第16話 立ち直るために
「ああ、戻って来たのか。」
ベッドから出て辺りを見回す。知らない部屋だがおそらくフィルハーリ領の病院だろう。嬉しいことに花瓶に花が添えられている。
「おや、起きたんですね。」
「ええ、おかげさまで。」
「ですがまだ病み上がりなので部屋で安静にして下さい。」
病院内を歩き回っていたら注意されてしまった。聞いた話だと一週間眠っていたらしい。夕食はお粥だけだったので肉が恋しい。(我儘)
夜、なかなか眠れない。理由は言わずもがなである。気分を変える為にも兼ねてより趣味だった深夜徘徊を決行しよう。ハンガーに掛けられていたフード付きマントを羽織る。幸いにもここは一階。ばれてはいけないので、窓から脱出だ。
「よいしょっと。」
この時の俺は、五月なのに花瓶の中で咲き誇る向日葵の意味など考えもしなかった。
七竈が立ち並ぶ並木道をフラフラする少年は景色を堪能しているようだ。そこまで明るくない街頭がそれとない雰囲気を演出している。顔の陰りも誤魔化される丁度良い明かるさだ。
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「脱走したわね。」
何かあった時に知らせてくれる向日葵を仕掛けておいて良かったわ。一応向日葵に植物魔法で視覚共有させるけれど、やはりもう見える範囲にはいなかったわ。しかし、フード付きマントがなくなっていて窓が開いているので、状況は推測できるわね。夜間の護衛に事情を説明して追いかけ始める事にするわ。
「お嬢様準備ができました。」
「ありがとう。」
早速私は七竈と視覚共有をしながら彼を追いかけ始める。
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「こんな時間に何処へ行こうというのです?」
後ろからそう声をかけられて心臓が止まりかけた。
「あなたこそこんな時間に出歩いてはいけないと思いますが?シルレーナ嬢?」
「質問に質問で返さないでください。私には護衛もいますので大丈夫です。」
「眠れないので、散歩をしていただけです。それに何故ここが?」
「植物魔法の応用です。眠れない理由はやはり先の戦いで命を奪ったことでしょうか?」
「・・・・・・・・・」
「少し話をしましょうか。」
「まだ、私が幼かったころの話です。私は好奇心で植物に意識を与えました。遊び相手が欲しいくらいの感覚でです。しばらく遊んで飽きてしまいまるで、玩具を捨てる感覚で魔力供給をやめてしまいました。すると、意識を存続させる為に自身の栄養を使い始めてたちまち枯れてしまいました。「なんで?どうして?」と最後に伝えられたことで命の価値を自身の残酷な行為を自覚しました。いまでも、夢に出て来ます。私の場合は周りの協力もあり何とか立ち直り生涯その過去と向き合う覚悟ができました。」
「・・・・・・」
「あなたの感じたストレスは私のより大きいでしょうし、今すぐ向き合う覚悟をしろなどとは口が裂けてもいえません。ただ、何も進展がないのであれば周りの人を頼ってみてはいかがでしょうか?それと、領を救った英雄がこんな時間に出歩いて万が一があれば私達の方が困るのでやめてください。」
「わかりました。・・・ありがとうございます。」
「どういたしまして。さあ帰りましょうか。」
結局ばれてしまった。しかし、気分は少し楽になった。花瓶に添えられた向日葵を見る。まるで、シルレーナ嬢がそこにいる様で安心できる。
「寝るか。」
なおリストデルの寂しさと切なさに濡れた視線は、念のために監視していたシルレーナ嬢の母性本能にクリティカルヒットした模様。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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