」人間という事だ。
ユリアとの結婚? そんな話はもう無い、恐らく後で断りが来るだろう。
無能力の者に大切な子供を任せる親など居ない。
畑をユリア名義にしたって収穫量が減り、税金が納められなくなるに決まっている。
しかも、力もなく誰にも敵わない僕じゃ誰からもユリアは守れない。
諦めるしかない。
泣いても仕方ない..そんな事は解っている。
だが、僕にどうしろと言うんだ?
やれる事は何も無いんだ。
この村を出ても「生きていく方法」が何もない。
まだ、顔見知りだから、少しは扱いが良いだけ此処に居た方が良いに決まっている。
それが、もう人として見て貰えなくても..
良く見る野良犬ならエサ位はくれるだろう..知らない野良犬にはエサなどやらないだろう。
僕は現実を見つめ覚悟をしなくてはいけない。
「自分が家畜以下の価値しか無くなった」その現実を受け止め生きる覚悟を。
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