第23話
進を送り出した女神タレスは自分が世界に対して何か出来る事は無いかとずっと考え続けていた。だがすでに終末が近づいている世界に中々干渉する事も出来ず。神託も降ろせない現状何も手出しできないという事実ばかりが積み重なって行き、また心が折れかかっていた。
「どうしましょう・・・。進さんを送り出したのは良いですが私に打てる手が在りません。このままでは進さんに全てを任せてしまう事に・・・。いや駄目です!!ここで折れては進さんに顔向けできません!何か在るはずなんです!!・・・・そう言えば進さんは無事に到着したでしょうか?少しくらいなら様子を見ても良いですよね?」
頭を悩ませながら折れそうな心を奮起させる女神様。ふと、送り出した進の様子が気になり、様子を見ようと何処からか水晶を取り出した。そして水晶に進の姿が映し出されると、女神様は驚愕した。
「なっ!!進さんを送り出す先が違っています!!どうしてですか!?また私がミスしちゃいましたか!?」
どうやら、当初予定されていた場所とは違う場所に飛ばされたススム。本来であれば街の反対側の比較的安全な森に飛ばされるはずが、大森林という魔物が蔓延る場所に到着していた。
「あぁ進さん!!急いでその場から移動してください!!せっかく送り出した進さんがすぐに死んじゃうのは駄目です!!申し訳なさで胸が張り裂けそうです!!」
自分のミスで転移場所が狂ってしまい、その所為で世界の為に働くと言ってくれた進が命の危機に陥ってしまった。転移前にもう一度確認しておけばよかったと後悔の念に苛まれ、進が早くその場から移動する事を願うタレス。すると進はその願いを受け取った様にすぐに動き始め、街道を発見する。
「あぁ良かった・・・。送るはずの森と同じ場所に街道が在って助かりました・・・。もし違っていたらと思うとぞっとします・・・・。」
大森林に入る為に整備されていた街道を運良く見つけた進は、女神の心配を知る事も無く街を目指して動き始める。
「場所はずれていましたが体は大丈夫そうですね。若返らせた反動等が無いか心配していましたが、それも無さそうです。」
進が調子よく街道を進んでいるのを見て安心する女神。すると、進が街道の先で何やら騒いでいる冒険者パーティーを見つけたようだ。
「あぁ!!ここに居たのですか!!ならば転移場所がずれたのも納得です!最初に導くのはこの人にすると決めていましたから。」
進の転移先がずれたのは、女神の加護で最初に教育を受けるべき人の元に誘導されたからだと解った。そして進は加護が導く通りに、仲間から追放された女性と共に街へ向かって歩き出す。
「加護もきちんと働いていますね。この分でしたらすぐに教会にも来てくれるでしょう。」
女性から色々と話を聞く進、そしてホーンウルフを撃退した女性の剣術に眉を潜めていた。それを見て苦笑を浮かべる女神。
「そうなのです。この世界はこのレベルなのですよ。」
その後の模擬戦で先ほどよりも動ける様子を確認していたが、それでも進の修めた武術には敵わない。そんな様子を見て幻滅されるのではとハラハラしていた女神の目には、やりがいがあると気合を入れる進の顔が映っていた。
「良かった、幻滅されなくて・・・。」
ホッとしたのもつかの間、街の様子を見て女神も驚きの声を上げる。
「えっ!?どうして木の柵になっているの!?」
女神の驚きは続く、街と紹介された規模がどう見ても村の規模だった事、冒険者たちの質の低下。数多くの技術の喪失。その事実を進の姿を通して確認した女神は、自分が塞ぎ込んでいた間に世界はさらに退化していた事を知る。
「そんな、ここまで文明が退化していたなんて・・・。やっぱり私何て・・・。」
自分の不甲斐無さにまた圧し潰されそうになっている女神。だがその目に進が世界を、人々を救おうと努力する姿が映る。
マナーの悪い冒険者を叩き、スキルに溺れる事が間違いだと示した進。
剣の道が好きで、冷遇されても諦めない剣士に剣術を教え。伸び悩んでいた事に対して答えを示し、体の鍛え方や力を使う為の心構えを教え人類に希望をもたらそうとする進。
夢を追う事を諦められずに足掻く鍛冶屋に、失われた製鉄技術を行う為の鍛冶工房を用意して願いを叶え。鋼を復活させ武器まで作り上げた進。
人類の脅威である魔物を数多く打倒し、大森林に魔物が溢れた原因を探ろうとする進。
進には全く関係なかったはずのこの世界の未来を、勝手に呼び出され一方的に託されたはずの彼が、諦めずに動き続ける姿に女神は感じる物が在った。
「あれ美味しそうですぅ・・・お供えしてくれないかなぁ・・・・。」
進が大森林で作り上げた料理を見ながら映っている女性と同じように涎を垂らしながら指を咥える女神。どうやら感じ取ったのは食欲だったようだ。気持ちが持ち直したのも落ち込んだ気持ちよりも食欲が勝っただけかもしれない。
美味しそうに食事を取る2人の様子にお腹を押さえながら映像を見る女神。そして食事が終わり、女性が天幕の中に入ると朝食の準備をする進の思念が女神に届いた。
『生姜が在ればなお良かったのですがねぇ。』
そこで女神はピンと来た。進は自分の眷属の様な物なのだから、教会で祈りを捧げるのではなく、直接遣り取りをする方法を持たせても良いのではないかと。だがそこで問題なのは進がスキルを持たない事だった。
スキル神託はこの世界で特殊なスキルだった。神と交信する為に方法を覚える入門書の役割を果たし、全てを収めれば消えるスキル。才能を元に作られるスキルではなく、才能を付与する為のスキルだったのだ。だがそんなスキルでも進には持たせる事が出来なかった。
女神は必死に考えた。なぜならば進に直接声が届けば、あの料理をお供えして貰えるかもしれないからだ。女神に対してお供えすると、実際に女神の元にその品が届く。今急げば進が朝ごはんに準備している物がお供えとして届くかもしれないのだ。
これまで以上に頭を回す女神。その表情は鬼気迫る物が在り、世界を救う事よりも真剣に考えているんじゃないか?という有様だった。そしてとうとう女神は抜け道を発見する。
「そうです!!魔石として連絡手段を渡せばいいのです!!本人が欲しがっている生姜と一緒に!!」
魔物とは瘴気が何かに憑依して作られる物であり、世界に蔓延したバグの一種だ。魔石はそのバグの結晶であり、その特性は何を元にしたバグなのかで決まる。
そのバグに自身の都合の良い物を選べば良いと女神は考えた。バグを利用する等女神として良いのか?と思わなくも無いが、女神自身がバグを消せないので、腹いせに都合の良い様に使ってやろうという思惑だった。
「瘴気の中に女神と通信できてしまう呪いを仕込んで・・・。確か大森林の中に生姜の実が・・・。あぁありました!!まだ根が生えているのは1つだけですがこれで行きましょう!!さぁ後はバグを含んだ瘴気をこの生姜に流し込んで・・・ふぬぬぬぬぬぬ!!がんばれ私!!あの美味しそうな料理の為にぃぃぃぃぃ!!ふんぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!出来た!!」
何とこの女神、食欲だけでバグと瘴気を操り望む魔物を作り出してしまったのだ。そして出来上がった魔物は女神の望み通り進のいる場所に向かって歩く。そんな様子を見ながら一仕事終えたと額を腕で拭く女神。
食欲に負けて駄女神の様相を呈してきたタレスだが。後に自分が行った偉業を振り返って「あっ!」と声を上げる事になる。
「バグに指向性を持たせて魔物が作れるなら色々出来るじゃないですか!!」
そう叫んだタレスはバグの志向制御と魔物化の研究を始めた。10年後、世界中に居る魔物の体から金属や道具等が稀に落ちる様になる。タレス自身が名付けたドロップシステムという名のそれは。ずっと活動を続けて来た進の手助けをすると共に、世界復興を大きく進める偉大な一歩になるのだが、この時の駄女神は気が付かない。なぜならば。
「進さん!!お願いします!!私にもその美味しそうな食事を下さい!!」
思考が食欲に全振りしている現状では自分の行った事に気が付かないからだ。駄女神がその事に気が付き、偉大な女神に戻るのは進の料理が女神の元に来るかどうかがはっきりした後の話である。
「お願いします進さん!!気付いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
本質はこのままなのでもうこの世界は駄目かもしれない。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます