第4話   もうだめ…


「 立てる? 」


「 … 」 小さく頷きながら、なんとか立ち上がることができた。


優しく声をかけてくれながら、彼は私の右腕を支えてくれた。


「 あ、待って…血が出てるみたいだから…後ろ向こう?…はい、これ… 」


彼は制服のポケットからティッシュを出すと、私にそっと手渡してくれた。


「 あと…これも… 」 今度はマスクを出してくれた。


「 うん… 」


これなら、鼻にティッシュを詰めていてもわからない…


「 ごめんね…僕の椅子、ちょっとはみ出していたから…」


「…… 」 何回も首を横に振っていた。


違う 私がよそ見をしていたから、あなたが謝ることなんてまったくないのに…


せっかく忘れかけていた涙なのに、あなたのせいでまたこぼれ落ちそう。


「 どうしました? 早く自分の席に着いて下さい! 」


「 はい!何でもないです…すみませんでした 」


先生からの注意まで自分のことのように受けとめてくれている。


「 …… 」


この時、初めて彼の顔を見た。


やっぱりそう…あの時プリントを交換してくれた人だった。


言うつもりだった。


けれど、胸の鼓動が速くなって、全身が熱くなって、息ができなくなって、御礼の言葉さえ言えなくなっていた。

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