第24話

私の名前はベルジュ・フラン。辺境の街で冒険者をしている剣士だ。幼いころに受けたスキル鑑定で剣術の才能が在ると知り、物語に登場する英雄に憧れた私は今までずっと剣の道を進んで来た。


両親も危ない事はして欲しくないが、才能が在るからと剣術道場に通わせてくれた。だが私の才能はそこで花開く事は無かった。多くの者達が剣術スキルのレベルを上げる中で私だけが上がらなかったのだから・・・・。


道場での教えは、極力四肢から力を抜き、力を籠めずに剣を握り、剣の赴くままに振るうという物だった。剣の道は剣が一番よく知っている。私達は剣が思うように動ける様、体を貸す事なのだと、そう教えられた。だが私はどうしてもその教えに沿えなかったのだ。


剣を強く握った方が効率よく的を斬れた。足腰に力を入れればそれだけ鋭い斬撃を放てた。他の門下生が師の教え通りに剣を振るう中、私はどうしてもその感覚が忘れられず。その教えに背いてずっと自分の剣を磨いていた。師の教えを否定する気は無かった。だが教え通りに剣を振るわない私の存在が師に取って目障りだったのだろう。突然道場全体での模擬試合を組まれたのだ。


試合は門下生全員の力を見る物だという建前で行われた。私はスキルレベルの高い同期や先輩に勝てないとは思いつつも、自分の感覚で掴み取った剣がどれほど通用するのか試す為にその試合に挑んだ。そして、勝ち進んでしまったのだ。


その当時スキルレベルが2だった私は、スキルレベル5と門下生の中で一番レベルが高い先輩を下してしまった。驚き固まる他の門下生達。私はその中で1人歓喜していた。自分の信じた感覚は間違いじゃなかったのだと。だが私を見る師の視線に気が付き、顔から血の気が引いた。


まるで、仇でも見るような殺気を込めた視線。そして、スキルレベル10の師との模擬戦が決まってしまった。


何処から飛んでくるかもわからない剣に私は翻弄され、目で追うことも出来ずに滅多打ちにされた。そして、体中をボロボロにされながら地面に横たわる私に向かって師は追放を告げ。門下生にスキルレベルは絶対であると告げた。そんな中でも私は先ほどの感覚が、格上であるはずの先輩を打倒したあの剣が嘘であるとは思えなかった。


両親に何も告げず、自分の剣の腕を上げる為に逃げる様に辺境の街に来た。辺境の街に着いてスキルを鑑定すると剣術スキルが1になっていた。


スキルレベルが下がったのは神からの罰では無いかと考えた事もある。だが私は必死にあの感覚を追い求めた。スキルから聞こえる声も、それを後押しするかの様に増えて行った。


剣の道を追い求めながらも生活はしなければいけない。生活費を稼ぐために冒険者として活動を始めた私の前にまたしてもスキルレベルの壁が立ち塞がった。


私がいくら魔物を倒してきても討伐依頼を受けさせて貰えなかったのだ。薬草採取の際に襲われ、返り討ちにしたポイズンラビットを見てもスキルレベルの低さから誰かの獲物を奪ったと言われ信じて貰えなかった。何度もホーンウルフやポイズンラビットを返り討ちにしても、鼻で笑われ、他の冒険者が獲物を取られたと証言すればそちらを信じてしまう。


職員や他の冒険者の心無い言葉に傷付き、冒険者の引退を考えていた時に出会ったのがミリアだった。彼女は自分が危険な森に同行すると言い出し、自身の目で私が討伐する所を確認するとまで言ってくれたのだ。ギルドマスターもそれに同行すると言い始めて一時期冒険者ギルドは騒がしかったのを覚えている。


最終的には2人が私に同行して、ホーンウルフを2頭仕留めた事で私の討伐依頼受注は認められた。他の冒険者はレベルの低い私が魔物を倒した事に懐疑的だったが。ギルドマスターの前で不正は出来ないと渋々納得した。その時から私の専属担当はミリアになった。


冒険者として討伐依頼を受けられるようになっても、スキルレベルが低いからと中々仲間に入れて貰えなかった。何とか仲間に入れて貰ったとしてもレベルの低さを理由に分配される報酬を減らされた。


たとえ仲間の中で一番魔物を倒したとしても、やれ自分の援護のおかげだとか、私が他の冒険者の邪魔をしたと難癖をつけられて報酬を減らされる。ギルド職員もミリア以外の職員は私のレベルの低さを理由に報酬の減額に協力する始末だった。


何度も頭を下げるミリアに謝る必要は無いと言いながらも、私は内心憤慨していた。そんなにスキルレベルが大事なのかと、私の方が剣の腕は上で獲物を沢山狩っているのにと。


そんなときは決まってスキルレベルの高い者達に打ち負かされてきた。その度にスキルレベルが絶対なのだと、お前の考えは間違っていると罵られた。


仲間に入り、レベルの低さから追放される日々。そんな日々の中で声を掛けて来たのが剣術スキルレベル10を持つコーザ達だった。自分の剣を見て剣術を学べば良いと言いながら近づいて来たのだ。


その頃にはすでにミダスの冒険者ギルドで私の仲間になってくれる者は居なくなっていた。1人での狩りには危険が伴う。仲間の居なかった私はその提案に飛びついた。


だが状況は変わらなかった。コーザ達もやはりスキルレベルの低さに報酬を減額し。さらには授業料と言って支払いを求めて来た。荷物運びや周囲の警戒も全て私に押し付け、自分達はゆっくりと休む。果てには体まで求めてくる始末だった。


私は自身の身を守りながらも、コーザ達に着いて行くしか無かった。1人で戦えると思える程、自惚れてはいなかったからだ。荷物持ちをしながらも、魔物相手に自身の剣を磨いていく。襲い来るコーザ達を撃退していたおかげで人を相手にした方が戦いやすくなってしまった。


思い通りに行かない私にコーザ達は業を煮やしたのだろう。私は依頼の途中で追放を言い渡された・・・。


コーザ達の仲間から外されれば私はミダスの冒険者ギルドで本当に1人になってしまう。何とか仲間として置いてもらおうと話をするが、追放は変わらない。そしてコーザ達は私を置いて行ってしまった。


自分の進む道が本当に正しいのか、師の教えの通りにしていれば今頃は凄い剣士になっていたのではと後悔の念が襲い掛かり、だがあの感覚は決して間違っていないと確信している自分も居て頭の中がぐちゃぐちゃになってしまった。街道の途中で悔しくて涙を流す私。そんな私に声を掛けてきたのがススムだった。


「大丈夫ですか?」


襤褸の服を纏い、ここら辺では珍しい黒髪に黒い瞳に幼い顔。体は細いが鍛えられているのが解る引き締まった体。身長は私よりも低く、だがどこか鋭い剣を思わせる雰囲気を纏っている。そんな男がいつの間にか私の傍に立ち、心配そうにこちらを伺っていた。


ススムは自分を憑き物落ちだと説明した。気が付いたら森の中に居て、街道で言い争う私達を発見したそうだ。そして街までの護衛を私にお願いしたいと言う。


私は腰に下げた小さな巾着しか持っていないススムを放って置く事が出来ずにその話を快諾した。憑き物落ちのススムと様々な話をしながら街道を進むと、ホーンウルフが街道に飛び出して来た。


私はススムを守る為に1人で戦った。師の教えではなく、我流の剣で戦う私をススムは笑うでもなく罵るでもなくじっと観察していた様に思う。その時は憑き物落ちゆえに戦い方を忘れ、私の剣の振り方がおかしい事を知らないのだと思っていた。


スキルを持たないというススムの素晴らしい解体を賞賛し、捨て置くしかないと思っていた獲物を持ちながら街に向かう私達。


そして街に近づき、突然ススムから模擬戦を申し込まれた。そこで受けた私の衝撃はやはり自分が進んで来た道は間違っていなかったと確信させるものだったのだ。


先手を譲った私には、ススムの攻撃は早すぎて全てが見えなかった。だがその体の動かし方は、私が追い求めている物の遥か先にある物だと感じたのだ。


その後は、私がススムに攻撃をした。しかしそのすべてを涼しい顔で受け流され、一歩もその場を動かせなかった。


ススムの動きを見て、スキルの声が言っていた事を理解した私はススムに剣術を習おうとこの時決心したのだ。スキルが無くともこれほど戦えるのだと。そう体現しているススムの道こそが私の目指している場所なのだとスキルが告げていた。


その後起こった冒険者ギルドでの騒動でも、森での狩りでもススムの剣は素晴らしかった。美しく、流れるような剣捌き。まるで剣と人が一体となったようなその動きに私はどんどんと魅了され、自分もいつかあの頂きに立ちたいと思うようになっていた。


私の剣の道はまだまだなのだと、スキルが無くなってからが本番だと話すススム。私は自分の感覚を信じ、ススムの言葉を信じ、そして自分自身にあるという剣の才能を信じてこの道を突き進む。もう迷う必要は無い。なぜならば、自身が目指す指標が現れたのだから。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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