第四話 金縛りとフォールはやっぱり違う


 今回はあまり怖くない話を。


 私の霊感能力は弱いというか、中途半端なので、視えるのは寝ている時かうつらうつらしている時が多いようだ。

 夢の中で睡眠薬を盛られたようにすっごく眠いときがあるのだが、そういう時は大抵変な夢だ。


 この間も朝方に、知らない女の子に『起きてえ』と声をかけられた。

 お盆前後ということもあるのだろうか。


 テレビでやっていたFBI超能力捜査官の中には、寝ながら夢で探るという方法を用いる男性もいたので、そういう能力もありなのだろうが、私のは多分視る力が弱いのだと思う。


 現実では視えないが聞こえたり、感触を感じることのほうが多い。

 空耳ではなく、相手が枕元――棚や荷物で人が立てるような隙間がない場所――にいて会話もし、ハッキリした感触もあるのに全く見えないという事もあった。

 結局どなたかわからないままだったが助けて頂いた。その節は有難うございます。

 この話もまた不思議話としていずれ話したい。


 白昼堂々と視えたのは、ここ数年のことで『初めて幽霊を見た日』に書かせてもらった。

 普通年を取ると霊感も無くなるとかいうが、ホントに遅咲きである。


 なので現実での体験を1つ。


 10年近く前の休日のある日、私は自分の部屋で昼間からゴロゴロしていた。

 本を読んでいたのだが、ちょっとだけ仰向けになりながら目を休ませていた。


 普通はこの状態だと、うっかり寝てしまうと思われるが、私は寝つく時は横向き派なので、仰向けだと酷く疲れてでもいない限り寝入ることはなかった。

 まず仰向けは落ち着かないのだ。

 だからこの時も、うつらうつらもしていなかった。ただ用事もなく、起きるのが面倒でグダグダしていた。


 と、急に胸の上に何か乗って来た。

 ハッと目を開けて動こうとすると、体に力が入らない。金縛りだっ。


 昼下がりの柔らかい陽光がレースカーテン越しに入り、部屋の中は電気を点けずともとても明るかった。

 なのにこの状況。

 明るくとも金縛りはやって来るものだとあらためて思った。

 だから仰向けは嫌なんだよ!

(実際、『睡眠麻痺』の金縛りは仰向けに多い)


 目を動かすと胸の上に何かいるのが視えた。

 

 大きさは一般的な団扇ぐらいか、形は丸い、球状だ。

 そして透明だった。

 しかしそれはただの透明ではなかった。


『プレデター』や『攻殻機動隊』で見た光学迷彩のように、その部分だけが空間が歪んでいるのだが、生はCGとは雰囲気が違っていた。


 なんというか、透明なボールの中に、透明なもやまたは煙が揺らめき動いているような。

 または透き通った比重の違う液体が、いくつも混ざりあわずにドームの中を不規則に廻っているかのごとく。

 とにかくその透明感にも関わらず、圧倒的な存在感を示していた。


(この時に視たモノは、拙作に出て来る『闇』の天使グレゴールの登場シーンに活用させてもらった)


 こいつは元から人じゃない。大きさからしてそう思った。

 何よりもその考えを決定づけたのは、音だった。


 脳が起きてるのに体が寝ている『睡眠麻痺』による金縛りの際、私の場合、耳鳴りがする。

 それはザーーーーというまさしく代表的な雑音だ。

 けれどこの時の聞こえてきた音は全く違っていた。


 ―― ゴウゥゴゥゥ ピュゥーーピュゥゥゥ…… ――


 台風のような強風の音がする。そうしてそれと共に


 ―― バサッ バサバサバサ ――

 

 強風に煽られるシートにも似た音が混じっている。


 ―― ゴウゥゥ ピュゥゥゥ バサバサバサ ゴウピュウゥゥゥ…… ――


 こいつは鳥なんじゃないのか。

 大きさからもそんなふうに思った。

 バサバサは翼の羽ばたく音ともとれる。

 重さも鳩かカラス辺りかと思われるくらいだし。


 視えている形状は丸いが、何しろ人魂はオタマジャクシ型だし、オーブは丸い。

 見た目とは関係ない可能性がある。


 となると、こんな顔のそばにいるのって、危険じゃない? 

 目でも突っつかれたらたまらない。にわかにそんな恐怖が湧いて来た。


 ところが、金縛りと思われた状態は実は完全ではなかった。

 力が入らないというだけでクタクタなのだが、なんとか手などは動かせるのである。

 声もフニャフニャと寝言のような声なら出せる。


「や~めぇ~ろぉおよぉ~~ どぉけよぉ~~……」

 そう言いながら私は、スローモーションで――それが精一杯だった――両手を胸の前で振った。

 だがやはり力無い手はスカスカと、透明な存在を通り抜ける。


 全然あかんっ!

 とにかく金縛りを解くしかねえっ!

 腕だけじゃなく体をもっと動かそうと頑張った。


 すると寝返りをうてた瞬間、音が消えた。金縛りも消えた。

 あのリアル光学迷彩もいなくなっていた。


 バッと起き上がり部屋の中を見回した。

 布団もめくってみたが、当たり前に何もいない。


 あまりにも何も変わらないので、やっぱり実はウトウトしていて白昼夢だったのかとも思った。

 

 後日、友人に話したら『昔飼ってたペットとか?』と言われ、すぐに子供の頃飼っていた手乗りの白文鳥○○ペットの名前を思い出した。

 何しろ以前、その○○がオウムくらいの大きなエメラルドグリーンの鳥に生まれ変わって、ペットショップで売られていたという夢を見ていたのだ。

 

 その時また飼ってくれと言われたのだが、檻に付いている『7万円』という値段に目がいって、すぐに返答出来なかった。

 そこで目が覚めてしまった。

 なぜあの時即答しなかったのか、夢とはいえちょっぴり罪悪感が残っていたのだ。


 おおい、もし本当に○○だったら、追い払っちゃったよ。そうだったらホントに申し訳ない……、などとちょっと落ち込んだりした。


 が、結局○○ではなかったらしい。


 その数年後にプロの方と会った時に、たまたま思い出して尋ねたら、鳥のようだが全然関係なかったらしい。

 

 ○○じゃなくて良かった。

 けど、じゃああの鳥は何をしに来たのか?

「たまたま来ただけみたいよ」

 

 確かに悪さをしてくる感じはなかったと、後になってから思う。私が勝手に突かれると思って、怖がっていただけなのだ。

 なんというか、気まぐれにやって来たという感じなのだろう。  

 それをたまたま私が感知してしまったのか。


 ではあの半金縛り状態は何だったのだろう。やっぱり半分寝てたのか?

 トランス状態? それとも何か影響を受けていたのか?

 ちゃんと(プロの人に)聞いておけば良かったと、あらためて思い出して後悔している。


 さて次はまた夢で申し訳ないが、マウントを取られた話。

 客観的に思い直すと、もう中二病の思い込みなんじゃねえ? って、思われそうだから、話半分で読んでほしい。


 真夜中、自分の部屋で寝ていたら、突然体の上にズンと覆うような重さと手応えを感じて驚いて目を覚ました。

 

 見ると私の上に誰かが押さえ込むように乗っている。

 ――ハァッ!? 強盗っ!!?

 咄嗟にそんな恐怖が走った。


 部屋の中は夜なので明かりの1つも無く、街灯の明かりが薄っすらカーテンを浮かび上がらせているくらいの闇である。

 相手もほぼ影にしか見えない。


 そんな闇の中、いきなり寝ているところを襲われたのである。

 怖いとしか言いようがない。

 しかし様子がおかしいことにもすぐ気がついた。


 普通襲うのが目的なら、平行に『=』体勢で馬乗りに来るものだと思うが、何故か相手は、私の胸・腹・腰の辺り、完全十字クロス型に乗っていた。

 しかも酔っ払いがだらんと力無く倒れてきたみたいに、全く押さえ込んでくる気配がない。動きもしない。


 何、こいつ、強盗じゃないのか??!

 目が慣れてくると、ソイツの姿が全身真っ黒で、顔も服のつなぎ目も全くないだと分かった。

 ある意味全身黒タイツのドッキリみたいだが、横向きの顔には凹凸がなく、印象としては『キース・ヘリング』氏の描いた人物像に似ていた。


 こいつは人じゃねぇ――

 また違う恐怖が湧いてきた。

 

 金縛りではないが、まず体が起こせない。

 頭や首は動くが上半身と両腕の上に見事に乗られてしまい、体が起こせないのだ。

 もう完全に不意打ちフォール、押さえ込みだ。


 だが、足はバタつかせることは出来た。両膝を引き寄せて一気に踏ん張る。

 

 ドっせぇ~いっ!!  

 一気に相手を転がしどかすと、飛び起きた。

スリーカウント取られたが、幸か不幸かレフリーはいない。まだ終わってねえっ! 

 なんてこの時考えてる余裕はなく、すぐさま転がった相手に布団を引っ掛けて、私は上からボコ殴った。


「このっ ナムアミダブツッ ナムアミダブツッ!!」


 普通ここは九字かお祓いのお経だろうが、もう完全にパニックになっている私は、何故か南無阿弥陀仏を叫びながら布団をボコボコに殴っていた。

 なんとも激しい南無阿弥陀仏である。

 阿弥陀如来様、すいません……。


 と、急にヒュルヒュルと布団の盛り上がりが小さくなっていった。

 んっ、私はそこでやっと布団をめくった。

 

 するとそこにいたのは――

「――君かっ?!」

 布団の中から現れたのは、たまに夢に現れる馴染みのさんだった。


 国や地域によって言い方は色々あるが、私の括りでは神様仏様、人霊、動物霊以外で悪意が無いのはざっくり皆『妖精さん』である。


 妖怪や物の怪、何々霊とか言うと怖い気がするが、『妖精さん』と言い直すと、他の方も仰ってたがなんだか親近感が湧く。

 未知のモノに対する恐怖よりも、不思議な一種のエキゾチックな好奇心を呼び起こす対象となるのではないだろうか。


 彼はちょうど先の『鳥』プチ金縛り事件があった頃から、夢によく出て来るようになった妖精さんの1人だったが、ある頃からほぼ姿を現わさなくなっていた。

  

 人にも色々な性格があり、それは人ならぬ彼らにも個性がある。

 プライバシーを軽んじられる事が好きではない者も少なからずいる。


 鉱山に棲むという有名な妖精ノッカーも、その姿を見られるのを嫌い、その姿を探ろうとすると、怒ってその洞窟からいなくなってしまうという。

 ノッカーは鉱山の座敷童的妖精で、いなくなると鉱脈が枯れてしまうから、決して姿を見ようとしてはいけないとされている。


 彼もある日怒って口を利かなくなり、やがて姿を見せなくなった。

 実はその頃、この夢が面白くてよく人に喋っていたのである。

 どうやら彼は自分の噂をされるのが嫌いだったようだ。

 ぺら子お喋り女で申し訳ない……。


 とにかく、それから数年経って、いきなりのこれである。

 おぉ~い、久しぶりでこれかよ?!


「何してんのっ?」

『ワルい、間違えた――』

「なっ?!」

 間違えたとはナニ? 相手を? それとも加減を??


 ――おそらく力加減を間違えたのだろう。

 以前からこちらが寝ていると、布団に飛び降りて来たり、指を掴んで来たり、よく驚かされたものである。


 私が「うわぁっ どうしたっ?!」とビックリして目を覚ますと、素早く逃げたりするのだ。それを見てまた「ええっ!?」と驚いて起きるパターン。

 まさしくイタズラ好きの妖精さんだ。

 当時はそれなりに小さかったのだが、今回はまた大きくなったものだ。しばらく見ないうちに力をつけたようである。


「それはわかったけど、押さえ込みはやめてよ」と言うと、

 彼は笑って頷いていた。

(一応言っとかないと、ウケるとまたやりそうなので)


 上記のような事があって、あまり彼の詳細は伝える事は出来ないし、細かく言うと一般の妖精さんの括りではないと思うのだが、私にとってはあくまで妖精さんなのでここはこれでは通そう。


 それにこれらはあくまでも私の中二病の妄想と思っていた。

 気配はたまにあったけど、ほぼリアルな夢のなかだし。


 が、後日、別件でお会いしたプロの方になんとなく尋ねて、妄想じゃなかったことが判明。

 私が確認している人数を当てられた。(複数いる)

 ただの夢じゃなくて、本当にいたんかいっ!


 とすると、錯覚とか思っていた事や、空耳アワーと思っていたのは、アレはみんな本当だったのか。

 目が覚めた瞬間、顔のそばから何かが離れたように、低反発枕の凹みが戻っていったり、夢での会話も予想の斜め上を行く事もあったりしたが、どれもこれも筋道が通っていた。

 

 プライバシーを守らなくてはいけないのに、何故今回このエピソードを出したかというと、まあ喋りたいというのもあるが(ホント申し訳ない💧)、やはり一般的『物の怪=怖い』というイメージを払拭したかったからだ。


 彼らこそ本当の『素敵な金縛り』――金縛りバインドはしないけどフォールありだけど(笑)陰湿さはない。


 純粋ピュアで明るく、少し悪戯好き。

 知性もあるから、こちらが怒ると同じことはしない。何をやってはいけないのかはちゃんとわかっている。


 だから彼らも怒って正当に文句は言うが、悪さはしない。いなくなるだけ。

 どこぞのカッとなって、言葉より先に暴力で訴える人間とは雲泥の差である。

 あくまで私個人が会った印象だけど。


 地上をウロウロしている人霊は者が多い。

 本人には悪気が無くても、生きてる人にあまりいい影響は与えない。

 何しろ成仏していない人は、どうやら生者の生気エナジーを欲っしてしまうようだから。

 以前体験したその話は、またの機会にさせてもらいます。


 ただ、妖精さん達は別にそんなモノは要らないみたい。

 何しろ彼らは生きているのだから。


 フランクで気さくで、少し感覚が違うなあと思うところもあったが、それがまた面白い。

 おかげで一杯ネタをもらった。

 

 彼らからした悪気もなく何気ないことが、人の身としては『ほん怖』になってしまう話もあった。

 だがそれも、彼らではなく人間に置き換えると、『ヒッチコック劇場』的なサスペンスになる。

 

 うおお、落ちネタを有難うっ! いつか短編とかに使わせてもらうよ。

 

 また真夜中、地震(震度4)が来る前に起こしてくれた。

 頭の上に重い本棚、その上にペン立て、ハサミ入りだったので落ちてきたらヤバいとこだった。


 気まぐれだけど、特に見返りを求めるわけでもなく助けてくれる。

 出来ればお礼に――逆にお礼にならないのかな――この話もいつか語りたいのだが駄目だろうか……。


 実は他にも助けて下さる方達がいらっしゃるのだけど、妖精さんなんて言ってはいけないような格の方もいるので、どこまで話していいのやら。

 

 でもそちらもしっかりネタ頂きました。使わせて頂いております。どうも有難うございます!


 そんな素敵な隣人もといガーディアン達。

 本当は気がつかないだけで誰のまわりにも、こんな素敵な方達がいるはずなのだ。

 

 ただ、やっぱり人ならざる者たち。

 習慣が違えば考え方が違う。ましてや住む世界どころか人でないのであれば――

 次回は、そんな違いも含めて語ります。

 

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