【カクヨムコン9参加作品】勇者に全てを奪われた男が勇者になった事により起こる崩壊物語。

石のやっさん

第1話 主人公?

彼を見た人間はどう思うのだろうか?


どう見ても浮浪者にしか見えない。


風呂など何時入ったのだろうか...そう思える程汚れ切った服を着ている。


しかも魔物の血がついてもお構い無しだから異臭すら放っている。


目はまるで世の中を全て恨んでいる様な濁った眼をしている。


その目は常に殺気を放っている。


髪も元はさぞかし綺麗な髪だったのだろう、だがその髪はとかす事すらされず後ろに縛ったままだ。


そして顔には大きく✕の斬り込みが入っている。


遙かにスラムで暮らす人間の方が真面な生活を送っている。



彼は洞窟に住み、まるで原人の様な生活を送っていた。



今の彼を見て誰が15年前の彼の姿を知る事ができるだろうか?


15年前まで彼が王族の婚約者で、誰もが認める美少年だったと解るだろうか。


30代前半の彼の姿が苦労したのだろうどう見ても老人の様にしか見えない。



誰も来ること無い洞窟で彼は一人寝ていた。


だが、この日は違った。


身なりの良い騎士達、それも10名が男の元に訪れた。



「何者だ...」


くすんだ目で彼は騎士達を睨んだ。


「貴方はセレナ殿で間違いないな?」


騎士達は訝し気にセレナを見ていた。


「だったら何だ!」


「王の使いで参りました、同行をお願いします」


「断る」


「王からの王命です」


「俺は市民で無い、更に此処は王国の領土で無い、故に聞かぬ」


「貴様、王の命令を聞かぬと申すか?」


「斬りたければ斬れば良い」


「なっ、そうだもし一緒に来てくれるなら金を払おう」


「要らぬ...消えよ」


セレナは腐った様な目で騎士を見ている。


もし、斬りかかったらそのまま斬られても構わない、目がそう言っていた。


だが、騎士は【王に頼まれてきている】だから引くに引けない。


しかも、今回の命令は丁重に迎える事が厳命されていた。


決して、この相手を傷つける事など出来ない。


王命に逆らえば、自分の首等簡単に飛んでしまう。


「何でも言う事を聞く、だから同行してくれぬか?」


「何でも聞くのだな? お前に家族は居るのか?」



騎士は同情してくれた、そう思った。


「ああっ、妻と子供がいる」


「ならば、その二人の首を持ってくるのだ、持ってきたら城まで行ってやろう」


「お前は狂っている」


「ああ、そうかも知れぬ、知っている...だからこそ何処の国の物でも無い此処で暮らしておる...私は人間が嫌いなのだ、故に王に等会いたくはない、放って置いてくれ...」



《この男に何が起きたか知っている、人間を憎みこそすれ、この男が人類を守るなんて事はしないだろう》


「解った、出直す」


「もう来る必要は無い...もしお前らが此処に来ると言うなら旅に出る」


「頼む...此処に居てくれ」


そう言うと騎士は鎧を脱ぎ、自分の右腕に剣を宛がった、そして利き腕である右腕を斬り落とした。


「ハァハァ...俺の利き腕だ、これで次に使いが来るまで待っていて欲しい」


「その右腕の代金として1週間だけ此処にいる約束をしてやろう」


セレナは腐った様に濁った眼で腕を見つめ...そのまま火にくべた。



「貴様、隊長の腕を」


「斬りたければ斬れば良い、俺は抵抗せぬよ」



「よせ...すまない、時間が無いのだ、これで失礼させてもらう」


腕を無くした騎士を含み10名は踵を返すとそのまま城へと帰っていった。


「何故今更、俺なのだ...狂わしい程の怒りを押さえ此処にいるのだ...放っておけ、そうすれば俺は静かにいられる」


セレナは一人呟いた。



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