第5話 じゃあ、リセットする?

アプリの文字:

「やり直したい時は、右下の方にある『リセットボタンをタップしてね。成長したウサギの姿だけが変わるよ』


壮:

「そっか! じゃあ、今度こそ美少女に……!」


(タップする)


筋肉質男ウサギ(野太い声):

「やあ、壮! キミは男らしい方が好みだったのかい?」


壮:

「何その筋肉質なの!? 違う違う! 絶対違うから! 元の姿に戻ってーー!」


筋肉質男ウサギ:

「でも、成長しちゃったから、もふもふにまでは戻れないんだぜ」


壮:

「だったら、さっきの美少女の姿した男の娘でいいから!」


ウサギ:

「そうかい。じゃあ、課金しないとだな。七万円」


壮:

「ええーーっ!?」


   *


ウサギ(美少女男の娘バージョンに戻ってる):

「壮、起きて。朝だよ」

(寝ている壮をゆさぶる)


壮:

「う、う〜ん……ハッ!?」

(ガバッと起き上がる)


「ウ、ウサギ……!」


ウサギ:(にっこり)

「おはよう」


壮:

「あ、ああ……おはよう。なんだ、さっきのは夢だったのか」


壮(心の声):(部屋を見回しながら)

「今まで飼ってた本物のウサギは、昨日家に着いてからずっといないし、……ホントにこの子が……ウサギが人間化したヤツなのか?

どうなってるんだ、いったい……」


ウサギ:(無邪気ににっこり)

「ねえ、壮、おなかすいた」


壮:

「へ? あ、そ、そうか。もう朝ごはんの時間だもんな。えーと、チモシーは……」


ウサギ:

「ううん、もうボク、そういうの食べないよ」


壮:

「え? そうなの? じゃあ、何食べるの?」


ウサギ:(にっこり)

「壮たちと同じもので大丈夫だよ」


壮:

「あの……ホントにホントに、あのウサギ?」


ウサギ:

「うん、そうだよ」


壮:

「……アプリのウサギが成長して、ヒトになった……のか?」


ウサギ:

「よくわかんないけど、こうなってた」(にこっ)


壮:

「え〜、お前もよくわかってないのかぁ」


ウサギ:

「うん」


壮:

「……それで、あの、育成終了ってことは、これから先どうなるんだ? お前、アプリの世界? か、どっかに帰るのか?」


ウサギ:

「え? ボクのハウスはここだよ」


壮:

「ハウス? ……そこの木のハウスには、もう入らないし……。

え? まさか、この部屋に……俺と一緒に……?」


ウサギ:(にっこり)

「うん。ボク、これからも壮と一緒にここに住むよ」


壮:

「なっ! なんだって〜〜!

だ、ダメだよ、ダメっ! ここは、俺んだから! ほ、ほら、男二人じゃせまいし……!」


壮(心の声):

「男? ……どう見ても女の子……いや、男のか。なら問題ない——ないの!? ホントに!? よく考えろ、俺!」


ウサギ:

「寝る時も、今までみたいに一緒に寝れば、ベッドも一つで足りるし」


壮:

「何言ってんの!? 今までとは大きさが違うだろ、大きさが!」


ウサギ:(ちょっとがっかり)

「そっか……ダメ……なんだ?」


壮:

「そ! ベッドは一人分だからな! 男二人も並んで寝られないよ」


ウサギ:

「オトコ……ボク、オトコ……」


壮:

「え、なに、どうしたの? だってオスなんでしょ?」


ウサギ:

「……壮は、オトコは嫌いなの? 秀はオトコなのに仲良かったじゃない。しばらく泊まったりして、二人ともボクと遊んでくれたし、可愛がってくれたのに」


壮:

「ウサギだった頃のことも覚えてんのか」


ウサギ:

「うん、覚えてる。秀が言ってたね。成長したら美少女になるんじゃないかって」


壮:

「あ、ああ。そんなことも言ってたな」


ウサギ:(さびしそうな声で上目遣い)

「壮は、ボクが女の子の方が良かった?」


壮:

「う〜ん……まあ、女の子だったらーって、ちょっとだけ期待しちゃってたけどな……」


ウサギ:(涙ぐむ)

「わかりました。じゃあ、さようなら」


壮:

「え? なに、いきなり?」


ウサギ:(泣きながら)

「リセットして最初からやり直すしかないので、課金してきます! 七万円で!」


壮:

「七万円……て!? あれは夢じゃなかったのか!?」


ウサギ:

「そこの引き出しにある封筒に入ってたお金で!」


壮:

「それ今月分のバイト代、下ろしてきたばっかなんだからやめろー!

お願いだから、そのままでいてー!」


   *


壮:(独り言)

「はあ〜、なんとかリセットはしないで済んだけど……どうすんだ、あれ?」


ウサギ:(はにかむ)

「ねえ、壮」


壮:

「うん?」


ウサギ:

「そのう、ボクたち、一緒に住むと、人間からしたら、……ドウセイ……っていうのかな?」


壮:

「ぶはっ!」


ウサギ:

「前に、壮と秀がつけたテレビで、そういうの見たよ」


壮:

「……ああ、テレビつけっぱなしにしてたら、そういうドラマとかになってたのか? 俺たちテレビそっちのけで喋ってたから覚えてないけど。

ウサギは、そういうので人間の知識とか学んでたのかな?」


ウサギ:

「壮がガッコウ行ってる間も、テレビのリモコンつけて見てた」


壮:

「なにー? お前、そんなかしこかったのか!」


ウサギ:

「うん、話は全部わかったよ。壮たちの話もテレビの話も」


壮:

「へー、そ、そうなんだ? 一応、成長して人間になってもすんなり生活出来るような仕様しようになってたのか。

それでも、なんか、まだ信じられないな。アプリからお前が出てきたなんて」


ウサギ:(ゆびついて、にっこり小首をかしげる)

「これからもよろしくね、壮!」


壮:(見入ってる)

「………………って、あっぶねー! 今、うっかり可愛いって思っちゃったぜ」


ウサギ:

「え? なになに? 可愛いって、ボクのこと?」

(ウキウキする)


壮:

「ちげーよ」


ウサギ:

「なんだ」(しゅん)

「違うのか……」


壮:(ちょっと可哀想だったかな? と)

「あ、いや、可愛いってのは、あくまでも、今までもふもふだったウサギと同じような可愛さってことだよ」


「自分で言ってて無理があるな」


ウサギ:(にこっ)

「それでもいいよ。もふもふの時のボクと同じくらい可愛いなんて、嬉しいな!」


壮:(混乱気味)

「……んんん……?

まあ、一人よりは、今までみたいにもふもふがいて、それが喋れるようになっただけ、一人でいるよりはさびしくない……って考えてみればいいのか……」


ウサギ:(にこにこ)

「うん、そうだよ、それでいいと思うよ」


壮(心の声):(ウサギを見つめる)

「今後の同居生活をシュミレーション……」


想像のウサギ:(*エコー)

「ウフフ、壮、捕まえられるかな?」

(部屋の中で追いかけっこ)


想像の壮:(*エコー)

「あはは、待てよ〜、ウサギ〜!」


(キャッキャウフフ)


壮:

「……いや! やっぱ違うだろ!」

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