第3話 ユリアごめんよ...

この家に居られるのも後2日間だ。


僕にとっては両親との思い出の家。


家事道具や家具すら没収されるだろう..



さっき、ユリアの両親から結婚の断りが来た。


二人で来たのが誠意の現れだろう。


僕はただ謝るしか無かった。


「本当にすみませんでした..」


「良いんだ、君は悪く無い、だが君は無能だもう娘には近寄らないでくれ」


「本当にごめんなさい」



「いえ、良いんです..全部僕が悪い..」


二人は無言で立ち去った。


本当にユリアには悪い事をした。


ユリアは僕と結婚するつもりだったから相手が居ない。


15歳でジョブを貰って結婚する、そして子作りをしなくてはならない。


都会ならともかくアイシアみたいな田舎では20歳前に子供を作る夫婦が殆どだ。


農村部では小さい頃から仲良くなり結婚をするのが殆どだ。


僕と結婚する予定だったユリアは15歳なのに一から相手を探さなければならない。


近隣の真面な男はもう相手が決まっている。


最悪、どこかの中年の後添いになるか、素行が悪く縁談が無い様な男の嫁になる可能性が高い。


ユリアの家は土地持ちだ、その反面他に兄弟が居ないから将来両親の面倒を見なくてはならない。


だから、将来の家族として僕に優しかった。



全てを僕が壊してしまった。



女神は何で「無能」なんて人間を作るんだ..


僕が一体何をしたって言うんだ?


僕は、盗みもしないし、殺しもしてない、女性も犯していない。


女神様を信仰して「三禁」もしてない。


なのに、何で僕が無能なんだ。


王都の牢屋には沢山の犯罪者が居るじゃないか?


そんな犯罪者にもスキルは与えているじゃないか?


スラムで暮らす悪党だってスキルは貰えている。


何で、何で、僕にはくれないんだ..



「うわああああああああんっうわあああああああああああああっ」


幾ら叫んでも泣いても何も変わらない。



一通り泣いたら少しは気が腫れた。


顔がとんでもない事になっている。


井戸に行って水でも汲んでこよう..



井戸に行って水を汲もうとした。


僕が水を汲もうとしていたら、後ろにアサという近所の子供が並んだ。


だが、僕の顔を見るとアサはいきなり僕を突き飛ばした。


「おい、無能! なんでお前が水を汲むのを待たないといけないんだ? 他の人間が来たら譲るのが無能だろう?」



言っている事は正しい。


僕は甘えていた..アサは良くお腹を空かしていた、だから良くふかし芋をあげたり焼いた魚をあげたりしていた。


だから、桶一杯の水を汲む位待ってくれる、そう思った。



(本当に僕は甘いな..無能なのに)


「ごめん..」


「解れば良いんだよ」


殴って来ないだけアサはまだ優しいのかも知れない。




その日の夕方、トーマがユリアを連れてきた。


「おい無能..お前の女を俺が貰ってやるんだ! お礼を言えよ」



そうか、トーマがユリアと結婚するのか..



トーマの手はユリアの服の中に入っていて胸を揉んでいる。



トーマはガサツで暴力的な男で婚約の話が無い奴だった。


そりゃ当たり前だ、村の嫌われ者と結婚したい奴は居ない。



だが、この辺りには他に年頃の男は居ない..そしてジョブ農夫だ。


もう目ぼしい人間は相手が決まっている、後添いにでもならないなら此奴しか相手は居ない。



僕が黙っていると



「どうした無能! お前が貰えなくなった女を仕方なく俺が貰ってやるんだ..こんな面白くも無い奴をな! お礼位言えないのか..言えないなら、こんな女捨てて他の女探すぞ」


そんな事出来ないのは知っている。


此奴だって後は無い、もし今回の事がなければ村から追い出されていただろう。


夫が居ない女に価値が低いように、嫁の居ない男も価値は低い。



ユリアは泣きたいのを我慢しているのが解る。


ユリアは身持ちが固く清楚だ、それが胸を揉まれながら歩いているんだ..苦痛だろうな。



「ユリアを..貰ってくれて...ありがとうございました」



「言えるじゃないか? 仕方ねー可愛げの無い女だが、貰ってやるよ..ユリア、早速今日の夜から子作りするぞ! ちゃんと満足させるんだぞ」



僕よりきっとユリアは辛いだろうな。


ユリアはガサツなトーマが嫌いだった。


僕もトーマが嫌いだ。


女癖が悪く暴力的な男を好きになる人間は居ない。



だが、畑を耕して、ユリアの両親を将来面倒見るのはトーマだ。


どんなに嫌いでも拒むことは出来ないだろう。


今、相手が居ない人間は殆ど居ない...しかも貴重な「農夫」だ..ユリアが拒めるわけが無い。



ユリアは幸せになれない..だが、僕はそれ以上に不幸にしてしまう。



ユリア..ごめんよ..無能でごめんよ..


心の中で謝る事しか出来なかった。


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