1543年、種子島。激突!ポルトガル軍対ジパング軍!(ただし球技で)

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

第1話 1543年。鉄砲よりもフッチボウ!

 私の名はアントニオ・ダ・モタ。ポルトガルの商人で、探検家だ。この船の船長だ。ポルトガル語が話せるサブロウ殿やカズマ殿がこの島にいてくれて助かった。ああ、あの二人もポルトガル人だ。金髪で縮毛の男がフランシスコ・ゼイモトで技師だ。もう一人の無口なデカい鷲鼻はアントニオ・ペイショート、航海士だ。あとの百人はミン人の船乗りだ。

 

 私たちはニンポー(寧波)にむかっていたのだが、不覚にも乗っていたジャンク(中国式の帆船)が嵐にあって進路より大きく流されてしまった。ああ、この国では台風というのだな。なるほど。その嵐が去った後、たまたまミン人の五峯という船長の船に助けられて、ここまで案内してもらった。ここはタネガーシマ(種子島)というのか。すまないが船を修理する間滞在させていただきたい。なに?!ここはミンではなく、あの伝説の黄金の国ジパングなのか!これは、幸運の女神が私たちに微笑んでくれたのかも知れないな。おお、神に感謝致します。

 

 今なんと言った?黄金なんてそんなにはないぞ、どうせマルコ・ポーロとやらのホラ話に担がれたんだろうって?そうは言うが、黄金の国というのは船乗りにとってはロマンだぞ。ロマンと現実は違うって?黄金色をした稲穂が実る国というのが現実なのか。黄金なんて見つかっても微々たるものだって本当なのか?隠していないか?

 

 フェルナン・メンデス・ピント殿はいないのかって?どうしてサブロウ殿はその名を知っているのだ?あの方は私たちを雇ったこの船の船主だ。今はマラッカにいらっしゃる。そうか、ピント様には是非ともお会いしたかったと。そうか、それは残念だったなあ。私たちはピント様の下でマラッカを拠点にマニラやマカオへ船を出して交易をしている。ときには今回のようにニンポーまで行くこともある。

 

 ピント様はホラ吹きだって噂があるけど本当かって?そりゃあ多少話を盛る癖はあるがホラ吹きってほどじゃあない。船乗りとしては普通だよ、ごく普通。なんだって?船乗りとか探検家の景気のいい話ってのは話半分どころか千三つくらいに考えた方が良いものだって、自分だってわかってるだろうにってか。サブロウ殿も言うねえ。たしかに、自分の目で見たことのない限り、他人の与太話をアホみたいに信じるのは愚か者のすることだ。私だってピント様の話をピンからキリまで信じているわけではない。わかった、わかった。

 

 え?私たちはシャム(現在のタイ)のアユタヤから来たのじゃないかって?なんでそんなことまで知っているのだ?!たしかにそうだ。昨年、1542年、たしかに私たちはアユタヤにいた。だが、さっき紹介した仲間二人とアユタヤの港に停泊中のポルトガル船より脱走したのだ。船長のディエゴ・ヂ・フレイタスがあまりにもケチで横暴だったからだ。皆、嫌気がさしたのだ。きっちり迷惑料をせしめた上で、明の商人のジャンク船に乗り込みマラッカまで逃げた。そこで今の船主、フェルナン・メンデス・ピント様に会って意気投合したのだ。それ以来、ピント様の下で働き交易をしている。

 

 海賊もやっているのだろうって?いや、海賊が襲ってくるから返り討ちにしているだけだ。イスラム商船も襲っているじゃないかって?あいつらは敵だから仕方ない。あのピント様も昔、イスラムの船に捕まって奴隷として売られたことがあるし、私たちも難癖つけられて積荷を奪われておる!ピント様もイスラムの船にからまれたら遠慮なくやっちまえと言っている。絡んでくる連中はみんな敵だ!海賊だ!

 

 ところでサブロウ殿やカズマ殿は何故そこまで私たちのことに詳しく、ポルトガル語が堪能なのだ?時々妙な言葉遣いが混ざるが、実に流暢だ。ほうほう。ジパングに来たポルトガル人は私たちの他にもいるのか。二年前にもう少し北のブンゴ(豊後)というところに流れ着いた者たちがいたのか。その者たちの名は?ディエゴ・ゼイモトとクリストヴァン・ボラーリョというのか。なんと!ディエゴはうちのフランシスコの従兄弟のはずだ!二年前から行方不明になっていたんだ。生きていたのか、よかったなフランシスコ。二人とも元気なのか?そうか、それはよかった。

 

 なんだって!二人とも、もうジパングに帰化しただと!え?ゼイモト・ダイゴ(税本大吾)に、ホラリョウ・クリストバン(洞漁 紅莉栖吐蕃)と名乗っているのか。そんなに住み心地が良いのだな、ジパングは。ほう。しかもこの二人は特例でポルトガル国籍を持ったままの二重国籍を認めるというのか。なんだかよくわからないが、ジパング側がそれでよければ構わないぞ。仕事は何をしている?二人ともそれぞれ軍の特殊部隊で勤務して、二人ともジパングでは英雄扱いだと!もうそんなに凄い手柄を上げることができたのか?なになに、実は丁度この種子島に来ているって!今は手が離せないが、今日中に会わせてくれるのか。それは、ありがたい。いい土産話ができる。

 

 その前に、旅の垢を落とせるのか!湯を張った湯船がある浴場があるとはなんと贅沢な!ありがたい、喜んでそうさせてもらうぞ。サブロウ殿とカズマ殿も立ち会うのか?客人に失礼があるといけないからとは、御足労をかける。よーし、みんな、風呂だぞー!

 

 おお、本当に湯船があるな。昔のローマの銭湯みたいだ。何?本当にローマの風呂を参考にしたのか!マルコ・ポーロが残した銭湯の絵図面をミンから入手したとは、驚いた。


 おや?先客が二人いたか。一人はずいぶんと背が高い無愛想な男だな。もう一人は小柄でニコニコと笑みを絶やさない人の良さそうな男だ。二人が何やら身振り手振りで伝えようとしているが、何なのかな?ああ、湯船に浸かる前に掛け湯をして身体を洗えと言うのだな。わかった。なに、背中を洗ってくれるのか。ありがたい。では頼む。


 

曲直瀬まなせ殿、三人とも変な咳も出ないですね。色白でも血色はよいので結核はなさそうですね》

 

《そうですね。カズマ殿、私もそのように思います。肌を見るに梅毒も痘瘡とうそう(天然痘)も、象皮病や、らい病(ハンセン氏病)もないようです》

 

《よし。では伝染病がなさそうなら隔離はなしだ。段蔵殿はどう見る?体調や体力は十分そうかな?》

 

《前に来た連中と同様にずいぶんと肩幅も胸の厚みも大きいな。肺も心臓も強そうだ。腹もそんなに出ていない。脛の下も我らよりも長いし、腿もふくらはぎも良い筋肉がついている。結構速く走れそうだ。多少年齢がいっているが、これなら大丈夫だと思う》


《まあ、サブロウ様よりは若そうですし》

 

《言ったな、カズマ!お前も同い年だろーが!よし!では、ポルトガル人は全員参加決定だ。俺も出るぞ!カズマはどうする?》


《ああ、じゃあ、私は審判やりますね》


《よし、任せた。いいか、日ノ本を守るこの計画に失敗は許されない。皆、頼んだぞ》

 

《御意!》

《御意!》

《御意!》

 



 いやあ、風呂でスッキリさせてもらった。この新しく小綺麗な動きやすそうな衣服もありがたい。サムエ(作務衣)というのか、この服は。私たちの服は洗濯してくれるんだって?ありがたいことだ。ところで、サブロウ殿、御礼と言ってはなんだが、私たちもこの島の領主に見せたいものがある。銃という遠く離れた敵を倒すポルトガルの武器だ。この辺りでは珍しいと思う。戦いでは抜群の効果を発揮するぞ。このフランシスコはこの銃という武器の専門家だ。銃の調整もすれば、銃に使用する火薬の調合もできる。射撃の腕も一流だ。話の種になると思って見てみないか。ええ?そういうこともあろうかと準備はできているって?ずいぶんと段取りが良いのだな。

 

 あそこに座っているのがこの島の領主なのか?まだ子供じゃないか。歳は十六歳だと?やはり子供じゃ・・・・・・もう成人して家督をついているのか。ふむ。若いのに大したものだ。タネガーシマ・サヒョウエノジョウ(種子島左兵衛尉)というお方か。むやみに長い名前だな。タネガーシマ様でよいのか。わかった。ほう、ジパングの騎士も50人か60人くらい集まっておる。よし。フランシスコよ、お前の銃の腕前を領主殿に見せてやれ。エスピンガルダ(註:南欧系の先込め式火縄銃。有効射程40~50メートルくらい)の威力にジパングの騎士達よ、おののくが良い。

 

 おい、確かに遠く離れた敵を倒すと言ったが、いくらなんでも限度というものがあろう。的が通すぎる。そんな距離では届いても狙いが定まらない。うむ、もっと近くだ。まだまだ。もっと近くだ。こっちこっち。そう。そのくらいだ。ここから四十ヤードくらいだな。サブロウ殿よ。大きな音と煙が出るから、驚かないように伝えてくれ。何々?皆はもう耳栓をしていると。どういうことだ?この銃を、エスピンガルダを見たことがあるのか?二年前に来たディエゴとクリストヴァンは銃を持っていたのか?いや、そんなことはないと。初めてか。うむ。そうであろうな。よし、それでは始めよう。



 

 3トレス2ドイス1ウン発射アチランド

 

 引き金を引いてからしばらくしてから、ゆっくりと動いた火縄がかったんと火皿に落ちる。

 

バーーーーーン!

 

コッ

 

 よくやったぞ、フランシスコ!命中だ。しかもど真ん中だ。でかしたぞ!ケホッケホッ。相変わらず煙がひどいな。うん?あれ?なんでタネガーシマ様や周りの騎士は首を左右に振っているのだ?ジパングではあの動作は感動した時や驚愕した時の動作なのか?違う?どういうことだ?見ていれば分かるだと?

 

 おい!あの騎士は何故銃を持っているのだ!いや、たしかにエスピンガルダではないな。銃床を頬ではなく肩で支える形か。まさか、新型の銃がジパングにあるとはな。ところで的が見当たらないようだがあの騎士は何を狙っているのだ。

 


《行きまーす》


 

 何だ?あんなさっきの的の倍くらい遠くで誰か皿みたいなものを投げて遊んでいるぞ。

 



 

パーーーーーン!

 

 

カシャン!

 

 

 なんと!あの距離で、八十、いや九十ヤード先を空中を飛ぶ皿を一発で撃ち抜いたというのか?!何たる神業!フランシスコ、お前はあれを撃ち抜けるか?そうだな、無理だな。わかっている。あの魔弾の射手は何者だ?ふむふむ。種子島の騎士ではないのか。アケチ・ジュウベエ(明智十兵衛)と言う、島の外のミノー(美濃)から来ておる騎士か。



 

《小四郎、やはり太閤様がおっしゃっていた通りだ。銃の性能は美濃国のものの方が上だ。金を出してまで征洋人せいようじんから求めるまでもない》

 

《さすがは天眼通の太閤様でございますな。予言の通り二度の征洋人の来訪を言い当て、ことにここ種子島においては日付までぴたりと言い当てられた。征洋人から日ノ本を守るために神仏が遣わされたお方だというのは真のことかと》

 

《我らも、しっかりとお役目を果たさねばの。この種子島と日ノ本の運命がかかっているのだ。今日の副審も、場安辺給バーベキューの準備も、くれぐれもぬかるでないぞ!小四郎!》

 

《御意!この篠田小四郎、身命を賭けて成し遂げまする!》



 

 サブロウ殿、すまないが、あの銃を見せてもらえないかな?おお、かまわないのか!ありがとう。ほう。引き金を引くと火縄が板バネの力で火皿に叩きつけられて点火するのか。引き金を引いてから発射までの時間差が少なくなるから、動くものでも素早く射撃できる工夫だな。そういえば先ほどの煙もエスピンガルダよりも少ないように感じたが、火薬も違うようだ。失礼だがこの銃はどの国から買ったのであろうか?え?外国からは買っていない?

 

 騎士のジュウベエが住んでいるミノー地方は銃の産地で有名だと?ヤイター・キンベエ(八板金兵衛)という鉄砲鍛冶の親方メストレが、この新型の銃を作ったのか。ジパングでは火縄銃の製作だけでなく改良まで行っているのか。なに?ジュウベエ殿の地元ミノーでは大抵の村に最低一丁は銃があるとな。そこまで普及しているとは!


 火薬はどうしている?木炭はともかく硫黄や硝石は?ああ、ジパングは火山が多いから硫黄も温泉があるところで採れるって?硝石は?国内で自給できているのか。なるほど、ジパングは銃の先進国なのだな。


 あわよくばエスピンガルダを高く売りつけようなどと考えていた自分が恥ずかしい。フランシスコよ、エスピンガルダを片付けておいてくれ。ここでは無用のようだ。


 サブロウ殿、その新型銃を譲ってはもらえないか聞いてくれないか?そうか、やはり駄目か。くっそー、あの銃が欲しい!残念だ!なんとか手に入れられないものか。

 

 え?フッチボウで勝負して勝てたらもらえるかもしれないって?タネガーシマ様もフッチボウが大好きだから聞いてみてくださると。ふむ。それはありがたい。


 だが、フッチボウ?それは一体何なのだ?

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