第2話 謎のウサギ

壮:

「お、お前、どこから入ってきた?

いや、冷静に考えろ、俺。普通に考えて、こんなアパートの二階なんかに、ウサギがわざわざまぎれて来たりしないだろ。

まさか、昨日見てたアプリの……?」


(スマートフォンを開ける)


アプリの文字:

『「もふもふ育成シュミレーションゲーム!」をインストールありがとうございます! さあ、何が来るかな?』


壮:

「寝ボケて知らない間に入れてた? ……にしても、俺、猫ならいいかもって思ってたんだけど、なんでウサギ!? しかも、本物って……! 飼い方もわかんねーし」


ウサギ:(震える)

「ふるふるふるふるふるふる」


壮:

「ん? ウサギが部屋の隅に引っ込んで、なんかふるふる震えてるな。

えーと、アプリの説明書きには、ウサギの場合は大きな声に驚いたり、初対面でジロジロ観察すると緊張する——


そっか、ウサギは耳が敏感なんだもんな。うっかり声デカくならないように気を付けよう……って、だからなんで本物!?

アプリの運営に問い合わせるか。


だけど、アプリとこのウサギが無関係だったら思いっきりハズイし、ここにウサギがいる謎も深まるばかりだぜ。返事が来るまで気が気じゃないなー」


(ドアの開閉音)


「う〜ん、アパートの隣の人も知らないっていうし、……もしかしたら、秀が持ってきたのかも知れない」


(スマートフォンの電話の着信音)


壮:

「秀、お前昨日ウサギ連れてきた?」


秀(電話の声):

「は? イミフ!(笑う)

お前大丈夫?(ゲラゲラ笑う)」


(電話を切る)


壮:

「親が送ってきた……わけねーし……。念のため、清夏にもきいてみるか」


(電話の着信音)


清夏(電話の声):

『なにそれ? 私がウサギなんか持ってくわけないでしょ? だいたい、あんたんち知らないし』


壮:

「……そうだった……!」


清夏:

「ついでに言っとくけど、彼氏に知られたくないから、壮のことSNSの『フレンド』から削除していい? っていうかするから』


壮:(思わず泣きそうになる)

「うう……」

 

通知音:

「ぽこーん」(育成アプリの通知音)


アプリの文字:

『お家のもふもふちゃんは元気かな? 粗相そそうをしても怒らないでしつけてあげてね!』


壮:

「粗相……だと……?」


ウサギ:

「サッ!」


(部屋の隅から窓のカーテンの下に身体を低くして座った)

(元にいた場所には小さい丸い粒が転がっていた)


壮:

「あっ! お前、何してんだよ!」


ウサギ:

「ビクッ!」(ちぢこまる)


壮:

「そ、そうか、怒っちゃいけないんだったな。運営から返事が来る前に、まずはトイレを買ってしつけておこう。じゃないと、部屋中悲惨なことに!


ま、まあ、フンは別に臭わないけど……」


(こわごわウサギのフンを片付ける)


「そーだ! 駅の手前のショッピングモールにペットショップがあったな。そこでウサギのトイレとか買うか。

アプリは無料だけど予想外の出費だ〜。課金か?」


通知音:(間の抜けた音)

「ぽこーん」


アプリの文字:

『ウサギ系は骨が弱いから、特に抱っこの仕方には気を付けよう! 後は、もふもふちゃんをどう育ててあげたらいいか、自分で調べて考えてみよう!』


壮:

「えーっ、なんだよそれ! もう丸投げかよ! 何だこのクソゲー!

運営から返事はまだだけど、やっぱこのアプリとこのウサギ、ぜってー関係あるだろ!」


   *


(アパートのドア開閉)


壮:

「ペットショップで店員さんに教えてもらって買ったのは……。


(袋から取り出しながら)


とりあえずウサギ用のトイレ一式と、えさは牧草とペレットっていう固まった餌と、ウサギが隠れやすいような木で出来た箱のハウス、これで全部か」


ウサギ:

「じー……」


壮:

「お、ウサギ、そこにいたのか。

前足ちょこんてそろえて、丸くなってて、出迎でむかえてくれてるみたいだな。(思わず笑う)


さ、これがトイレだぞ、覚えてくれよ」


ウサギ:

(ぴょこん、ぴょこんとゆっくり近付いていく)

(しきりに匂いを嗅ぎながら、トイレ用のあみに、そうっと、ふさふさの前足を踏み入れる)


壮:(驚かせないよう小さめの声で)

「おっ、気に入ったか? 身をかくすものがないと落ち着かないと思って、ほら、こっちには木のハウスがあるぞー」


ウサギ:

(ぴょこん、ぴょこん)


壮(心の声):

「しばらく警戒してたけど、ウサギのやつ、匂いをいで、そのうち、あごの下をり付けて、丸い入り口からおそるおそる入っていったな」


壮:

「とりあえず、気に入ったか?」


ウサギ:

「……」


壮:

「ふう。(安心する)

……あ、レポート忘れてた!」


(ごそごそレポート用紙とシャーペン、消しゴムなど座卓に用意しながら)


今時いまどき紙で提出とか、あり得ないだろ」

(ブツブツ言いながら座卓で紙に書き物をする)


ウサギ:

「ヒクヒク」

(周りをうかがい、鼻とヒゲをヒクヒクさせながら、ぴょこ、ぴょこ……と、ゆっくり壮に近づく)


壮:(ふっと笑う)

(やさしく)

「今、俺、レポート書かなきゃならないんだ。お前は、そこにいなよ。

えーと、検索検索……」

(スマートフォンで検索しながら作業を続ける)


ウサギ:

「じー……」

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