第18話
「本当にこれを私が作り上げたのか?」
「えぇ、お見事です。」
私達の目の前にあるのは完成した刀。漆などの塗料が在りませんから素朴な木材の色が強く出た鞘に納まっているそれは、紛れもなく日本刀でした。
「私が・・・これを・・・。」
「柄と鍔、それと鞘は私が作りましたけどね。これらも一人で作れるように明日教えますよ。」
「・・・・・・・。」
自身が求めていた金属で作った初めての武器です。その完成は嬉しさも一入(ひとしお)でしょう。しばらくこのまま感動に浸らせて上げたいのですが・・・・。
「なぁなぁヤジカ!完成したのであれば試し切りが必要だろう?私にやらせてくれ!!」
「ベルジュさん、もう少し待ちましょう?」
「このような剣は見たことが無いのだ!!今すぐに使ってみたい!!」
はい、このように完成した刀を見たベルジュさんがずっとヤジカさんの周りで刀を使いたいと懇願しているのです。勝手に持っていって試し切りをしないだけ理性は残っている様ですが。このままだといつ暴走してもおかしくありませんね。
「ヤジカさん。表に試し切り用の巻き藁を用意しています。まずは切れ味を試しましょう。」
「・・・あぁ、解った。」
「私に!!私にやらせてくれ!!」
「駄目ですよ。まずは製作者であるヤジカさんが試します。それが作った物の特権です。」
「ではその後だ!!その後試すからな!!」
「と言っていますけどどうですかヤジカさん?」
「あぁ、構わないよ。」
試し切りの為に工房の裏手に出てきました。炭焼き窯からは今ももうもうと煙が上がっていますね。川の傍に建てた小屋の近くに少し広くなっている場所が在ります。そこに私は木の棒に藁を巻いた巻き藁を用意していました。
「ではヤジカさん、自分の手で作品の出来を見て下さい。刃を立てる事を意識して、もし苦手でしたら真上から落とす感じで振ると良いですよ。」
「あぁ。・・・・・・ふぅ・・・・・行くぞ!!」
「ワクワク!!」
シュッ!!
ヤジカさんが刀を抜き、右上から左下に向かって振りぬきました。何とかヤジカさんは刃が地面にぶつかる前に止めましたが、今起こった事に驚いて目を見開いています。
「ん?空振りでもしたのかヤジカ?斬れてないぞ?失敗か?」
「ふふふ、最初の一振りでこんな業物を作ってしまうとは、いやはや鍛冶工房作成の時から思っていましたがヤジカさんの鍛冶師としての才能は本物ですね。」
「・・・・・・ふぅ。ベルジュ。斬れてないと思うのならその巻き藁を触ってみろ。」
「いや、どう見たって斬れてな『ゴトンッ』・・・・・斬れてる・・・・。」
今回作り上げた刀が鋭すぎたのでしょう。あまりにも鋭利な刃物で切った物体は、その断面に吸着力が生まれて元の状態に留まる事が在ります。今回の巻き藁もそんな状態だったのです。
「あんなに軽い手ごたえだったのに切断できている。私は何て物を作り出したんだ・・・。」
「武器は使い手次第。作り手に責任はありませんよ。でももし、その手の中の巨大な力に臆したのであれば、作る相手をヤジカさんが見極めれば良いのです。」
巻き藁を切った刀と、それを行った自分の手をじっと見ながら震え始めたヤジカさん。恐らく、いまヤジカさんを襲っている感情は恐怖。今までこの世界で忘れられていた圧倒的な力の一端を垣間見てそれを恐れたのでしょう。だんだんと顔が青ざめて行くヤジカさんに私は先達としてアドバイスを送りました。
「見極める・・・・。」
「えぇ、功績や金ではなく。人柄や普段の行いを見て打つかどうか判断すれば良いのです。それに、その刀が終着点ではありませんから。」
「これが終着点では無いのか?」
「私の見立てで申し訳ないですがそれはせいぜい業物に手を掛けたくらいでしょう。その先に真の業物、良業物、大業物、最上大業物と等級が上がります。この等級は刀の強さを表すもので、魔物をどれくらい両断出来るかで判断できます。恐らくその刀では5回、魔物の体の分厚い部分を切れば切れ味が落ちてしまうでしょう。首などの急所を切るのであればもっと行けるでしょうけどね。」
本来の等級の判別方法ですが成人男性の胴体をどれほど切断できるかなんですよね。ですがまぁここでは言わなくても大丈夫でしょう。
「それでもこれは一刀で魔物を両断できる。ススム、いや師匠!教えて貰って感謝する!」
「私にもヤジカさんにはベルジュさんと私の刀を打ってもらうという打算があっての事なのでお気になさらず。それよりも、後ろで今にも飛び掛かりそうな人を何とかした方が良いと思いますよ?」
「ん?はっ!!しまっ「早く私にも使わせろー!!」危ないから飛び掛かって来るんじゃない!!」
巻き藁の断面をじっとみて、つんつんと突いていたベルジュさんがとうとう我慢の限界だったみたいですね。ヤジカさんの持つ刀を奪おうと飛び掛かって行きました。刃物を持った人に飛び掛かるのは本当に危ないのでやめましょうね?
「解った!!渡す!!渡すから!!」
「最初から素直にそう言えばいいんだ!!」
「良くないですよ。ちょっとベルジュさんは落ち着きましょう。」ピシッ!!ペシッ!!
「あたっ!いたっ!何をするススム!!」
「良いですか?今から人をも両断できる武器を持とうという者がそのような浮ついた気持ちでどうするのです?その刀を持った瞬間から、その手にした力で成したことは全て持ち主であるあなたの責任となるのです。ですから、そんな覚悟も自覚も無い人にその刀は渡せません。武器を振るう覚悟が出来るまでお預けです。」
「そんなぁ~・・・・。」
「ほらっ!!シャキッとする!!」ビシッ!!
ベルジュさんの様に浮ついた気持ちで刀を振るえばどんな事故に繋がるか分かりません。私はそばに落ちていた枝で言葉では止まらないベルジュさんの足を打ち、物理的に止めました。その後は、刀を振る上での心構えを説きます。と言っても内容は簡単な物。
武器の力は自身の力にあらず、武器を御してこそ己の力となる。
力に飲み込まれる者は3流。力を使いこなせたものは2流。力を使わなかった者こそが1流。
力を使うのならば他者の為に、己が為に使う力は唯の暴力である。
これらを懇切丁寧に教えただけですね。
「すがすがしい顔をしているところ悪いがススム。ベルジュが限界だ。」
「ごべんだざいぃぃぃぃぃぃ。」
「おやおや、ちょっと厳しくし過ぎましたか。」
ベルジュさんが膝を抱えて泣き始めてしまったので試し切りは終わりですね。ベルジュさんもそれでいいと言ってくれていますし。
では私とベルジュさんの刀も作りましょうか!!大太刀は森では必要無いでしょうし、太刀と小太刀は用意しておきたいですね。あとはどんな場面でも対応できるようにこまごまとしたものも作りましょうか。
「さぁヤジカさん、これから忙しくなりますよ!!今度は機械ではなく私が合いの手を入れて刀を作りますので、その方法も覚えて下さい。」
「人同士でやる事もあるんだな。解った、手伝ってくれ。」
「ベルジュさんも、反省したのであればそれで良いですからそろそろ泣き止んで手伝ってください。」
「わっ、私は泣いてないぞ!!説教をするススムが怖くなんてないぞ!!」
「はいはい、泣き虫ベルジュはさっさと手伝え。ススム、炭を取って来てくれ。」
「泣いてない!!くそ!!その武器より良い物を絶対作ってやる!!」
「その意気ですよ。さぁ、作業に取り掛かりましょう。」
その後は業物の太刀と小太刀、そして私が使いたかった色々な道具をヤジカさんと作り上げました。防具も用意していたので時間は掛かりましたが、良い物が出来ましたよ。さて、次はベルジュさんの本格的な修行です。ついでに森の奥の様子も見て来ましょうか。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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