第11話


  *


 純粋無垢なる、その子に事情を説明しなければいけないのか……?


「そっか。もしかして新聞部とか、そんな感じの取材って捉えればいいのかな?」


「いいえ。あたしは新聞部ではないです。個人的興味があって神憑先輩に聞きに来ました」


「個人的興味、ね」


 別に、すべてをしゃべる必要はないが。


「悪いけど、僕の病気の詳細は答えることはできない。プライベートというものがあるのでね」


「へえ、それは残念です。じゃあ……」


 彼女は決意を込めて。


「付き合ってください!」


「は?」


 これは正しい彼女の声なのだろうか? だから、ちょっと、とぼけてみる。


「なにに?」


「とぼけないでください! そのままの意味です!」


「そのままの意味って?」


「神憑先輩が彼氏として、あたしが彼女として、お付き合いをするって意味です!」


「またあっ!?」


 衝撃で頭がおかしくなりそうだ……というか、すでに、おかしい。どう解釈したらいいんだ?


「……またあっ!? って、なんですか?」


「え、いや、なんでもないです……。火花さんには関係ないことです……」


「恋人なんだから隠しごとはなしです!  正直に言ってください!」


「もう恋人になってる前提で話をしないでよ!」


「恋人です! あたしが正しい! あたしがこの世界のすべて! 世界は、あたしのためにあるのです!」


「自己中だね!」


「だから知りたいと思ったことは知っておきたいし、 興味を持ったことはどんなことでも 求めていきたい。そういうふうに、あたしはできている」


「詩人だね!」


「さあ、恋人になったんだから答えてもらいましょうか?」


「悪いけど答える気はないね」


「どうしてっ!? 恋人なのに!」


「恋人じゃないから! 勝手に決めないでよ!」


「あたしのルールに従えないの?」


「従いません! 帰って!」


「帰りません! あたしがルールです!」


「あーグダグダだよ、もう。恋人になったとしても答える気がないから、あきらめてくれ」


「あたし、個人的興味への欲求が止まることがないので、神憑先輩の逃げ場はありませんよ!」


「逃げ場って、なによ! おい、桜舞! 黙ってないで、なにか言ってくれよ!」


「知りません」


「知らないって、なんだよそりゃ! 助けてくれよ!」


「そうですね……。こんなこと、兄さんには絶対、訪れないであろう転機が来ているようですね。両手に花ってやつですかね……? 筬屋さん、か、火花さん、か? 兄さんにとっては、ふたりにモテているだけでも奇跡です」


「好きじゃない子にモテたって嬉しくないやい!」


「わたしから言わせてもらえば、それは贅沢ですよ。それに非モテの恨みは時に恐ろしいので気をつけてくださいね」


「はい?」


 すでに教室の窓には一年A組の生徒たちがいたのであった。


 どうしたらいいんだよ……。

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