もう失いたくない
(何とか間に合いそうだ……)
心音さんに私の家で夏休みの宿題を二人でしようと誘って、約束をした。今日は叔母さんがいないため、いつものコンビニで二人で飲み物と食べ物を買って私の家に向かう事になっている。しかし、私としたことが時間に間に合うか微妙な時間に家を出てしまったため、五分くらい時間を止めたりしながら、集合場所に急いでいた。
たまに友達に誘われて遊びに行ったりするが、いつもは寂しい夏休み。でも今日は心音さんがいてくれる。その事実にとても嬉しく思う。
♢♢♢
(あっついなぁ……)
時雨に夏休みの宿題を二人でしようと誘われ、コンビニで色々買って、いつものように時雨の家に向かう事になった。
暑い中外を歩くのは億劫だが、なんだかんだ言って時雨といると楽しいので、暑い中私は歩く。私の家で勉強する方法もあるが、絶対母がちょっかいをかけてくるのでやめておいた。
修吾場所に着いた。横断歩道の向こう側で私に気付いた時雨がまた大きく手を振っている。私の口角がちょっぴり上がる。信号が青になり、私は横断歩道を渡り始めた。
どこからか大きなエンジン音が聞こえた。
♢♢♢
(え!? なんであの車信号赤なのに全然減速しないの!?)
理由はわからないが、それに気付いた私は一目散に走りだしていた。今この瞬間、時間がとてもゆっくり進むように感じる。このままだと心音さんが轢かれてしまう。また私から大切な人を奪うって言うの? 嫌だ。もう失うのは嫌だ。でも間に合うかどうか、確実ではない。間に合ったとしても、今度は私が轢かれてしまうかもしれない。でも、こんな時の為に私の力があるんじゃないか。どんな手を使ってでも、心音さんを助けるんだ。どう誤魔化すかなんて、後で考えればいいんだ。
心音さんを安全な場所まで運んで、涙目になりながら思わず抱きついてしまう。心音さんは私より大きいので、胸のあたりに顔が沈む。この力があってよかった。助けられて本当によかったと心から安堵する。まだ時間は止まっている。心音さんに抱きついたまま、急いでどう誤魔化すか考える。しかし、私はある事に気付かなかった。落ち着いてきたころ、その事をふと思い出したときは、もう既に手遅れだった。
私が心音さんに抱きついたまま、時が動き出す。
(そういえばさっき5分、先に力使ってたんだった……)
さっき15分まるまる使ってなくて良かった。とか思っている場合ではなく。これをどう誤魔化せというのか。胸に沈んでいた顔をおそるおそる心音さんの顔に向ける。彼女は私をじっと見つめている。多分今私は過去で一番の赤面をしているだろう。
「あ、その……えっと……」
「ありがとう」
しどろもどろになっている私に彼女はそう言った。これは私がなんか凄い力持ってるのとか私が心音さんの事が好きなのとか、そういうのがやっぱりバレたってことなの!? 私は抱きつくのをやめ、逃げようとしたが、心音さんが後ろから小さな私を優しく抱きしめてきた。
「あぁ落ち着いて。逃げようとしないで、お互いいろいろ話したいことあるだろうし、私は時雨を悲しませたりは絶対しないから、時雨の家でゆっくりお話しよう? お菓子とかジュースでも買って気楽にさ」
私は心音さんのその言葉を信じて、小さく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます