鎌鼬-かまいたち-をモフモフする為に、三匹飼い始めた話。

篤永ぎゃ丸

鎌鼬は鋭利で癒されるペットである話


 ——鎌鼬かまいたち——それは、両腕が鎌のイタチの妖怪、もしくは風が起こす怪異の事——。江戸時代の浮世絵『画図百鬼夜行かずひゃっきやこう』にも描かれているように、その存在の歴史は古くからある。捨てた野鎌が化けたとか、乾燥した時期にいつの間にか出来た傷が鎌鼬かまいたちの仕業だとか、飯綱イズナという狐憑きが正体だとか、地域によって伝承に違いがある。


 一番ポピュラーなのが実際は三匹連れの妖怪で、それぞれ役割を持って獲物を襲うという説。まず一匹目が縄、または槌で人を転ばせる。そこに二匹目が刃物で切り刻み、三匹目が傷に薬を付けていくから、出血や痛みが無いらしい。実際、痛くもない傷がいつの間にか出来ていたという経験をした人は、多くいるんじゃないだろうか。


 この様にスラスラと鎌鼬かまいたちの事を説明出来る私の名は、山里岫やまさとみさき。世の中に一定数存在する、希少価値のある動物や飼育の難しいペットを飼う珍獣マニアの肩書きを持つ、三十代女性。そして私が専門的に飼っているのが、あの妖怪・鎌鼬かまいたちなのだ。


「フッヒヒ……今日もきゃわいいよぉ」


 妖怪顔負けの気持ち悪い笑みが補水ボトルに反射しても、お構いなしで鉄製のケージを覗く。でも実際、鎌鼬かまいたちは可愛いのだ。小さな顔に、クリクリした目、そしてこの両手の鎌よ。最高に癒されるッ!!


 実際イタチは飼うのが安易ではなく、絶滅危惧種や天然記念物に指定されているのもあるし、人の指を噛みちぎるくらい、凶暴な生き物なのだ。


 それでも愛でたいという、人間の為にペット向けに改良されたイタチが『フェレット』なのだが、私はそんな媚びイタチじゃ満足出来ない。


「ブシャァアァアァ!」


 威嚇とも取れる鎌鼬かまいたちの鳴き声と共に、ケージがガシャアンと唸りを上げる。両手の鎌でガチンガチンとワイヤーを打ち付けながら走り回ると風が逆巻き、疾風の刃がケージの隙間を抜け、一瞬で窓のカーテンをスパッと細切れにした。


「あーッ! またイタズラしたね、チーちゃん!」


 今ケージの中にいる、チーちゃんと名付けた鎌鼬かまいたちは、イタズラ好きで困りものだ。こうしてかまいたちを起こしては、家具をめちゃくちゃにしていく。でもペットを飼う以上、これくらいの苦労があって当然だ。


 私の手を見てほしい。右手中指と左中指と小指が一回、右手親指なんて三回もかまいたちで切断されて、その都度病院で接合手術だ。ちなみに切断された指はスポーツドリンクを浸したガーゼに包んで、ビニール密封して氷水に漬けて持っていくと、お医者さんがくっ付ける時に助かるみたいだから、覚えておくといい。


 でも、指が何本飛ぼうが全然問題無い。私は鎌鼬かまいたちをモフモフザクザク愛でながら保護するのが生き甲斐であり、こうして癒されながら観察日記を付ける。鎌鼬かまいたちを三匹飼うことの楽しさ、癒しを、事細やかに。

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