僕の世界最後の日の過ごし方

@syuki0000

第1話

世界が終わるまであと三日。

そんなニュースが出た時、大衆はパニックになった。フェイクニュースだと言う者もいれば、本当だと信じる者もいた。そのニュースが出たのは四月一日のエイプリルフール。しかもネットならまだしも、地上波のニュース番組で報道された。これらがさらなるパニックを呼んだ。

絶望している人間がいる中、僕はこう思った。

なんてありがたい

ってね。僕は少々腐っていてね、この世界に絶望していた頃だったんだ。いや、昔からこの世界には見切りをつけていたのかもしれない。僕は大学には入っているんだが、とりあえず入った大学で、授業なんてまともに受けたことなんてない。親には申し訳ないと思っている。だけどあんなちっぽけな大学を出たところで、入れる企業なんて高が知れている。  

何度この世を去ろうかなんて考えたよ。別に辛いことがあったわけじゃない。ただただ僕はこの世界が合わなかっただけなんだ。僕は、この世界の身勝手な人間たちが嫌いなんだ。

一応僕にも数は少ないが友人はいる。スマホの中にある連絡先は男二人と女一人、そして両親と妹。なんともまぁコンパクトなものだ。

最初の一日は特に何もしなかった。ただ一人、自室で過ごし、一日の砂時計が落ちきるのを待つだけ。僕はこの生活を二十年以上繰り返してきたわけだけど、それもあと二日で終わる。

ネットでは、この世界の終わりを喜ぶ奴らも何人かいた。この期に及んでまだ[自分は信じない]なんて言ってる奴は滑稽だと思うね。希望なんかもう、ずっと昔からありやしない。

街も相当荒れているらしい。誰もが罪に問われないと気づいた瞬間、自分の欲望をぶちまけてるんだ。反吐が出るよ、全く。 

[プルルル...]

無機質な空間に一つの音が鳴り響いた。

[もしもし]

[あ、拓也。久しぶり]

[美鈴か。久しぶり。何の用?]

美鈴は僕の小さい頃からの知り合い。まぁ幼馴染ってやつだ。

[今から少し会わない?]

[それは世界がもう少しで終わるからか?]

[それもあるけど、春休み入ってから一度も会ってないでしょ?だから、]

[いや、大丈夫だ。じゃあな]

[ちょっと待]

電話を切る。無駄な時間だ。僕にとっても、彼女にとっても。彼女には、僕に会うより有意義な時間の使い方があるはずだ。

僕にはやり残したことがあった。家族への感謝、そして謝罪。今までのお礼と、親孝行できなくて申し訳ないと思っている旨を両親に伝える。妹にもこんなどうしようもない兄を慕ってくれてありがとうと伝えるんだ。妹は僕と八つ離れていて、今は中学生だ。生活も充実していただろう。そんな絶頂期に世界が終わるだなんて聞いた妹はどう思ったのだろう。きっと僕とは真逆のことを思ったんだろうな。

...これで良しっと。家族にメッセージを送り、携帯の電源を完全に落とす。僕からのメッセージは見て欲しいが、僕は家族からのメッセージは見たくない。どうしようもないと思うよ、僕も。

今日を終えれば明日、世界の終わりが来る。そうすれば全部おしまいだ。

~翌日~

もう少しで世界が終わるというのに、外はうざったいほど晴れていた。...今日は土曜か。土曜は買い出しに行く日だ。買い足した物も、明日がないので意味がないのだが、生活のルーティーンは崩したくない。近所のスーパーに行くと[今日は休みです]という張り紙が貼ってあった。世界の最後ぐらいゆっくりしたいということだろうか。

[おう拓也]

聞き覚えのある声がする

[久しぶりだな、海斗]

海斗は大学からの友人だ。

[美鈴が会いたがっていたぞ。あと宏輝も]

[あぁそうか。宏輝は何だって?]

[今までありがとうだとよ。辛気臭ぇよなぁ、全く]

宏輝は高校からの友人だ。海斗経由ということは昨日の夜頃、電源を落とした後に連絡を寄越したのだろう。

[なあ拓也]

[何だよ]

[美鈴と会ってやれよ]

[じゃあな]

[おい待てよ、拓也っ]

海斗の声を無視して帰路につく。

家に着くとまだ一時頃だというのに、空が暗くなっているような気がした。空を見上げると、雲一つない空に大きな何かがあった。

[あれが隕石か]

思った以上の迫力にそれしか言葉が出てこなかった。あの巨大な隕石がもうすぐこの世界に衝突しようとしていると考えるとゾッとした。同時に世界の終わりをより現実的に感じた。 

[拓也っ]

はぁっ、はぁっと。酸素を求める呼吸音が後ろから聞こえる。振り返るとそこには美鈴がいた。その目には涙が浮かんでいた。

[何しに]

パチンッ。言葉を発し終わる前にビンタを喰らった。

[バカッ]

僕は何も言わなかった。ただただそこにいる美鈴を見ているだけだった。

[中、入るよ]

[は?]

[いいでしょ]

[おい勝手に]

僕の言葉に聞く耳を持たず、僕の部屋まで来る。

[何しに来たんだよ]

さっき言いかけたことをもう一度言う。

[ただ拓也に会いたかっただけ]

[他にいるだろ。彼氏とか]

[いないよ。彼氏]

...マジか。美鈴程の女性を、美鈴の大学の男どもは放っておいているのか。

[本当驚いたよね。世界が終わるだなんて]

[まぁな。僕は嬉しくてたまらないけど]

[拓也は昔から性根が腐ってるよね]

[まぁな]

[褒めてないよ~]

...何だよこの時間。美鈴は何かを隠している。昔から重要なことは言う時は、どうでもいい雑談笑から入る、美鈴の癖を僕は分かっていた。

[寂しいよね。皆いなくなっちゃうなんて]

[その皆に僕らをも入っている。だから平等さ]

...あと十五分か。

[ねぇ拓也]

[うん?]

やっと本題か。

[少し長い話をしてもいい?]

[ああ、良いよ]

美鈴の話は十分程度の話だった。

美鈴は僕たちの思い出をしみじみ語った。

[あの時のこと覚えている?拓也が...]

あと十分。

[私が困っている所を...]

あと五分。 

[楽しかったなぁ、拓也といると何でも...]

あと三分。

[つまりね、私が何を言いたいかっていうとね]

あと一分。

[...拓也が好きってこと]

...

[気づかなかったの?結構アプローチしてたつもりだったんだけどなー]

[ごめん。全く気づかなかった]

あと三十秒。

[本当、鈍感なんだから]

[まさか思わないだろ。美鈴が僕を好きだなんて、ずっと片想いだと思ってたし、]

[え?]

あ、やばい。口滑らせた。

[...ずっと両想いだったんだね...]

クスクスと笑う美鈴。僕も久しぶりに笑った。

あと十秒。

ああ、もっと美鈴と笑い合っていたかった。この幸せをかみしめたかった。

四秒。三秒。二秒。一秒。

世界の終わりに僕らは、最初で最後のキスをした。

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