第4話 ウサギです

   *アパートでウサギを膝に乗せ、撫でながら


壮:(ため息)


ウサギ:

「?」


壮:

「なあ、ウサギ。秀のヤツさ、最近うさぎを飼い始めたんだって。

俺みたいに家の中だけで飼ってるんじゃなくて、うさぎにリードを付けて小型犬みたいに散歩に連れ出して、近くの河川敷を歩いてたら、うさぎ好きな女子高生に話しかけられて、付き合うようになったんだってさ。


JKの彼女か……別にうらやましくはないけどさ。

だから、当分、シュウは遊びに来ないんだよ」


(大きなため息)


ウサギ:

「……! ……!」


(壮のシャツの袖をくわえて、引っ張る)


壮:

「ああ、悪いな。今ちょっと遊んでやる気分になれないんだ。後でな」


ウサギ:(あきらめない)


壮(心の声):

「小さい身体からだ目一杯めいっぱい使って引っる姿って、かわいいな」


ウサギ:

「……!」

しびれを切らして、後ろ足をダン! と踏み鳴らす)


壮:

「怒ってる! わかった、わかった! 一緒に遊ぼうな!」


可笑おかしそうに笑う)


(買ったばかりの布のサッカーボールを転がすと、ウサギもぴょんぴょん跳ねながら、頭でボールを転がす)


「お前がいてくれて良かったよ」


   *河川敷


壮:

「スーパーで急きょ仕事が入ったけど、なんとか終わったな。

はあ〜あ」

(トボトボ帰る)


壮:

「夕焼け雲が浮かんでる空が、どこか物悲ものがなしく見えるのって、これで何回目だ?」

(ため息)


「うん……?」


(正面に歩いてきた女子が足を止め、思わず、壮も立ち止まる)


壮(心の声):

「肩につくくらいの栗色のサラサラした髪に、両耳のあたりにウサギの耳みたいなピンクの楕円形だえんけいのピンをめてる。

ブルーグレーの瞳、明るいベージュ色のファー付きノースリーブに、同じ色のショートパンツ。


俺と同じくらいの年の子かな?

めちゃカワ!


(心臓がドキドキと高鳴り、壮の頬に赤みが差していく)


見知らぬ女子:

「……」

(はにかんでうつむく)


アプリ通知音:

「ぽこーん」


壮:

「……っと! 一瞬何の音かわからなかったけど、アプリの通知音か! あのアプリって消えたんじゃ……?」


(バイブの振動が止まらない)


「す、すみません、ちょっと待って……」


壮(心の声):

「……って言うのもおかしな話だけど……」


(慌ててスマートフォンをポケットから出す)


アプリの文字:

『おめでとうございます! ゲームクリアしました!』


壮:

「なんだ? このアプリ、勝手に開いてるぞ」


アプリの文字:

『もふもふちゃんは理想の姿となって、あなたの前に現れました!

これで、ゲームはコンプリートです!』


壮:

「……え?」


(画面と目の前の女子を交互に見る)


「……ええ?」


壮(心の声):

「見れば見るほど、そこの女の子が、飼ってるウサギに思えてくる!」


壮:(信じがたいながらも)

「……ウサギ……なのか?」


見知らぬ女子:(うつむいて恥ずかしそうに)

「……はい」


壮(心の声):

「確かに、見た目や仕草しぐさはすっごく好みだけど……」


見知らぬ女子:

「ボクです。ウサギです」


壮:(目を見開く)

「は!? ちょっと待て、今、ボクって……。まさか、……オスだったの?」


見知らぬ女子:(上目遣うわめづかいで見て、うなずく)

「はい」


壮:

「えええええ!」


(ガクッと地面に手をつく)


「頼むから、元のウサギの姿に戻って! もふもふのままで!

どんなに可愛くてもダメなんだ!

もふもふの方でいて!」

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