勉強会
霜里さんと友達になってそこそこ日が経った。あれからたまに一緒に帰ったり昼食を食べたりしている。そして期末考査が近づいてきた今日、霜里さんから最近の数学が難しくて困ってるから教えてほしいとメッセージが届いた。自分で言うのもあれだが幸い私は成績は結構いい方なので教えるのには困らないし、理解力が高まったりしてwin-winな関係になるだろうから、日曜日に霜里さんの家で勉強会をすることになった。ちなみに霜里さんも成績は悪くないしむしろ良い方だ。教えるのにも困らないだろう。
当日、集合場所は普段一緒に帰ってる道の互いの家へ分かれる場所にあるコンビニの前。平日一緒に帰ってるときはここで別れて各々の家に帰る。時々コンビニに寄ったりもする。集合時間五分前に到着したが霜里さんはすでにいた。
「ごめん、結構待った?」
「あ、おはよう五十内さん! 大丈夫私もさっき来たとこ! その……綺麗であと……かっこいいよ……」
「おはよう霜里さん。ありがとう。霜里さんもかわいいよ」
彼女はサロペットに夏用のカーディガンを羽織っており、よく似合っている。私はジーンズ着用の割とラフな格好で来たのだが、彼女は思いのほか気に入ったらしい。
「コンビニで飲み物でも買ってく? 今日結構暑いし」
「そうしよっか」
コンビニで飲み物を買った私達は霜里さんの家に向かう
「そういえば心音さん」
「どうしたの……ってん?」
歩きながら彼女が話しかけてきた。下の名前で。
「その……そろそろ名前で呼んでもいいかなって」
「あー……」
一瞬考えるが、まぁ別に大きな問題はないかと考えを纏める。
「えーっとじゃあ私は呼び捨てでいいかな……? 時雨……」
「あっうん全然いいよありがとう心音さん!」
「そっちはさん付けなのね……まぁいいけど」
「……」
「……」
そんな会話をした後、沈黙が訪れた。ただ会話の間に家に結構近づいてたらしく、
「あっ心音さん! 家あそこだよ!」
とすぐに時雨が言った。少々気まずい沈黙が長く続くことにならず助かった。
「ただいまー」
「お邪魔します」
各々挨拶をして玄関に入る。すぐにかなり若く見える女性がこちらに来て、笑顔で話しかけてくる。
「おかえり~時雨ちゃん。それで、貴方が最近時雨ちゃんが話してる五十内さん?」
「はい、五十内心音です。よろしくお願いします」
「いらっしゃい五十内さん。どうぞ上がって~。今日勉強会でしょ?お菓子後で持って行くからぜひ食べてね~」
「ありがとうございます。お邪魔します」
そう言って女性は先程までいたであろう部屋に戻っていった。私と時雨は靴を脱いで時雨の案内で時雨の部屋に向かう。
「心音さん。どうぞどうぞ、座って座って」
「うん、わかった」
時雨にそう言われ、座布団に座る。心音も部屋の扉を閉め座布団に座った。
「さっきの方ずいぶん若く見えたけど、お母さん?」
「ううん違う。私の叔母さん。眞冬って名前なの。両親は……私が小学生の時に亡くなっちゃったの。そこを叔母さんが引き取ってくれてさ。今日は日曜だから家にいるけどいつもは遅くまでお仕事頑張ってくれてるんだ……」
時雨はそう話した。まずい質問をしてしまった。彼女にとっては辛い事を思い出させてしまっただろう。能力を使うべきだっただろうか。私はすぐに謝罪する。
「ごめん。嫌な事思い出させたね。今後は気を付ける」
「大丈夫大丈夫!気にしないでいいよ」
彼女は大丈夫だと言ったが、表情に若干の陰りが見える。心を読まずとも完全に大丈夫とは言えないだろう。申し訳ない事をした。
「二人とも~お菓子持ってきたよ~」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとう叔母さん!」
時雨の叔母さんは美味しそうなお菓子を置くと部屋を出て行った。どんよりとしていた雰囲気が多少はマシになり助かった。
「それじゃあ勉強しよっか」
「うん!そうだね心音さん!」
途中お菓子だけでなく昼食をいただいたりしながら勉強会は順調に進んだ。日が傾いてきて、そろそろお開きにしようかということになった。
「そろそろ帰るね、明日学校だし。暗くなる前に帰らないとね」
「そうだね。帰るときは気を付けてね」
なんて話をしていたら、部屋に叔母さんが入ってきた。
「時雨ちゃんごめん! 急なトラブルで夜勤しないといけなくなった……今すぐではないけどもう少ししたら職場に行くから夜ご飯は一人で食べておいて! ホントにごめん!」
と言ってすぐに部屋を出て行った。
「こういうことってよくあるの?」
「ううん、今回が初めてじゃないかな、何があったんだろう……」
「その……ごめんね時雨。一人にしちゃうけど……」
「ううん大丈夫! 平日はいつも一人だし! いつもと変わらないから……」
そう言ってはいるが、やはり罪悪感を感じる。
♢♢♢
ごめんね心音さん。せめて、あと15分、一緒に居させて。近くに感じさせて。
♢♢♢
彼女が突然挙動不審になった。寂しさと恥ずかしさと後ろめたさが混ざったような妙な顔を彼女はしている。何があったかと心を読むと、たった今時を止め、私の手を握ったり私に寄りかかって寂しさを紛らわせてたらしい。どう反応しようかと迷ったが。心を読む限り彼女が私の嫌がることはしてないし彼女ならするつもりもないだろうし、ひとまず普通に振る舞うことにした。
「それじゃあごめんね時雨、また明日」
「あ、勉強教えてくれてありがとう! また明日!」
時を止める前よりかは少しは寂しさもマシになっただろうか。また明日と返した彼女を置いて、私は部屋を出た。
靴を履いて家を出ようとしたところ、仕事の準備をしていた叔母さんに呼び止められた。ちょっとしんみりな表情をしている。
「心音ちゃん、ちょっといい?」
「はい、どうぞ」
今気付いたがいつの間にか呼ばれ方が五十内さんから心音ちゃんになっていた。ひとまずそれは置いておく。
「その……両親の話は時雨ちゃんから聞いた?」
「はい、聞きました……」
「そっか……」
「……、……」
「時雨ちゃん友達は今までたくさん作ってたみたいだけど、家に呼んだのは多分心音ちゃんがはじめてなの。」
「え、そうなんですか」
「まぁ私あんまり家にいないからもしかしたら知らないところで呼んでたかもしれないけど……多分それはないんじゃないかなぁ。だからまぁ、出来ればでいいから時雨ちゃんとこれからも仲良くしてあげてくれると嬉しいなって」
「しもさ……時雨は一緒にいるととても楽しいですし、優しさもあって、その……友達になって良かったと思っています。」
「……」
「お邪魔しました。また来ますね」
そう言うと叔母さんは笑顔を取り戻して
「ありがとう心音ちゃん! じゃあ、またね!」
と返してくれた。
♢♢♢
あれからテストの日まで、何回か心音さんと放課後に勉強会をした。毎回帰る前に寂しくて時を止めて甘えちゃったけど……ともかく勉強の成果はあり、今までよりもテストの手応えは良かった。そして採点された答案が返ってきた。
「ギリギリ赤点は回避できたぁー……時雨はどう?」
楓華ちゃんがそう話しかけてきた。自分でも驚いて見ていた結果を見せる。
「うわ順位一桁じゃん!? 何があったの!?」
「心音さんが教えてくれたんだーえへへ」
「心音さん……あぁ五十内さんか。順調に仲良くなってるようで何よりだよ。まぁ互いに無事夏休みを迎えられるってことかな」
もうすぐ夏休みかぁ……心音さんといっぱい遊びたいな。良い思い出とか作りたいなと私は思った。
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