第5話 W杯第1回大会決勝戦!

 さあ、ついに史上初のポルトガル対ジパングのフッチボウ国際親善試合、いや第1回フッチボウワールドカップ初戦兼決勝戦の時間がやってきた。


 こちらポルトガルチームは黒のサムエ(作務衣)だ。職業選手のディエゴ、クリストヴァンに加えて、素人三人、フランシスコ、アントニオ、そして私アントニオ・ダ・モタだ。


 ジパングチームは青のサムエ(作務衣)だ。職業選手の魔術師マジコアスカイ・マサノリ、カトー・ダンゾウ、そして素人三人は、鉄砲鍛冶の親方メストレのヤイター・キンベエ、通訳のサブロウ殿って二人とも決して若くないぞ。二人とも同じ歳で42歳だと!本当に大丈夫か?なんか気合が入っているな。そしてもう一人は、なんとこの島の領主、タネガーシマ・サヒョウエノジョウ(種子島左兵衛尉)様16歳だと!どんだけフッチボウが好きなんだよ!領主自ら参加して大丈夫なのか?ケガするんじゃないよ。おじさんは心配だ。

 

《これも、日ノ本を守るためだ!頑張るぞ!》

 

《種子島殿、そんなに緊張しなくても楽しくやりましょう》

 

《サブロウ様、パンジャンドラム改の予算、本当に増やしてくれるんだろうな》

 

《おう、勝てたならな。ああっと役割変更な。門番は俺だ。前衛は飛鳥井殿と種子島殿。ともかく蹴りまくれ。金兵衛と段蔵殿は守備だ。向こうがボールを蹴ってきたら適当に弾き飛ばしてしまえ!難しく考えるな。楽しもうぜ!》

 

《御意!》×3

 

《ちょっと待った!なんでサブロウ様が門番をやるのだ?ダンゾウ殿でよいではないか》

 

《それでは面白くない!》

 

《ずるいではないか!》

 

《文句言うんじゃないよ、ほら始まるぞ》

 

《くそーっ!騙された!》

 

 なんだかジパングチームは内輪もめしているようだが大丈夫か?


 ポルトガル軍の役割分担は前衛がディエゴとフランシスコのゼイモト兄弟(本当は従兄弟)だ。守備がアントニオ二人。鷲鼻の航海士アントニオ・ペイショートと船長の私、アントニオ・ダ・モタだ。門番はもちろんクリストヴァン・ポラーリョだ。職業選手だからな。


 さきほど、試合前に準備運動というものをさせられた。カポェィラと同じだな。軽く身体を動かしてほぐしたり、遅めに走ったりしてから競技に臨む方がケガもなく、よい試合ができるという。それもジパングの知恵だ。


 例によって闘いに捧げる歌、発火ハッカを皆で歌い上げる。選手一同が横列に並び腰を落として構える。

 

《気りて〜!》

 

 ジパング軍の主将カピタンのダンゾウ殿が昨日の試合同様に肚の底から野太い声を張り上げる。

 

気遣りてー!気遣たまう!》

 

おう!》


 私たちポルトガル軍も皆で気合いを入れて応える。

 

 両国選手の皆は肩肘を張り両の腕を地面に並行に顔の前に互い違いにかざす。

 

《因果、因果、覇気や、我が試合、

闘えや、貴殿も、気の念、発起!》

 

 皆で声を揃えて、両掌で自分の脚や腕を叩きながら大声で歌う。私たちも両掌で自分の脚や腕を叩きながら、意味はわからなくともダンゾウ殿に合わせて大声で歌う!ヨシノ殿手書きの歌詞カードを渡されて、ほんのちょっとは練習したのだ。

 

《頑張って、頑張って、乞う!

ああ、頑張って、頑張って、乞う!

天の気、彼方へ、振るう、振るう!

名を成せ命、我が意志で!

ああ歌え、ああ歌え、

ああ歌え、歌え、生きてうん!》


わああああああああああああー!

 

 大歓声だ! よーし!我々もたぎってきたぞ。




ピーーーーーーッ!

 

 

 審判の甲高い笛の音が鳴り響く。さあ、いよいよ第1回フッチボウワールドカップ初戦かつ決勝戦の始まりである。


 この試合の主審はサスケ殿で、副審はカズマ殿だ。線審は前回と同じく視力が良いジュウベエ殿と五峯殿のコンビだ。

 

 試合はポルトガル軍の蹴りから始まった。


 ゼイモト兄弟が互い球を蹴り繋いでジパング軍の枠に向かって駆けて行く。速攻だ!そしてディエゴが走った勢いのまま球を思い切り、蹴ったぁ!球が大きな弧を描いて曲がって、さらに落ちて枠の中に吸い込まれる!門番のサブロウ殿、足をわずかに一歩踏み込んだだけである。全然反応できていない。これは魔球だ!これはいけるぞ!勝てる!

 

しゅうーーー!功得こううる〜!》

 

おおおおおおおおお!!!!!!

 

 よし、幸先がいいぞ。ポルトガル軍の先取点で1対0だ!


 今度はジパングチームの攻撃だ。領主のタネガーシマ様が、必死で走っている。若いだけあってかなり速い。向こうも速攻だ!ダンゾウ殿が後方からタネガーシマ様にあわせて球を蹴り繋ぐ。


 私は割り込んでその球を奪って蹴り返す!つもりだったが痛恨の空振り。タネガーシマ様がその球を思い切り蹴る!つもりのようだったがこれも空振り!転がる球をアントニオが止めて蹴り返そうとすれば、いつのまにかその真ん前にダンゾウ殿がいる!思わず私の方に向けて球を蹴る!これは空振りにならず、こっちに来た!

 

 と思ったら、魔術師マジコがその途中で球をあっさりさらってしまった。そのまま蹴り続けてクリストヴァンと1対1の勝負だ!大きく振りかぶって球を蹴る!のではなく踏みつけて足の甲に乗せ、それを器用に膝へ、そして額より少し上に跳ね上げてそのままぴたりと静止させた。そのまま、てくてく歩いて枠に向かう。クリストヴァンが慌ててその球を手で奪おうとするが、球は後頭部から背中へ転がり、魔術師マジコが猫背にした背中にまるで魔術のようにぴたりと張り付き静止する。なんというバランス感覚だ!猫背に球を載せたまま、魔術師マジコはクリストヴァンに背面は見せず、彼の周りを回り込んだ。そして、背中から転がり落ちた球を見もしないでかかとで後ろ向きに蹴って、なんと!得点を決めた。


しゅうーーー!功得こううる〜!》

 

おおおおおおおおおおおおおお!!!!!


 なんたる神技!やはり魔術師マジコだ。後ろにも目があるとしか思えない。

 

 ジパング軍が追いついて1対1の同点で大歓声だ。


 今度はこちらの番だ。ディエゴが先ほどよりも遠くから球が曲がる蹴りを放つ!だが、枠にあたって跳ね返って高く弾む。


 そこへ、走りに走った鷲鼻のアントニオが追い付いて無理矢理の高い回し蹴りで足の甲に見事に当てて蹴り抜いた!宙に浮いて体勢を崩したアントニオは顔面から墜落する。球の行方はどうだ!よし、入ったあ!

 

 《しゅうーーー!功得こううる〜!》

 

 わあああああああああああああああああっ!


「秘技。延髄切り」


 もしもーしアントニオさん。フッチボウではヒトの頭を蹴ったら一発で赤札退場で出場停止だから、絶対やるなよ。本当にやるなよ。フリじゃないからね。本当に、本当にお願いします。蹴っていいのは球だけですからね。頭の他はいいのかって?いい訳ないでしょう!頭だけじゃなくって、太腿もお腹も金的もダメ!絶対!


 ともあれ、これで2対1!ポルトガルチームはあと1点で勝利確定だ!


 おや?キンベエ殿がふうふう息を乱しながら、もたもたと球を蹴り蹴り走ってくる。その前に立ちはだかるのは、フランシスコだ。

 

《ふっ。年寄りの冷や水だな》


「あっ、若狭わかさだ!」

 

 キンベエがフランシスコの後ろを指さして、手を振る。ワカサと言う名前に反応して、フランシスコが思わずキンベエが指さす方を振り返る。が、その先では野良犬がウンコをしているだけだった。その隙にキンベエが球を蹴りながら、先ほどまでの倍の速さでフランシスコの背中側を駆け抜ける。息を乱していたのも擬態かっ!!

 

「汚い、あまりにも汚いぞ!キンベエ殿!」

 

《わははは、予算のためだ。勝てばよかろうなのだ!》

 

 言葉が通じなくても悪い意味で会話が成り立っている気がする。キンベエが非常に悪どい顔で笑っている。キンベエ殿が大きな声で何か叫んだ!

 

《飛鳥井殿〜!今日の晩御飯は何でござるか!》

 

《麿は知らぬでおじゃる〜!》

 

 クリストヴァンがアスカイと言う名前に反応して、魔術師マジコの方に向き直ると、

 

《じゃあ、領主様、よろしく。ほい》

 

 タネガーシマ様に球を回しやがった!ヤイター・キンベエ、実にうまい、いや実に汚い!

 

《任せろ、チェストー!》


ペシッ

 

 タネガーシマ様は思い切り蹴ったはずだが狙いが狂って球の端っこをかすっただけだった。ポンポンコロコロと球は不規則な弾み方でクリストヴァンの後ろを遠ざかるように転がって、枠内を通過した。

 

《えーと。しゅう功得こううる〜!》


おおおおおおおおおおおおおおおおお!

 

 あまりきれいな得点の仕方ではなかったのだが、これで2対2の同点となってしまった。泣いても笑ってもあと1点で勝負が決まる。芝生の外の観客も大盛り上がりだ。

 

 ディエゴは最前線に出てきたダンゾウ殿にガッチリマークされて球が回せない!やむなくフランシスコが球を蹴って駆けていく。前には先程の因縁の相手、キンベエ殿が立ちはだかる。

 

「また、あなたか。もう汚いトリックには引っかからない!」

 

《お前のような単細胞に、娘はやらん。開発予算も獲得だ!けけけけ!》

 

 相変わらず悪どい顔のキンベエ殿だ。

 

「止められるものなら、止めてみろ!」

 

猪口才ちょこざいな青二才が!》

 

 フランシスコが右に走る、キンベエ殿がその進行方向をふさごうとにらみ合ったまま、右に走り、通さない!今度は左!キンベエ殿は追いつき通さない!2人は非常に激しく走り回る!息の詰まる攻防だ。


《こちとら昔から山道で命懸けの鬼ごっこで鍛えられているんだ!負けるもんか!》


《美濃の山は猪が出るからねえ》

 

 ……あれ?えーと。なんであの二人は球を置き去りにしてお互いに全力疾走で鬼ごっこをしているのだろうか。すっかり球のことを忘れている。


「おーい!球を忘れているぞー!」


「くっそ〜この老いぼれがぁ!」


《抜かせはせん!抜かせはせんぞ!》


 いかん。すっかり頭に血が昇って、こちらの声が耳に入らないようだ。


ざわざわざわざわ


 観客も異変に気がついた。だが、熱くなった二人は気付かない。タネガーシマ様も叫ぶ!


《球はどうした!球ぁ!金兵衛!球ぁ!金兵衛!球を蹴るのだ!球ぁ!金兵衛!》


《タ、種子島殿、それは、き、危険ですぞ!タマ、キンベエの連呼は!タマを蹴るのだ!タマ!キン......って。ぷっひゃっひゃっひゃっ!ひー苦しい。いや、ダメでしょ。ひっひっひっひ》


 何かに反応してサブロウ殿は爆笑し出した。体を折り曲げるように笑い続けている。


どわっはっはっはっはっは!


 観客もサブロウ殿の言葉に反応して大爆笑し出した。タネガーシマ様はなぜか真っ赤な顔をしてうつむいている。なにがあったのだろう。

 

《いかん。腹筋がった!腹筋崩壊!苦しい!助けてー!あ、脚もった!こむら返りだ。痛い痛い!》


 笑い上戸なのか、サブロウ殿は文字通り地面の上を笑い転げ回っている。それを見て心配になったのか、ジパングチームがサブロウ殿の下に集まって行く。ただし、鬼ごっこ中のキンベエ殿は除く。

 

 えーとまだ試合中だよな。一時中断じゃないよな。ふむ。私が球に一番近いな。誰も球に関心がないなら、私が蹴ってもいいんだよな。よし。


 走って行ってー。大きく振りかぶってー。うおおおおお!きっと今の私の背景には大きく翼を広げた鷹の絵が描かれているに違いない!


しゅう!」


ぽすっ


 あ、上の方をかすった!げ!ヤバい!足がもつれた。私も前のめりにコケてしまう!ふべっ!


 球はどうなった?あそこか!


 よしよし、前に弾んで転がった!のたうち回るサブロウ殿のうーんと横を転がって、枠に一度ぶつかったあと、網に収まった!え?入った。これ得点になるの ?

 

《コホン。しゅうーーー!功得こううる〜!3対2。ポルトガルチームの勝利!》

 

《なんだとー!》



あっはっははははははははは!


 観客は大爆笑だ!


 キンベエ殿が猛烈な勢いで審判のサスケ殿やカズマ殿に抗議をしているが、サスケ殿もカズマ殿も取り合わない。


 ともあれ、非常に締まらない形であるが、第1回フッチボウワールドカップは私たちポルトガルチームが優勝して世界一となった。


 黄金色に輝く優勝トロフィーが主将カピタンである私に手渡された。誰が主将カピタンになるか試合前に揉めたが、日本に帰化している職業選手の二人が辞退したので、船長カピタンがそのまま主将カピタンをやれ!ということになったのだ。


 例の新型銃も副賞としてタネガーシマ様から手渡された。この銃は記念にタネガーシマと名付けよう!


 さらに、ポルトガルチームの一人一人に二カ国語で書かれたフッチボウワールドカップ第1回大会優勝の賞状が手渡された。ちなみにジパングチームには準優勝の賞状がちゃんと手渡された。


 さらに優勝賞金としてジパングの金貨十枚が、世界フッチボウ協会から贈られた。え?チームにじゃなくて一人十枚だって?!なんと、ジパングにはやっぱり黄金が豊富にあるじゃないか。え?今回は特別?普通の試合で毎回こんなには出せない。ワールドカップ決勝だから?なるほど。


 そして、今大会の最優秀選手には、なんと、決勝点を上げた私、主将カピタンアントニオ・ダ・モタが選ばれた。私の名前がフッチボウの歴史に刻まれるのだが、本当にそれで良いのか?!加えて、最優秀選手賞の賞金で、金貨がもう十枚!え?いいのか?


 要らないんならサッカー協会への寄付も受け付けてるって?ちょっとだけ考えさせてくれないか。うん。やっぱり要る。ウードンのスープのレシピとの交換条件で約束した物をたっぷり買ってくるのに使うから、楽しみにしておくれ。新大陸のイモや、トマトやトウモロコシの種に、シャムにある洪水でも育つ浮稲の種だったな。よく覚えているなって?私は探検家だけでなく商人でもある。お客様の注文を忘れはしない!


  いい人だなんていうなよ!照れるじゃないか。うまいもののためだ。またうまいものを食わせてほしいからな。


 試合の後、私たちは世界フッチボウ協会の理事であるヤマモト・カズマ殿とシノダ・コシロウ殿にこっそり呼ばれた。カズマ殿とコシロウ殿はフッチボウの世界では偉い人だったのだな。銃や金貨を返せというのか?いや、そうじゃない?


 歴史的なワールドカップ第1回大会の決勝戦だが、正直言ってあまりにも試合内容が酷かった。ついては記録に得点と勝敗はもちろん残すが、試合内容は「両軍の実力が伯仲したが、双方非常に積極的な大接戦であった」とだけ残させて欲しい、私たち個人がこの試合について帰国後語る場合も極力そのようにしてくれというのだな。口止め料を出すからって?いやあ、そんなことを言われてもなあ。それは金の問題ではないのだ。


 カズマ殿、なになに?良い方に話を盛るのは一向に構わないって?あー、それなら私たち船乗りの得意技だな。心配無用だ。口止め料なんかなくても絶対にそうなるから、大丈夫だ。その口止め料はフッチボウ協会で好きにしてくれればいい。


 まーあれだ。歴史の真実はこうやって闇に葬られるのだということを知る貴重な体験ができた。


《たしかに、サッカー好きなら、この試合内容を第1回W杯の決勝とは認めたくないでしょうね。草サッカーより酷いし、別の意味で草が生えてるわ。大草原よ》


《いいんだよ、ヨシノ。俺たちの目的はこのイベントの成功なんだから。お陰で計画は順調だ。あの彼も網にかかってたし、予定が前倒しできそうだ》


《やっぱりそうだったの。ついてるね》


《ああ、結果よければ全てよし!あ、若狭!何をする!痛い、痛い!耳を引っ張らないで!》


《ほどほどにね〜》


 ところが、それでは収まらない人物がいた。芸術を愛する天才技術者、ワカサ嬢だ。彼女が言うには、試合内容があまりにも醜くてしかも下品!ということだそうだ。どこが下品だったのだろう?ともあれ立腹したワカサ嬢により、父親のキンベエ殿とフランシスコ、そしてサブロウ殿の三人が連行されて、正座?というジパング式の座り方で芝生の上に並ばされ、ジパング語とポルトガル語の二カ国語で説教をされていた。悪いが助ける気にはならない。よかったな、フランシスコよ。特別に親しくヤイター親子と交流できて。私たちは温かく見守っているぞ。



 さて、今日の夕食は先ほどのフッチボウの選手全員とともに食べるのか!いいな、ともに戦った戦友だ!楽しくやろう!

 

 これは何だ?オコノーミヤキというのか。具がたくさん入ったパンケーキのようなものだな。これ一つで野菜も魚介類も肉も食することができるのか。ジパングの食の工夫は実にすばらしい。オコノーミソースという甘くうまいたれが何とも言えない。このたれを是非持って帰りたいのだが、そうか、まだ量産できない貴重品なのか。量産できるようになったら大量に買い付けるぞ!よろしく頼む。

 

 酒は米から作った昨日も出た酒、ニホンシュというのか。それとショーチューという蒸留酒にジパングのハーブを混ぜた強精効果のある薬膳酒か。ふむふむ。うわ、これはたまらんな。薬膳酒は匂いと味がどうしても好きになれん。うむ、申し訳ない。できれば昨日飲んだアワモーリがあれば、変えてもらえないか?すまない。

 

《あっちゃー。私たちの口に合わない失敗作の薬膳酒も征洋人の口になら会うんじゃないかと思ったんだけど駄目だったわね》


《お客人で人体実験するんじゃないっ!》


《まあ、人聞きの悪い。試飲よ、試飲》


《試飲が死因にならなきゃいいけど》


《なんですって!》

 

《ところで若狭、あっちの奥でお前の親父とフランシスコがジャンケンをして負けた方が薬膳酒を飲むというのを延々とやっているぞ。なんだか物すごい顔をしているんだが》

 

《うーん。罰ゲームのネタになるようじゃ商品化は無理ね》

 

《そろそろあの二人を止めてこい。ありゃ潰れて明日の朝、二日酔いで地獄を見るぞ。いや、下手したら急性アルコール中毒だ。本当に試飲が死因になりかねない》

 

《はああ、あの二人はほんとにバカなんだから。技術バカで、意地っ張りで、すぐむきになって気が済むまで絶対にやめないところまでソックリ》

 

《もう一人、よく似ている奴を俺は知っているけどなぁ、若狭》


《え〜〜〜私、似てないよ〜〜〜》






 

おんれい〜、応援おうえん応援おうえん御礼おんれい〜》

 

 いつのまにか男どもでジパング人もポルトガル人も、領主も職人も兵士も船乗りも一緒に肩を組んで、昨日、観客が歌っていたあの歌を歌っていた。今夜は気持ちよく美味い酒が飲めた。ほろ酔い加減でなんだか気持ちよく眠れそうだ。仲間たちの歌うような声が聞こえる。


 俺たちはチャンピオンだ!マラッカに残った友よ!


 俺たちは無茶振りだったけどやり遂げたぞ!


 俺たちが第1回フッチボウワールドカップのチャンピオンだ!


 オ-レ!

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