もふもふライフはウサ娘と!?

かがみ透

第1話 もふもふ育成アプリ

【登場人物】


そう:十九歳。大学一年生の男子

清夏きよか:同じ学年の女子

シュウ:同じ学年の男子で友人

慶大けいだい:清夏の新しい彼氏

アプリの文字:常にハイテンション

ウサギ:本物のウサギ、見知らぬ女子、のちに男の娘


【台本】


   *バイトの帰り道、河川敷かせんしき


そう

「なっ、……なにぃーっ!? 清夏きよか からのSNSの文字——」


清夏きよか文字:(淡々と)

『別れよ』


壮:

「なんで急に!? い、いや、落ち着け、俺! 読み間違いかも知れ……いや、たった三文字を読み間違えるわけないか。


ここは、あたふたせずに『どんな時も俺は大人でしょ?』ってよそおうんだ。

俺って意外と、大人でしょ〜? って」


壮の文字:(余裕のある言い方で)

『なんで急に? 俺、何かやらかしたかな?』


壮(心の声):

「彼女とは、つい先週の土曜日にお台場で遊んだばかりで、俺に不満があるようなそんな風に思っている様子は微塵みじんも感じられなかった。


 ……と、思う。

 ……が、自信がなくなってきた」


壮の文字:

『もし何かやらかしてたなら言って。悪いところは直すから』


清夏の文字:(明るく)

『壮には別に不満はないけど、K大生にコクられちゃって。もう返事しちゃったし』


壮:(怒りより驚きの方が強く)

「え? なに言ってんの、こいつ。俺というものがありながら、K大生なんかに『告られた』ってだけで?」


清夏の文字:(ウキウキ)

『壮もそこそこイケメンだけどさ、その人は誰が見てもイケメンなんだよ。しかもK大生! 合コンで話弾んじゃってさ』


壮:

「まあまあな大学の俺らよりもずっと頭が良くてしかもイケメン……。

K大ってことはお坊ちゃん……ってことは、ハイスペック王子様……。


女って、結局は、白馬のハイスペック・イケメン王子様を待ってるのかよ……。

今後の就職も何もかも、横からハイスペック王子に奪われてく暗示みたいで、ショックはマシマシだぜ!


この先も女子と付き合うことがあったとしても、結局はハイスペック王子に奪い取られていくのか……!」


(トボトボと歩く)

(夕焼けに照らされた河川敷では、キャッチボールをしている小学生男子たち、敷物を敷いて酒盛りをしている大人たちがいる)


壮:(ため息をついて空を見上げる)

「バイト帰りに見るいつもの夕焼け色に染まってるこの風景も、今はどこか物悲しく見えるなぁ。


うっすら下の方に見える紫色、あれが徐々に空を覆い尽くし、暗闇に染めるんだ。


その絶望を、アパートで一人で迎えなければならないのかぁ……」


(足を速める)


壮:(泣きそうになるのをこらえて)

「ううう」


   *壮のアパート。秀が遊びに来ている


壮:

「ちきしょー! 俺のいったいどこが不満だったんだよぉ! 清夏キヨカのヤツ!

カオが王子じゃないからか? K大じゃないからか?

男の良さはそこで決まるのかよ!」


シュウ:(ケロッと)

「そうだったんじゃね?

いきなり呼びつけるから大したもん持って来られなかったけど、缶ビールと柿の種、するめ、コンビニで買ったキャベツの漬物、胡瓜のぬか漬け、ソーセージの盛り合わせ」


(座卓に並べていく)


壮:

「うわっ! 何お前こんなに買ってきてんの?」


秀:

「安心しろよ、買ってきたのは漬物とソーセージだけだから。後は、家にあったのを持ってきた」


壮:

「いいなぁ、地元は。買ったやつは半額払うよ。


(小銭を置く)

これで足りるか?」


秀:

「オッケー」


壮:

(冷蔵庫からペットボトルのオレンジジュースを出した)

「いいなぁ、秀は。もう飲めるんだもんな」


秀:

「悪いな。俺だけ缶ビール買ってきちゃって」


壮:

「いいよいいよ。じゃあ、とりあえず、乾杯しようぜ!」


秀:

「おう」


(壮と秀、グラスと缶をカチンと合わせる)

(秀はビールを飲みながらテレビを点け、美少女アニメを見る)


壮:

「そうか! 俺が飲めないからか! 同い年でも清夏はハタチ過ぎてるからもう酒飲めるけど、俺は早生まれだから来年まで飲めないし!


イケメン・ハイスペックK大王子は飲めるのか。くっそー、なんもかんも俺を上回ってんなー!」


秀:

「だからお前もさー、リアルなんかやめて二次元にしろよ。二次元は裏切らないんだぜ。しかも、リアルよりカワイイし」


壮(心の声):(真面目に)

「秀は高校の時、『好きな人が出来たから』とだけ言われ、三週間で別れた経験を持つ、今の俺の気持ちを一番わかってくれる貴重な友人だ。


だけど、そのアドバイスはちょっと違う」


壮:(ため息まじりにポツンと)

「はあ、……癒されてぇな」


(放心状態でジュースを一口飲む)


壮:

「誰かに優しくされたい」


秀:

「うんうん、そうだな。

(テレビを見て)あははは!」


(その後、秀が帰った後、食べ残しを片付ける)


壮:

「あ、そういえばソーセージ、俺、一口も食ってなかったわ……」

(ため息)


(スマートフォンを開く)


壮:

「わかってはいたけど、……清夏からは何も来てないなぁ」

(ため息)


(そのままなんとなくネットサーフィンをする)


壮:「さっき秀は、『そんな時は美少女育成ゲームがお勧めだぜ!』なんて勧めてくれたけど、そういうんじゃないんだよなー。でも、ま、気晴らしになるなら……。


あった、これか。

美少女が成長していって、可愛い服とか買ってあげると喜んでくれるのか。二次元だとエモーションかわいいな。


しっかし……、服買ってあげるのって課金じゃねーか! 無料でできるヤツないかなぁ」


(育成ゲーム系をスクロールして眺めていて、ふと指が止まる)


アプリの文字:(ハイテンションなボイス)

『もふもふ育成シュミレーションゲーム!』

『あなたの日常に癒しを! 何が来るかはお楽しみ。成長させると理想の姿になるよ!』


壮:

「理想の姿って、カノジョにでもなってくれるのかよ?」


(ふっと、乾いた笑いがこぼれる)

(リアルな動物イラストに目が留まる)


「絵は力入ってんなー。動物イラスト、すげえリアル。

……ああ、猫は可愛くていいな。小学生ん時、飼ってたしな……。


猫がいてくれたら、また違うかもなぁ……」


   *朝


(カーテンから差し込む光で目が覚める)

(壮、床から身体を起こす)


壮:

「う、う〜ん……ああ、寝落ちしたのか。服のままだし、床に横になっていたせいで、身体からだがあちこち痛い。


えーと、スマホ、スマホ……あった」


壮:(大きく伸びをする)

「ふあ〜あ(欠伸あくび

……ああっ!?」


(そのまま、しばらく身動き出来ずに、ラグの上にちょこんと座っているものを凝視ぎょうしする)


(黒いつぶらな瞳と目が合う)


ウサギ:(キョトン)

「……?」


壮:

「……わぁっ! なっ、なんだ!? ウサギがいる!?」

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