第五話 人形は恐いモノなのか?
今回は、ほぼ金縛り要素なしですが、ちょいと話繋がりで書いてます。
高校の頃、漫研の先輩に少し変ってらっしゃる方がいらした。
どこか飄々としていて、実年齢18歳なのにすっかり落ち着いた雰囲気(外見ではなく)、それでいて夢見る少女な面も同時に持ってらした。
猫が大好きで自宅に当時8匹の猫を飼って、キャットルームと呼んでいた猫たち専用の部屋は、ちょっとしたプチ猫カフェのようだった。
猫たちはその部屋以外にも家の中を自由に歩き回っていたが、唯一入らなかったのが2階のある一部屋だった。
そこには一組の雛人形がいるらしい。
掃除などしていると、その男雛のほうが女雛に向かって、何やら小声で話していることがあるのだそうだ。
それは子供がコッソリ囁くようなとてもコショコショした小さな声で、何を話しているのかまでは聞き取れないらしい。
まるでミツバチの囁きのように。
そうしていつでも男雛が話しているだけで、女雛は話さないらしい。
先輩はいつもそれを聞くと、自分にも話しかけてくれないかなあと思うのだそうだ。
今考えるとその男雛は、本当は先輩に話していたのではないかと私には思われる。
何しろお人形同士で話すのなら、わざわざ声に出さなくても通じそうだから。
それに彼らが声を発するというのは、エラく大変な事なのだそうだ。
物を動かすというエネルギーもそうだが、何しろ声帯がないから、代わりの何かを代用しなくてはいけない。
だから振動させる部分の素材などによって、声の質も変ってくるのではないだろうか。
そう考えるとぬいぐるみなど、布製タイプはなかなか難しそうだ。
逆に昔のブリキのロボットとかだと、音が出しやすそうに思えるのは安直だろうか。
とにかく当時の私は『さすが先輩、普通とは違う』と感心したものだった。
以下はあくまで夢の話なので、話半分に読んで欲しい。
******
ある頃、夢にチラチラとお人形が出て来るようになった。
場所は自分の部屋なのだが、日本人形の女の子がチラッと視界に入る。
そうして何故か満面の笑みを向けてくるのだ。
我が家には元からそういう日本人形は置いていないし、見知らぬ人形に少し怖さを感じ、あえて見ないようにしていた。
そんなある日、夢に現れた妖精さんにふと訊いてみた。
「最近、知らない赤い着物を着た日本人形を見るんだけど……」
すると彼は「ああ、それはね――」と、さも普通に答えた。
エッ!? 知り合いだったのっ?! 気がつかなかった!
君の答えはいつも予想の斜め上に来るなあ。
まさかお友達が来るとは思っていなかった。
とにかく知り合いという事で、正体もわかったし、その事はまた気にしないことにした。
しかし話はそれで終わりではなかった。
名前を聞いたことで、見知らぬ人形ではなく、知っている者になった。
紹介をされたことで、今度は堂々と彼女は会いにやって来たのだ。
ある晩、夢で私は自分の風呂場にいた。
ウチのは『二点セパレート』タイプなので、洗面所が風呂場にある。
その洗面台の横、正面の壁にいつの間にか縦に亀裂がパックリと開いていた。
覗いてみると内側は配管らしきパイプが通る狭い空間で、何故か右の手前に市松人形が壁に横向きに張り付いてる。
薄暗い奥にはもう一体いるようだが、黒い人型としか判別出来なかった。
なんでこんなとこにお人形が?
普通ならおかしい状況なのだが、夢なのでぼんやりそう思っただけだった。
するといきなり、その亀裂から女の子が横向きに顔だけ出してきた。
それはとてもスマイル顔で、目や口が一般的日本人形では見た事ない、三日月型になっている。
そうしてニコニコと、喋り方に合わせて首を動かした。
この時、残念な事に何を言われたのか覚えていない。
一瞬頭の中が白くなってしまったようだ。
ただ、『
申し訳ないが、友だちと聞いていたのにも関わらず、私はこの時 一気に現実的に恐怖を感じてしまっていた。
私も多くの日本人同様、『日本人形=恐い』という漠然とした恐怖が植え付けられている。
ほとんどの人が小さい頃からの刷り込まれているアレだ。
「ド ド ドッ どっ、どう――」
人間、本当に恐いとどうも
すると急に誰かが、彼女を後ろから引っ張ったらしく、首を亀裂に引っ掛けて短い悲鳴を上げた。
その様子にまたこちらもビックリ。
ただ、どうやら後ろにいたのは妖精さんだったのではないかと今更ながらに思う。
会わせたはいいが、私の反応が予想外に怯えているので、マズいと思ったのではないか。
それで慌てて引っ込めようとしたのじゃないだろうか。
とにかくこの夢はこれで終了した。
どうやらもう1人のコも夢に一度来たようだが、あまりに普通の夢だったので、印象があまりない。
やはり日本人形のインパクトに勝るものはないのだ。
本当に申し訳ないが、日本人はそういう変な畏怖を自ら作り上げて刷り込んでいるのだ。
まるで国民性の呪いのように。
が、まだまだこれで終わらなかった。
次はまさしく絵面からして典型的なホラーな出方をして来た。
同じ子かはどうかはわからないし、先の話とは関係ないただの夢かも知れないが、何故かこの頃、やたらたて続けにお人形の夢を見た。
目が覚めると、自分の部屋で寝ていたはずの私は、何故か知らない部屋に布団を敷いて寝ていた。
ガランとした事務所の空き部屋といった感じの部屋には何もなく、天井にはシンプルな直管蛍光灯、左側に幾つかのカーテンもない四角い窓が並んでいて、外から入る他の建物の明かりが内部を仄暗く照らしていた。
上体を起こそうとすると、体がほぼ動かない。
顔だけ動かせたところでまた固まった。
たぶん『ウワッ!』と声も出していたかもしれない。
足元の方に着物を着た人形が立っていたからだ。
日本人形――暗がりにも笑っている表情がよく分かるのだが、はたしてこの間と同じ子かどうかはわからない。
何しろその人形は、半分焼け焦げていたからだ。
左半分はおかっぱ頭、右半分は焼け落ちて黒い坊主頭になっている。着物もそんな感じで半分ボロボロだ。
そして三日月のように笑っている。
低く籠った声で何か喋ってきたが、全然頭に入って来ないというか、覚えていない。
藻掻くとすぐに金縛りは解けた。
ガバッと起き直って、私は彼女をまず刺激しないようにしようと思った。
距離もあるし、私だって何でもかんでもパンチするだけではない。
それでつい出てきた言葉がこれである。
「……済まないが、君とは友だちになれそうにない……」
だって恐いんだもん。
すると急に人形は肩を落とすように
「……そうか」
声も落とした。
何? なぜそんなにガッカリする?
もっと違う反応するのかと思っていたので、意外だった。
彼女はすすっと窓際の方に行って外を見ると
「あのバスはどこに行くの?」
さっきとは全然違う、子供らしい声で訊いてきた。
姿も半焼けではなく、普通の状態に戻っている。おかっぱ髪も左右ちゃんと揃っていた。
普通の姿出来るのか。
ならなんで、そっちの方の姿でまず現れない?!
もうあ
口には出せなかったが、私は心中でそう思った。
窓を覗くと街灯に照らされた道路、斜め向かいのビルの前にバスが1台止まっていた。
見える感じからしてここは4,5階くらいか。
「う~ん、多分○○辺りじゃないかな……」
私は目が悪いし、バスの行先はよく見えなかった。
ここがどこかまず分からないのに、何故か知っている場所のような気がして、つい憶測で言ってしまったが。
するとお人形は、うんしょと窓枠に両手と足をかけて登ると、窓から出ていった。
目が覚めてから、謎が残った。
もし悪意があるとしたら、ますます付け上がったりするんじゃないのか?
だが断ったら意外とすんなり帰っていった。
そう考えると声も低くドスが利いていたが、昔聞いた底から湧きあがるような恐ろしい響きではなかった。
脅す気がないなら、始めからあんな姿で出て来なければいいのに……。
やはり人と感覚が違うのかなあ。
まあ夢だから、辻褄が合わないのは当たり前なのかもしれないけど。
などと思っていた。
しかし最近になってふと、あれは『演出』だったのではないかという考えが浮かんできた。
彼女の姿はホラー映画さながらに半分焼け焦げていたが、右側半分のみ、それも確かすっぱり左右に線を引いたように分かれていた。
まるで『あ〇ゅら男爵』みたいに。
普通あんなにキッチリと分かれて焼けたりしないだろう。片面だけといえ、もっと混ざっているはずだ。
つまりワザとそういう姿にしたのじゃないか。
だがなんで?
友だちになりたかったんなら、何故あんな真似をする?
それとも軽く驚かせるぐらいのつもりだったのか。
と、そこで思いついた。
彼女は私が怖いモノ好きだとでも思ったのではないのか!?
だからワザと恐いモードで出てきたと。
そのほうが喜ぶのじゃないかと。
確かに私はマンガや映画など、ホラー、オカルトを見るのは好きである。
ジェイソンもフレディ・クーガーも、どこか憎めないキャラだし、エンターテインメント性があって面白い。
以前、夏限定で某遊園地が、夜だけ『ホラーナイト』と称したお化けだらけのテーマパークになるイベントに、喜んで何度も行ったものである。
ゾンビとフィーバーしたり、油すましを追いかけたり、色々と本当に楽しかった。
ネズミランドの感想と一緒で、もう帰りたくないくらいだった。
いや! いやいやいや、だけど誤解である。
アレはみんなフィクション、本物じゃないのよ。
みんな偽モノとわかってるから楽しめるのだよ。
中には本当に好きな御仁もいるだろうが、少なくとも私はリアルは駄目なのだよ~~っ!!
思い返すと、ダウンタウンの松ちゃんの罰ゲーム『一人ぼっちの廃旅館』にハマって、何回見てもゲラゲラ笑ってた。(鬱の時にどれだけコレに救われたことか)
まさかこういうのが好きとか……思われてた?
好きだけど――いや、見るのはいいけど当事者になるのはアカンのよぉっ。
確かに人が怖がってドタバタしてるのを見て、大笑いしていた私もずい分な奴なのだが。
…………何か勘違いされてる気がする……。
あらためて考えてみると、やはり彼女は恐がらせる気はなかった気がするのだ。
すぐに金縛りは解けたし、その間に襲って来たりしなかった。
もしかするとそれも、彼女が仕掛けたのではなく、何か通常とは異なった波長(?)にあった時の、私の体の誤動作――こむら返りのような――反応だったのかもしれないのでは??
全てはあくまで推測だが、とにかくあのガッカリした様子に、恐かったよりもちょっと可哀想な印象が残った。
けれどこの話を友人にすると、そこで同情してはいけないと言われた。
そうやって情をかけてしまうと、頼って来るのだから。
はい、そうなんですよ。
助けられないのに、中途半端な情けはいけないのです。
恐怖と情を天秤に掛ける前にスッパリと切り捨てる。
これはなかなか悩ましい問題だ。
話が少しズレるが、良かれと思ってやった行為が相手に拒絶されるとかなり辛いものがある。
映画『人形霊』で、喜んでくれると思っていたのに、実は
人と人でないモノ、考え方の相違で、本当にこんな悲劇がありそうだなと思ったものである。
そんな夢を見てからしばらくして、また彼女は現れた。
いや、同じ子かは確証がない。
悪いがもう日本人形は、みんな同じに見えるからだ。着物も赤系としか覚えてないし。
名前を確認しておけば良かった。
どこかの駅の待合室らしき部屋のベンチに座っていた。
隣には赤い着物を着たおかっぱ頭の小さな女の子が座って、オニギリを食べている。
辺りは昼間らしく、開いたガラス戸から光が入り待合室の中は明るかったが、私たちの他には誰もいない。
そうして何故か、そのオニギリは私があげたらしかった。
彼女は前を向いたまま、その小さな口でモソモソと食べている。
今度はあくまで大きさ的にも幼い可愛らしい顔をした子供の姿だ。
何も妖しい雰囲気はない。
ただなんとなく、人じゃないなとは感じられた。
横顔からうかがえる、肌の質感というか、まずその真っ黒い大きな瞳がずっと瞬きをしないのだ。
そこからしてお人形感が漂う。
が、私はまた別の事も考えていた。
あげた(らしい)オニギリは、乾燥していてボソボソしていたのだ。
こんなボソボソオニギリ、喉につかえて食べづらくないかな。
そこが気になって、つい訊いてしまった。
「お茶飲む?」
「飲むぅ」
無表情だが、嬉しそうな可愛い声で振り向いてきた。
コミュニケーションが成り立ってしまった。
そのせいか、またまた、彼女らしき子が現れた。
今度はどこかのガランとした教室である。
またもや私と彼女しかその場にいない。
綺麗に整列した机と椅子のみの風景が放課後の教室を思わせるが、電気はついていて十分明るい。
もう何を話したのか覚えていないが、こう何度目かになると流石の私も少し慣れてきた。
というか、もういい加減慣らされたのか。
それに相手も悪意はないようで、普通の子供のように振る舞っている。
やがて彼女は話して満足したのか、
「じゃあもう行くね」と、トコトコと壁の方に歩いていった。
戸口でも窓でもなく、後ろの壁にである。
最後ぐらいは優しい言葉をかけようと思った私は
「うん、元気でね」とその背に言った。
彼女が振り返って、自然な笑顔を向けてきたのが印象的だった。
それからもう本当に出て来なくなった。
これで満足していったのだろうか。
まあ、そうしてもらわないと、こちらもいっぱいいっぱいなのだが、彼女はただ人と話したかっただけなのかもしれない。
それで思い出したが、彼女は私が
それでなのか?
以前テレビで『ハリセンボン』の2人がお寺にて、そこで預かっている生き人形たちと遊ぶという企画があった。
そこの住職さんが
「お人形は元々、子供の玩具なので遊んでもらうと喜びます」とおっしゃっていた。
そういう事だったのだろうか?
最早推察の域でしかないのだが。
ただ、霊能者さんに、始めの風呂場で会った子の事を訊く機会はあった。
「なんだか悪意はない感じでしたが」と私が言うと
「それはそういう子しか入れないように、彼が選んでいるから」
つまりウチの妖精さんが、私に悪影響を及ぼしかねない友だちは連れて来ないらしい。知らないところで気を使ってくれていた。いつも有難う!
感覚はちょっと違うが、理解はしてくれているのだね。
そうしてもう何年も現れない。
久しぶりに来たと思ったら、あの『*フォール』だったが……( ̄▽ ̄;)
(第四話 『金縛りとフォールはやっぱり違う』)
人間社会でも色んな人がいるように、彼らも千差万別。
当たり前かもしれないけど、良きも悪しきも色々いるのだ。
だから『人を見たら泥棒と思え』と、確かに注意は必要だが、一概に
大体、日本人形たちだって、昔は子供の玩具、身近な遊び相手だったのだ。
庶民にどこまで手が届いたかはわからないが、いわゆるリカちゃんやバービーみたいに愛される存在だったのでは。
中には守り人形というのもいたようだし。
その頃はこんな風に全般に怖がられてはいなかっただろうに、情報社会になった現代、あっという間に一部の良くない噂だけが広まって定着してしまった感じ。
もう風評被害なのだろうなあ。
彼らは彼らなりの
ある意味、自然と人の関係のように。
またまた別の人の引用で申し訳ないが、
あの『事故物件芸人』として有名な松原タニシ氏は、曰くつきと言われた市松人形を2体譲り受けたそうだ。
彼らは引き取ってくれたお礼に、タニシ氏を売れるように応援しているらしい。
なんとも微笑ましいものである。
蛇足だが、部屋の掃除はマメにしなくてはと、ズボラな私も今回の件で感じたものだ。
もう姿も見ないで十年近いが、どうやら霊能者さんに聞くとまだ遊びに来ているようだし、それなら部屋が散らかっているのはなんだか恥ずかしい。
(汚部屋にはしてないが)
こんな感じで何故か最後にポジティブ思考にしてくれる彼ら。
他にも英語のススメなどがあったが、それはいつか別のエッセイで話そうと思う。
何しろほぼ奇妙な話ではなく、社会人からの英語チャレンジのリアル話だから、このシリーズには合わないだろう。
ちなみに私は中学一年で英語は脱落した。(要らない情報)
とにかくあくまで私個人の体験、考え方なので、まあこんな事もあるというぐらいに思ってやってください。
それにどうも私の偏った体験からは、どうしても人でない者達より、生きていても死んでいても、人の方が恐いと感じる事があった。
それはいつか話して浄化させたいと思う。
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