第36話 コング・オブ・コメディ
少し時間を戻そう。ジャポニカン軍の陣営に金さんが到着した。賢者にジョブチェンジした金さんである。紫のローブを
「重役出勤だな」すぺるん。
「もっとカッコよく言ってくれ。天才は忘れた頃にやって来るとな」金さん。
「やっぱ、知的キャラに変わってる」ハリー。
サルは地面を転げ回って、火の粉を払っている。この好機を逃さずに、マジョリンヌは鈍足魔法を唱えていた。サルの悪魔の足に薄黒い
「これでずいぶんとマシに戦えるねえ」マジョリンヌ。
サルの悪魔は立ち直り、周囲を見渡している。アインとカベルは、コニタンとドロシーの前に立って守っている。
全員が出方をうかがっている状況だ、もちろんサルの悪魔も。
「
「はい、ここに」金さん。
金さんは紋章入りの大きな皮の袋を差し出した。
「ふむ、ご苦労。わしが預かろう」国王。
ノダオブナガが三種の神器を受け取った。そして、金さんはメイジ大神官とサンドロから現状の説明を受ける。想像してた以上の事態に、金さんも驚きを隠せないようだ。
「三種の神器があるのに、コニタンが気絶したままでは意味がない。起きてもらわねば」大臣。
「ヴキーッ、ヴキーッ」
「おい、怒っとるな」アホ雉。
シタインがひょこひょことハリーの方へ歩いて来る。
「ハリー、ごめんやで。サルの悪魔相手に、僕には何もできひんわ」シタイン。
「いいんだ、シタイン。お前は休んどけ」ハリー。
「セサミンがハリーのことを助けてくれるやろな」シタイン。
「準備してるけど、サルの悪魔よりも速く動くことはできない」セサミン。
「そうか、仕方ない。おい、筋肉バカよ、俺にはドロシーとのバラ色の未来がある。しかし、お前にはない。だから、試しにその刀で攻撃してみろ」ハリー。
「ほざけ! クズが!」すぺるん。
「こういう危険の極致的な状況下では命に優先順位があってもいい。爽やかでもイケメンでもない上に、十三股をやらかした汚れのお前の命は下のほうだ」ハリー。
「ほざけ! 俺ら同じキャラだろが!」すぺるん。
「違う!」ハリー。
「ウキッウキッ」笑うサル。
「おい、やっぱ、笑ったで」アホ雉。
「アホ雉、お前の不細工な顔を笑ったんじゃないのか」ハリー。
「いや、違うがな。ハリーとすぺるんの寒いギャグで笑ったんやで」アホ雉。
「……あり得るな……」大臣。
「つまり、笑わせておけば、攻撃してこないっていうことですか」かおりん。
「おい、金さん、漫才やるで」アホ雉。
「私はもう漫才をできるキャラではない」断る金さん。
ハリーはマントの中をごそごそと何かを探して、そして取り出した。ちょんまげかつらだ。
「金さん、このコント用のかつらを使ってくれ」ハリー。
「お前、何でそんなの持ってんだ!」すぺるん。
「あらゆることを想定しておくことこそ、プロだ」ハリー。
「何のプロだ、こら!」すぺるん。
嫌がる金さんの頭に、かおりんがかつらをかぶせた。アホ雉がサルの悪魔の前に恐る恐るきて、金さんを手招きする。そして即行で喋り始める。
「はーい、どうもー、不細工漫才コンビのハビエールです。いやーしかし、あれですね。昔の人の教えって大事ですよね」アホ雉。
金さんはすごく嫌そうだ。しかし、周りのギャラリーが、“行け、行け” と手で合図を送っている。アホ雉は一人で何とか話を続けている。最早漫才をしなければ私刑に遭ってしまいそうな空気がその場を支配していた。そのため、金さんは渋々、アホ雉のとなりへ行って、漫才を始める。
「三本の槍の話、有名やな」アホ雉。
ギャラリーから槍が三本飛んでくる。
「ああ、あれか。試しにやってみよか。槍は三本重ねたら、ほら、全然曲がらへん。でも、槍が一本だけやったら」金さん。
金さんは全筋力を使って槍を曲げようとするが、全然曲がらない。
「うぉーーーー! ほら、鉄の槍やから、一本でも全然曲がらへんわ」金さん。
「三本でも一本でも一緒やんけ」アホ雉。
「違うがな、思いやりがないから、曲がらへんかっただけや」金さん。
「ほんなら、思いやりを込めて曲げてみいや」アホ雉。
「うぉーーーー! あかんわ、曲がらへんわ」金さん。
「思いやりがないんやろ」アホ雉。
「いや、思いやりと違うて、重い槍やったわ」金さん。
「どうも、ありがとうございましたー」アホ雉・金さん。
全員が漫才よりも、それを見ているサルの悪魔に注目していた。
「ウキッウキッ」笑うサル。
全員が静かにガッツポーズをした。
「ウケたぞ」すぺるん。
「となると、次は爽やかイケメンの出番だな。ビクター、やろうか」ハリー。
ハリーは自信満々にアホ雉と金さんの方へ歩いて行き、手で二人に “どけ” の合図をする。アホ雉と金さんはハケていく。そしてハリーは一人で喋り出す。
「爽やかイケメン漫才コンビ、フランシスです! 最近思うんだけど、爽やかイケメンであることは罪だ。爽やかイケメン罪だな」ハリー。
ビクターがみんなに押されて、無理やり漫才に参加させられる。
「あっ、おまわりさんだ」ハリー。
「……ちょっと、そこのあなた、爽やかイケメン法違反で、逮捕する」ビクター。
「いや、待て。ホントにそんな罪あるのか?」ハリー。
「あなたがあると言ったんでしょう」ビクター。
「えー、だったら、あんたも爽やかイケメン法違反だ。逮捕します」ハリー。
「え、ちょっと、逮捕って、あなた一体何なんですか?」ビクター。
「警察です」ハリー。
「お互いに警察って、メチャクチャだー」ビクター。
「お互いがお互いを逮捕してもバカみたいだな。だから、見逃してくれ」ハリー。
「不当要求罪で逮捕します」ビクター。
「待て、待て、あんたさっき立ちションしてたよな。軽犯罪法違反だ」ハリー。
「あ、いや、それは見逃してくれませんかね」ビクター。
「不当要求罪で逮捕する」ハリー。
「待て、待て。こんなの、続けてたら切りがないだろ」ビクター。
「どうも、ありがとうございました!」ハリー・ビクター。
「ウキッウキッ」サルは笑う。
全員が再びガッツポーズ。
だが、喜びもつかの間、ネタが切れたら終わりだ。いつまでももつはずがない。アホ雉と金さんは、ハリーとビクターが漫才をしている間に、サルの悪魔を不意打ちしようかと相談していた。だが結論がでないまま、爽やかイケメン漫才コンビの漫才が終わってしまったのだ。
みんなの視線がアホ雉と金さんに注がれる。しかし、もう一度漫才をやるには、気が気でないのだ。
「ウキッ?」
サルの悪魔は不思議そうにキョロキョロしている。そして徐々に目つきが険悪な感じになっていく。
「おい、まずいぞ」すぺるん。
次の瞬間、サルの悪魔はすぺるんに殴りかかろうと真横まで来ていた。サルの速さにほとんど対処できないすぺるん。しかし、アインとカベルが素早く移動して、聖なるダガーでサルを攻撃した。
「ヴキーーッ」怒るサル。
「アインとカベルがいなかったら、やられてたかもしれん」冷や汗をたらすすぺるん。
「瞬足魔法と鈍足魔法のおかげです」アイン。
「感謝はマジョリンヌさんにどうぞ」カベル。
「生きた心地がしねえ。拝んどこ。なんまいだー、なんまいだー、なーむー」すぺるん。
サルの悪魔はすぺるんにムカッとしたのか、上の歯が全部出るくらいに口を横に開けて、高い声で叫ぶ。
「ウーーーーッキッキッキッ!」
周囲の地面から巨大なバッタのモンスターが100体ほど現れた。
「あらら、モンスターが増えた……」かおりん。
「誰か、何とかできんのか」国王。
「アホ雉、もうネタがないのかよ!」すぺるん。
「そうや、もうネタがないねん。そやから、もう寝たいわ。もう寝たいわ」アホ雉。
「寒っ」かおりん。
「氷結魔法!」アホ雉。
バッタのモンスターの足と羽が凍っていく。
「ウキッウキッ」アホ雉のギャグに笑うサル。
「こいつを笑わせ続けるだけでは根本的な解決にはならぬな」国王。
「コニタンを起こさねば」大臣。
サルの悪魔はアホ雉たちの単調な笑いに飽きたのか、また急に不機嫌な表情になっていく。そして、前線の真ん中の方へ走り出す。
「いかん! 土の里軍と水の森軍の方へ行ったぞ!」国王。
「アイン、カベル!」ビクターが叫んだ。
「私たちは行けません」アイン。
「悪魔が戻ってくるかもしれません」カベル。
「じゃ、あたしが行ってやるよ」
マジョリンヌはすぐにサルの悪魔の後を追って走っていく。しかも速い。
「……あのおばはん、走るの速えな」すぺるん。
「瞬足魔法を使ってるんだろうが、それにしても速いな」ビクター。
「始めからあのおばはんが戦えよ……」すぺるん。
「マジョリンヌは面倒くさがりじゃからな」大臣。
「そうだ、コニタン、起きろ! こら!」すぺるんはコニタンを殴る。
「……」反応がないコニタン。
「殴ったらダメです!」かおりん。
「悪ぃ」反省するすぺるん。
前線の真ん中、ここでは馬上の侍たちが奮闘している。同じく、水の森の部隊も。それに、風の谷の男たちも。その戦場の後方に、サルの悪魔が近づく。
「ウッキッキッキー!」
「ん? 何だ?」兵士。
「何かが来るぞ」侍。
「学生服着てるな」兵士。
サルの悪魔は一直線に、派手な鎧のロクモンジに向かって走ってくる。
「ウッキー!」
サルの悪魔はジャンプしてロクモンジに飛びかかる。あまりの速さに防御が遅れるロクモンジ。
「国王!」侍。
周囲の侍たちも間に合わない。しかし、馬の陰から黒装束の男が飛び出して、サルの攻撃を刀で防いだ。
「国王、お怪我はありませぬか?」
「ああ、大丈夫だ。五臓」ロクモンジ。
忍者の五臓が国王の護衛としてすぐ側に控えていたのだった。サルはクルクルと回転しながら着地し、怒りの表情を見せる。そこへマジョリンヌが走って来た。
「気をつけな。そいつはサルの悪魔さ」マジョリンヌ。
「何! 悪魔!」侍。
「素早さが異常ですな」五臓。
風の谷の屈強な男たちが丸太を振り上げながらサルの悪魔を取り囲む。そして丸太で攻撃する。サルはひょいひょいと攻撃をかわす。サルは男たちを攻撃する。男たちはぎりぎり攻撃をかわしたりするが、数人がサルに引っ掻かれた。
「クソっ、速すぎるぞ」風の谷の男。
「丸太ではその悪魔に適さない。我々がやろう」侍。
侍たちは馬から降りて、サルを取り囲む。そして一斉に攻撃する。サルはぴょんぴょん飛び跳ねながら攻撃をかわしていく。それからサルは反撃する。侍たちは刀でサルの攻撃を受け流していく。サルは全く疲れる様子などなく、まるで楽しんでいるようだ。一方の侍たちは疲れを隠せない。サルは侍たちの肩や頭に乗ったりしながら、翻弄する。
「速すぎる!」侍。
「攻撃が当たらない!」侍。
サルは馬の背に乗り高い声を上げる。
「ウーーーーッキッキッキッ!」
周囲の地面から、キノコのモンスターとワニのモンスターが100体ほど現れる。
「クソ、こんなに」侍。
サルは馬の背から大きくジャンプする。それを見計らって、マジョリンヌは魔法を唱えている。
「火炎魔法!」
空中では逃げることもできずに、サルの悪魔は炎に包まれて、地面に落下する。
「アヂヂヂヂーーー!」
サルの悪魔は火を消すために地面を転がる。マジョリンヌはそれも見越して、魔法を唱えている。しかし、サルは二の舞を演じることなく、部隊から離れ去るように転がっていく。しかも速く。
「逃げて行くのか」侍。
「よし、増えたモンスターを何とかするぞ」侍。
「あたしはあいつを追いかけるから、後は頼んだよ」マジョリンヌ。
前線の左側、ここでは、虹の軍とキャンディー軍がモンスターと戦闘をしている。虎プーも熊のモンスターとサシで戦っている。
「うおー! 若い頃にボクシングで鍛えた俺をナメるなよー!」
虎プーは熊のモンスターに張り手を数発食らわしてから、四の字固めをキメる。ボクシング関係ねえだろ……。
「虎プーさん、後ろから何かが走って来ます!」兵士。
虎プーは背が高くてスーツを着て目立つ戦い方をしているので、サルの悪魔がロックオンしたのだ。サルは虎プー目掛けて一直線に走って来る。そしてジャンプして虎プーに攻撃する。
「レスリングやってた俺をナメるなよー!」
虎プーは張り手を繰り出す。レスリング関係ねえ……。
「ヴキーーッ」
サルの腕の長さは虎プーの四分の一もない短さだ。なので、反応が遅れたとはいえ、虎プーの張り手がクロスカウンターでヒットした。サルの悪魔はふっ飛ばされて地面に落ちる。
「ん? 何だ? すごく柔らかい何かを攻撃したような感触だ」虎プー。
バキューン!
東森がサルの悪魔を撃った。弾丸は命中したが、サルは何も感じてはいないように起き上がって平然としている。そこへマジョリンヌが到着する。
「そいつはサルの悪魔さ。聖剣か魔法しかダメージを与えられないのさ」マジョリンヌ。
「なるほど、こいつがサルの悪魔か」マゲ髪。
「マゲ髪かい。こいつの素早さはおかしいよ」マジョリンヌ。
「虎プーさんは後ろへ」マゲ髪。
「大丈夫じゃ」虎プー。
「ウーーーーッキッキッキッ!」
周囲の地面からモンスターが100体ほど出現する。
「ちっ、厄介だな」マゲ髪。
「けど、戦わないとモンスターが増えちまうよ」マジョリンヌ。
「ビクター殿かアインとカベルがいなければ太刀打ちできないかもな」マゲ髪。
「あたしらは4Kだよ」マジョリンヌ。
「そうだな」マゲ髪。
「行くよ、マゲ髪」マジョリンヌ。
「ああ」マゲ髪。
二人は火炎魔法を唱えてサルの悪魔を攻撃する。サルは簡単に魔法を避けるが、避けた所で魔法が発動していて、サルは炎に巻かれる。
「アヂヂヂヂーー!」
転がって火を消すサル。そこをマゲ髪が剣で攻撃する。転がりながらそれをかわすサル。しかしそこへ、マジョリンヌの真空魔法がとんでくる。
「イデデデデーー!」
痛がって地面を転がるサル。しかしすぐに起き上がり、マゲ髪に飛びかかる。マゲ髪は左腕に装備した小さな盾でぎりぎり攻撃を防いだ。そしてカウンター攻撃をするが、簡単にサルにかわされてしまう。マジョリンヌがサルに殴りかかる。サルは簡単にかわす。マゲ髪とマジョリンヌは魔法を唱え始める。それを見たサルは、しかめっ面でその場から走り出す。
「おっ、逃げよった」虎プー。
「あたしが追うよ。マゲ髪、後はよろしく頼むよ」マジョリンヌ。
サルの悪魔はジャポニカン軍のいる前線の右側へと走って行く。マジョリンヌが追いかけていく。
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