第4話
*
結局、僕は、せっかく学校に行ったのに、ひとりで過ごしてしまった。
僕が入院していたことは噂が広まっていて、全校生徒に知られている感じがした。
入院していた場所に問題があるわけではないのだが、病気が病気だから未熟な若者からしたら差別意識は芽生えるだろう。
僕の病気――《妄想具現症》は本人に自覚がない状態で現実を仮想にしてしまう。
いくら病識があったとしても本人が目で見たもの、耳で聞いたものは本人からしたら現実なわけで、それに対する対処法なんて、たったひとつしか方法がない。
それは病院から与えられた薬をちゃんと飲むことだ。
薬を飲まなければ、妄想は自身の脳で具現化していき、最終的には現実と仮想の境目がわからなくなる。
薬は僕の脳を制御するリミッター機能の役割があるのだ。
「どうしたものか……」
自室でうつろになっている僕は隣の部屋にいる桜舞に相談してみることにする。
「桜舞」
「なんでしょう、兄さん」
「僕は、どうしたらいいんだ?」
「どうしたらいいんだ、というのは、どういうことでしょうか?」
「決まっている。これから僕は三年間、どうやって伝播高校を卒業したらいいってことだよ」
「勉強に集中して、授業に出席して、テストで合格点を取り、単位を取って、それで卒業でしょう」
「それは、そうだろう。でも、僕は青春を謳歌したい気持ちがあるんだ」
「青春を謳歌……具体的には?」
「もう、わかっていることかもしれないけど、それは――」
「
「……それもある。けど、もっと大事なことは――」
「
「そう、そうだよ。でも、僕は、どっちかを選ばなきゃいけない」
「そうですかね? もう、わたしには見えていますよ」
「見えるって、なにが?」
「布佐良さんのことはあきらめて、筬屋さんとお付き合いすればいいのです」
「は?」
僕は桜舞に疑問を投げかける。
「なんで?」
「なんでって、そんなに理解できないことですか? 今日の出来事を忘れてしまった、ということでしょうか?」
「確かに、今日、僕は月子と話した……けど、本人は冷たかった。氷のように冷たい目で、少なからず敵意を感じた」
「なぜ、だと思います?」
「なぜ、って?」
「それもわかっているはずですよ」
桜舞は結論づけるように言う。
「布佐良さんは兄さんが筬屋さんの気持ちをないがしろにしたことを知っていた。だから敵意が生まれてしまった。女性をないがしろにすることは、すぐに噂になり、そこにいる学校の全生徒が敵になるからですよ」
「それじゃあ、僕は、どうしたら……?」
「だから筬屋さんに謝って、すべてを解決するしかないのですよ」
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