自称美少女祓い屋JK、火村悟里の事件簿(笑)

無月弟(無月蒼)

自称美少女祓い屋JK現る。

 始業ベルが鳴るまで、あと5分。

 夏が近づく6月の朝、あたしはセーラー服とスカートを翻しながら、学校へと続く道を全力で突っ走っていた。


 今日はすっかり寝坊してしまって、遅刻ギリギリ。

 昨夜は遅くまで起きてたから、目覚ましが鳴ったことにも気づかずに、ついつい寝過ごしちゃったんだよねえ。


 それでも目が覚めてからすぐに家を出たら、こんなギリギリにはならなかったんだけど、しっかりと朝食を食べたせいでこのあり様。

 だってそうでしょ。育ち盛りの女子高生が、朝飯抜きで授業なんか受けられるかっての。

 お腹か空いた状態で授業を受けたって、内容なんて頭に入らないじゃん。それよりは、例え遅刻しようとしっかり食べてから授業に望んだ方が利口ってわけよ。

 まあそれでも、ご飯をおかわりしたのはさすがにやりすぎだったかな?


 そんなことを考えている間にも、橋を渡り、横断歩道を渡り、学校までもう少し。

 これなら、何とか間に合いそう。

 そう思ったその時、前にあった電信柱の陰で、不意に何かが動いた。


「にゃ~」


 って、何だ猫か。


 それは、白と焦げ茶色の毛並みをした、普通の小さな猫。ただお腹からは血が流れていて、内蔵が飛び出ているのを除けば。


 見ていて痛々しいねえ。

 普通こんな状態で、生きている猫なんていない。そう、いないのだ。

 ではあたしの目の前にいるこの猫はいったい何か? 答えは簡単。

 この子は大方、車に轢かれでもした猫の幽霊だ。

 さっきから霊的な波動を、ビンビン感じるしね。


 おっと、霊的な波動なんて言ってるけど、決して中二病的なアレじゃないぞ。

 何を隠そうあたしは……。


「にゃ~ん」


「痛いよー」とでも言いたげに、猫がもう一鳴きする。

 できることなら、今すぐ痛みから解放させてあげたい。けどごめん、こっちもこのままじゃ遅刻しちゃうの。

 帰りには何とかしてあげるから、今は……。


「にゃ~ん、にゃ~ん」


 ええい、分かった分かった。そう恨めしげにこっちを見るな。

 あたしはため息をつきながら立ち止まると、猫に向かって屈んで、そっと手をかざす。

 そして……。


「心に風、空に唄、響きたまえ──浄!」


 呪文を唱えると、かざした手から光が広がる。

 すると傷ついていた猫の体が、みるみるうちに治っていった。


「にゃにゃっ!?」

「大丈夫、怖くないから。お前は向こうで、穏やかに暮らすんだよ」

「にゃー」


 光に包まれた猫の体は、まるで霧が晴れるみたいに、徐々に薄くなっていく。

 この子はこれから成仏して、天国へと旅立つんだ。


 そして光はだんだんと弱まっていき、全て消えた時にはさっきまでいた猫の姿も、なくなっていた。


「浄化完了……って、ヤバ! こりゃあ完全に遅刻だよ」


 スマホの時計を見ながら、慌てて走り出す。

 猫の霊なんてちょっとくらい放っておいても問題なかったんだけど、やっぱり見かけちゃった以上放っておけないのは、祓い屋の性だね。


 あたしの名前は、火村ひむら悟里さとり

 迷える霊や、人に仇なす妖を祓う、祓い屋だ。

 だけどただの祓い屋じゃない。この春から長年暮らしていた田舎を出て、都会の高校へと通い始めた、高校生でもある。


 高校生と祓い屋と言う二足のわらじを履いた、美少女祓い屋JK。

 それがあたしなのである。

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