青春の一幕(食堂)

@morukaaa37

先輩と後輩



 「ねぇ、よしゆきくん。明日、時間あるかな?」

 「……なんですか急に」

 「いや、普通に暇かなって」


 授業が終わり高校の食堂。

 1人椅子に座り昼食をとっていた男に、茶髪を短く揃えた綺麗な顔の少女が話しかけに来ていた。


 男は動かしていた箸を休め、平坦な声をぼそぼそと出す。


 「……あー、明日はちょっとあれですね」

 「あれって?」

 「いや……そう聞かれたら困りますけど」

 「ん?じゃあ、暇ってこと?」

 「いや、暇ってわけでは」


 苦虫を噛み潰したような表情で女性を見上げる男に、女性は不思議そうな表情を浮かべる。


 「明日、することがあるの?」

 「いや、まあ、、はい」

 「結構、重要な感じ?」

 「……そうですね」

 「それが何かは言えないの?」

 「まあ、プライベートですし」


 微妙な反応しか示さない男に、少女は少しムッとした顔をするが、突然ピンと来たように目を見開き、男の方を見つめる。


 「もしかして、彼女できた?」

 「は?……あぁ、いや、違います」

 「え、違うの?うそ、じゃあ何があるのか言ってよ。わたし先輩だよ?」

 「……オレ、縦社会押し付けてくる人苦手なのですみません」


 依然と取り合わない男をじっと見つめる少女。

 一瞬、2人の視線が交錯し、男はさっと目を背ける。少女の瞳がきらーんと光った。


 「ねぇ、よしゆきくん」


 少女は突然、男の後ろ側に移動すると、座っている男に後ろから顔を近づけ肩に手を置き、胸の感触が男の背中にあることが明らかなほど、密着する。

 男は、ビクッと身体を前のめりにし、なんとか逃れようとするが、女性は身体をがっちり掴んではなさない。


 「っ、………なんですか」

 「あのね、実はわたし、明日合コンがあってさ」

 「はあ、それで?」

 「結構、カッコいい人多いんだって」

 「それは、良かったですね」

 「うん、そうなんだけど……」

 「なんですか」

 「その日、シフトが入ってるんだよねぇ」

 「……は?」


 素早く後ろを振り返り、怪訝な横顔を見せる男に、少女は耳元に口をあて、可愛らしく呟く。

 

 「シフト変わって欲しいな♡」

 「無理です」


 初めて感情のこもった声が男の口から発せられた。だが、少女は瞳を男に向けたまま楽しそうに説得を続ける。


 「とか言って、いつもしてくれるくせに〜。お姉さんは分かってるんだぞ〜」

 「あの、言っときますけど、今回は本当に無理ですよ」

 「えぇ、なんで?彼女いるわけでもないんでしょ?いいじゃん、可愛い先輩を助けて!」

 「そのシフトっていつも通り、18時から22時ですよね」

 

 少女の軽口をスルーし確認してくる後輩に、少女は真顔で「え?うん、そうだけど?」と頷く。


 男はそれを聞くと、ため息をつき、面倒臭そうにこう呟く。


 「じゃあ、無理です。オレもその日、合コンなので」


 一瞬、2人の間に沈黙が走った。


 茶髪の先輩は、身体を近づけたまま、ぽかんとした表情で男の顔を見つめる。

 がすぐに、気を取り直すと、確かめるようにもう一度尋ねた。


 「え、合コンって、あの合コン?」

 「まあ、はい」

 「リア充の恋話を鼻で笑ってそうなよしゆきくんが?」

 「……まあ、はい」


 本人の確認が取れると、先輩はさらにこう呟く。


 「え、意味わかんない。なにそれ、よしゆきくんらしくない。てかキモい」

 

 密着していた身体も離し、先輩は男の方をつまらなそうに見つめる。

 男も流石に居心地の悪そうに目を背けるが、ふとした様に口を開く。


 「いや、なんでオレが責められてるんです。シフトの件は先輩が悪くないですか?」

 「いや、もうシフトはどうでもいいんだけど。なに?なんでいきなり合コン?」

 「それは知り合いに頼まれたからで……」


 反撃虚しく、先輩の質問が続く。


 「よしゆきくんに、合コンを誘う様な友達いなかったと思うけど」

 「まあ、最近知り合ったので」

 「わたしよりも最近知り合った人の頼みの方が大事ってこと?」

 「それは……頼まれた順番の問題ですよ」

 「じゃあ、もしわたしが先に合コンに来てって言ったら来てくれるの?」

 

 鋭い声音で尋ねてくる先輩に、男はどう答えるものかと頭を抱える。


 「……いや、あの、、行きたくないですけど、場合によっては行くかも」

 

 「行くのね?」


 「まあ、はい……」


 渋々そう頷く男に、先輩は「ふーん」と呟く。

 その途端、冷たかった表情が、元の明るそうな顔に戻った。


 「はい、じゃあ、言質とったからね。後でごねても知らないから」

 「……だる、、この人。悪い男にでも引っかかって欲しい」


 苛つき混じりのため息が男から吐かれるが、先輩はくすくすと笑い、後ろに手を回す。


 「まあ、じゃあいいや。ぼっちのよしゆきくんにも春が来るかもしれないし。邪魔するわけには行かないからね。仕方ないしわたしから店長に謝っとくよ」

 「……まあ、それが普通なんですけどね」

 「はい、君、うるさい」


 シラッとした目を向けてくる男を、先輩はビシッと指差す。それから、ふふっと笑うと「じゃあね」と片手を上げ机から離れていった。

 男は軽く頭を下げると、やっと食えると少し伸びたうどんに箸を伸ばす。


 「はぁ…嵐かよ、マジで」


 ため息と共に吐かれた男の疲れたような呟きは、誰にも拾われないまま食堂の喧騒の中に消えていった。

 


 

 


 

  


 

 


 

 

 


 

 

 

 

 


 




 

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