第39話 がんばれ!コニタン

 ノダオブナガはコニタンのパーティーに集合をかけた。すぺるん、ハリー、金さんが集まる。それに、かおりんも。サンドロもやって来る。

「コニタンのパーティーよ。今から三種の神器を渡す」国王。

 ノダオブナガは袋の中からごそごそと取り出す。

「これが、真実の鏡だ」

「おう、誰が使う?」すぺるん。

「私は、ナウマン象のことがあるので、誰か使ってくれないか」金さん。

「じゃあ、前の時は俺が使ったし、今回も俺が使おうか」すぺるん。

 すぺるんは真実の鏡を受け取った。

「これが、正直者の鞭だ」国王。

「前は、かおりんが使ったから――」すぺるん。

「いえ、私はいいです。ハリーさん、どうぞ」かおりん。

「私ですか。師匠が言うのなら、では私が」ハリー。

 ハリーは正直者の鞭を受け取った。

「真実の鏡は、映った者の真の姿を映し出す。正直者の鞭は、叩かれた者の真の力を引き出す」国王。

「前に使ったから、知ってるぞ」そっけないすぺるん。

「そして、コニタン、これが勇者の剣だ」

 ノダオブナガはコニタンに渡した、トイレット・ペーパーを。そう、トイレット・ペーパーを。

「ゔぇ、え゛え゛……」絶句するコニタン。

「……最早、剣っぽい形ですらない……」ハリー。

「……剣……じゃないだろ……」すぺるん。

「……どうやって戦うのかしら……」かおりん。

「……マジで?……」国王。

 さすがに全員が顎が外れそうなくらいに驚いている。渡したノダオブナガ本人も。だがサンドロが言う。

「勇者の剣は、戦う相手によってその形を変えるという。じゃから心配いらん」大臣。

 説得力があるような、ないような。まあとにかく、コニタンのパーティーは皆、頷いた。

「よし、じゃあ、始めようか」

 すぺるんは真実の鏡をコニタンに向ける。

「コニタン、鏡を見ろ! このブサイク野郎が!」

「ひいいいいいいいい!」

「お前は、ブサイクだ!」すぺるん。

「ひいいいいいいいい!」

 コニタンは頭を抱えて絶叫している。そして、ハリーは鞭でコニタンを打つ。

「このブサイクが!」

「ひいいいいいい!」

 ハリーはコニタンを滅多打ちにする。なんかもう滅多打ちに。

「ひいいいいいい!」

 コニタンはさらに絶叫する。しかし、それを見ていたかおりんが納得いかない様子で首を左右に振りながら、ハリーに言う。

「ハリーさん、鞭は、単にやたらと振ればいいというのでありません」かおりん。

 かおりんは目つきが鋭くなっている。なんだか、雰囲気も変わって、上から目線な感じでハリーから鞭を取り上げた。

「ハリーさん、こうやるのです」

 かおりんは鞭でコニタンを打つ。

「ひいいいいいいい!」

「この角度から、振り下ろすのです」

「ひいいいいいいい!」

 コニタンはなぜか四つん這いになっている。

「足をケツの上に乗せて、この角度から」かおりん。

「ひいいいいいいい!」

「おい、かおりんって、やっぱSだよな」すぺるん。

「どSだ」ハリー。

「かおりんにこんな才能があったとは……」大臣。

「え? これって才能なのか……」国王。

 けっこうおバカなやり取りが戦場で行われている。

「ブサイクめ!」かおりん。

「ひいいいいいいい!」

「ブサイクが!」すぺるん。

「ひいいいいいいい!」

 鞭で打たれ、鏡を見せられるコニタン。

「ひいいいいいいい!」

 この時、コニタンの中で何かが目覚めた。コニタンの心の最も深い所で隠れていた何かが浮上していく。かつてハエの悪魔を前にして目覚めた感情と似てはいるのだが、微妙に異なる要素のある感情が、コニタンの中で目覚めたのだ。その感情はコニタンの思考回路を支配し、コニタンの容姿を内側から変えていく。コニタンの目つき、雰囲気、言葉遣い、それらを変えていく。そして、羽化した幼虫がせみになって空を飛ぶように、コニタンは完全覚醒した。

「バカでかいヤギが走り回ってるのか。目障りだ」コニタン。

 コニタンはトイレット・ペーパーを持って、いや、勇者の剣を持って、ヤギの悪魔の方へと、悠々と歩いていく。いや、走れよ。


「ィテエエエエーーーーーッ!」

 ナウマン象とヤギの悪魔は何度も正面から激突して、ヤギの悪魔がその度にふっ飛ばされていた。

「パオオオーーーーーーーーーーーーン!」

 ナウマン象は勝者の雄叫びを上げるように、余裕で勝ち誇っている感じでどっしりと構えている。

 コニタンは歩く。走らずに歩く。コニタンの勇者の冠の上から無理やり被らされたゴールデンキモイの金の冠が陽の光に反射して目映まばゆく輝いている。その目立つ光に、ヤギの悪魔の眼差しが向く。離れた所でそれを見ていた兵士たちはざわめき出す。

「おい、コニタンだ」兵士。

「おお、勇者コニタンだぞ!」兵士。

「行けー! ブサイクー!」すぺるんたちは外野で盛り上がる。

 地面に倒れて起き上がったヤギの悪魔の所へ、勇者コニタンがやって来た。コニタンはヤギを前にして、メンチを切る。

「おい、お前、目障りなんだよ」

 コニタンは、角を除いても3メートルも高さのあるヤギを睨みながら、トイレット・ペーパーで脚を殴りつける。

「ィテエエエエーーーーーッ!」

 ヤギの悪魔は悲鳴を上げた。その上、殴られた脚からは湯気のようなものが出ている。

「おお、勇者の剣が効いておるのか」国王。

「トイレット・ペーパーや!」アホ雉がツッコんだ。

 ほんの数秒遅れて、現状を認識した兵士たちが歓声を上げる。

「おおーーーーっ!」兵士たち。

 コニタンは再度、もう一方の脚をトイレット・ペーパーで殴る。

「ィテエエエエーーーーーッ!」

 ヤギの悪魔は両脚をやられて、地面に膝をつく。

「おおーーーーっ!」兵士たち。

「勇者の剣か、今回もすごいな」ビクター。

「トイレット・ペーパーや!」ツッコむアホ雉。

 コニタンは、ジャンプしてヤギの顔をトイレット・ペーパーで殴る。

「ィテエエエエーーーーーッ!」

 ヤギの悪魔は口と鼻から真っ黒な血を吹き出す。

「おおーーーーっ!」兵士たち。

「ふぉふぉふぉ。トイレット・ペーパーが効いておるわい」メイジ。

「勇者の剣や!」ツッコむアホ雉。

「トイレット・ペーパーだろが!」すぺるん。

 ボケとツッコミが複雑化してきたが、もうどうでもいい。コニタンの活躍の前では。


 ナウマン象は、コニタンのゴールデンキモイの冠が放つ輝きに目をくらませていた。勇者の剣の威力を確認した金さんは、あの伝説の魔法を唱える。

「象封じの魔法!」

 光が金さんから放出され、次第に金さんの両手に絡みつく。金さんはその光をナウマン象に向ける。

「おりゃーーー!」

 光の波がナウマン象に向けて放たれた。光はナウマン象に命中する。

「パオオオーーーーーン!」

 ナウマン象は地面に転がり始める。

「おりゃーーー!」

 光はナウマン象を捉え続け、ナウマン象は徐々に小さくなっていく。徐々に。そして、せみの幼虫くらいの大きさになった。

「ピャォン……」

 金さんはナウマン象を指でつまみ上げて、ガラスの小瓶の中に入れ、蓋をした。

「これでよしと」金さん。

 金さんの象封じの魔法は、コニタンの活躍の影に隠れて、大して目立たずに終わった。兵士たちもナウマン象の存在を忘れるくらいにコニタンの登場が強烈だったのだ。またあるいは、ナウマン象がいなくなったことに気づいたが、コニタンの活躍の前では、非常に小さなことでしかなかった。


「さすがは勇者様ですじゃ、ゴールデンキモイの冠がカッコよいですじゃ」ゲソ。

「ゲソ殿、古い書物に書かれてある通り、やはり、コニタンは悪魔にとどめを刺せないのですかな?」大臣。

「古代人の言うとおりならば、黒刀真剣でなければ止めを刺せませぬじゃ」ゲソ。

「国王様、黒刀真剣をコニタンに渡してみてはいかがでしょうか?」大臣。

「コニタンにか……」国王。

「ふぉふぉふぉ。試してみるかの」メイジ。

「うむ、やってみよう」国王。

「土魔法!」

 サンドロは魔法を唱えた。地面から土が盛り上がり、膝をついているヤギの悪魔の胴体の約半分までを土が覆い尽くす。ヤギは動こうとするが、動けない。サンドロとアインとカベルは黒刀真剣を持って、コニタンの所へと向かう。


「メエエエエエーーーーーーーッ!」

 近くの地面からモンスターが200体ほど出現する。

「モンスターだ、勇者コニタンをお守りしろ!」兵士。

 兵士たちはモンスターと戦闘を始める。サンドロたちがコニタンの所までやって来て、黒刀真剣を渡す。

「コニタンよ、これを使いこなせるか、試してみよ」大臣。

「何だこの剣は?」コニタン。

 コニタンは鞘から黒刀真剣を抜く。刀から発せられた黒いもやがコニタンの右腕にまとわりつく。サンドロたちは緊張しながらそれを見守っている。黒い靄はコニタンの肩と胸の辺りまでを覆い尽くす。

「何だこの靄は! うぜえんだよ!」コニタン。

 コニタンは刀を地面に投げ捨てた。

「どえーーーーっ!」大臣。

「俺に武器なんていらねえ!」コニタン。

「え、トイレット・ペーパーも武器だろが!」外野で叫ぶすぺるん。

 仕方なくアインとカベルが刀を鞘に戻し、サンドロと共に戻って来る。

「ふぉふぉふぉ、ダメじゃったの」メイジ。

「やはりというか、使い手はコニタンではなかったですな。年齢的に、コマチの子ではありませぬから……」大臣。

「でもなんか、呪いを無効にしてなかった? すごくね?」国王。

「確かに、呪われてもおかしくなかったですね」アイン。

「呪いの靄が、コニタンさんを嫌がってたように見えました」カベル。

「呪いをも寄せつけないのか」大臣。

「キモいから、呪いも逃げていくんですね」素のかおりん。

「……」みんな。


 土に体の半分が埋まったヤギの悪魔は、体を揺らしながら、土からの脱出を試みる。徐々に周りの土が崩れていく。そして、ヤギは何とか立ち上がった。砂埃が舞う。コニタンは手のひらを顔の前にもってきて、カッコよく砂埃から目をカバーする。

「砂が目に染みるぜ」コニタン。

 コニタンはトイレット・ペーパーをちぎって、丸めて、投げる。ヤギはそれを拾って食べる。

「ゥメエエエエーーーーーッ!」

 コニタンはトイレット・ペーパーをまたちぎって、丸めて、投げる。ヤギはまたそれを拾って食べる。

「ゥメエエエエーーーーーッ!」

 ヤギの悪魔は美味しそうに食べている。目の色は黄色に戻っている。

「ヤギの好物は紙だからな」ハリー。

「俺でもそれくらい知っとるわ!」すぺるん。

「誰も、お前が知らないとは言ってない、筋肉バカが」ハリー。

「うるさい、クズ!」すぺるん。

 コニタンは同じことを繰り返す。ヤギも同じことを繰り返す。繰り返し、繰り返し。

「あれを食べてるけど、ヤギの悪魔、何も変わらないぞ」兵士。

「ダメージを受けてるのかもしれんぞ」兵士。

「あれを食べて、ヤギの悪魔が腹を下すとか?」兵士。

 ヤギの悪魔はおいしそうにトイレット・ペーパーを食べている。

「でもよ、だんだん、紙がなくなっていくよな」兵士。

 この兵士が小声で言った素朴な疑問に、コニタンが敏感に反応する。

「おい、そこのてめえ! 今、何て言った!」コニタン。

「え? 紙がなくなっていくって……」兵士。

 コニタンはこの兵士を睨みながら、ドスの利いた声で凄む。

「髪がなくなるだと! まだあるだろ!」コニタン。

「はいぃぃ!? 髪じゃなくて、紙ですぅぅ……」兵士。

 この兵士は、コニタンの凄みとキモさで、気絶した。外野でそれを見ていたすぺるんが叫ぶ。

「ブサイク! しょうもないこと言うな!」すぺるん。

「そんなこと言ってる暇があるなら、攻撃しろ! ブサイク野郎!」どSのかおりん。

「誰かが俺の噂をしてやがる。有名になるということはこういうことだ」

 キザなセリフを言ってカッコよくポーズを決めるカッコよくないコニタン。

「メエエエエエーーーーーーーッ!」

 隙を見て、モンスターを呼ぶヤギの悪魔。モンスターが200体ほど出現する。同時に、目の色が赤に変わり、ヤギの悪魔は兵士たちに向かって走る。

「うわあぁーーっ!」兵士。

「来たーーーーっ!」兵士。

 ヤギは角で数十名の兵士をふっ飛ばす。

「おい、余計なこと言うからだぞ!」すぺるんとかおりんを叱るハリー。

 ヤギの悪魔は兵士たちの中を走り抜けていく。

「おわーーーーっ!」兵士

 何十人もが一度にふっ飛ばされる。

「デカいヤギめ、俺を無視するとは、いい度胸だぜ」コニタン。

 コニタンはトイレット・ペーパーをたくさんちぎって、丸めて、力いっぱい投げる。すでに数十メートルも離れたヤギの側までトイレット・ペーパーは飛んでいく。ヤギの悪魔はそれを拾って食べる。

「ゥメエエエエーーーーーッ!」

 ヤギはおいしそうにトイレット・ペーパーを食している。

「うむ、ヤギの悪魔がダメージを受けてるようには思えぬな」国王。

「……あの勇者の剣では、ヤギの悪魔の気をそらすだけで、やはり倒すことは無理ですな」大臣。

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