第3話 友達

 クルマから流れるラジオを聴いている。



『こんにちはメッセンジャー』


『こんにちはリスナーさん!』



 メッセンジャーが一人二役で話を進めていた。



「こんにちはー!」



 隣に座るサナが勝手に三人目として参加していた。



『最近心を動かされた話を聴いて欲しいです』


『聴かせていただきますね、わくわく!』



 メッセンジャーは別人かと思うぐらい一瞬で声色が変わる。



「わくわく!」



 隣に座るサナはいつも通りにニコニコしていた。



『先日雨の日にカエルさんの様子を見ていたんですよ。ずっと止まったままのカエルさん、雨が降っても風が吹いてもジッと我慢してたカエルさんでした』


『何と! 粘り強いカエルさんですね!』



 粘り強いカエルって何だよ……。

 少し吹き出しそうになったのを我慢する。



「粘り強いカエルって何!?」


「ぶふっ……」



 サナの言葉に思わず吹き出してしまった。



『暫くして、遠くから別のカエルさんがやって来ました。そのカエルさんは止まったままのカエルさんの正面まで来ると、ジッと見つめていたんです』


『見つめ合っていたんですね、ドキドキ!』



「どうなるんだろー、気になるねシーちゃん!!」



 ラジオの内容にサナが楽しそうに言った。



「……別に」



 ウチはぶっきら棒に返事をする。

 そして、ラジオの切った。



「ぬぁー!? ラジオ切ったー!」


「……切ってない」


「目の前で見てたんだけどね!?」



 サナは大きい声を上げている。



「続き気になるんだけどぉー!?」


「……別に」


「さっき、笑ってた癖にー」


「……笑ってない」


「もう、シーちゃんはツンツンしてるねぇー」


「……してない」


「そういう事にしておきましょー」


「……ぬぅ」



 何だか負けた気がして悔しかった。







 砂の荒野にクルマを走らせる。

 一時間交代で今はウチがハンドルを握っていた。



「あー荒野だねー」



 助手席のサナが窓の外を見ながら呟いていた。

 ラジオを消した途端、目につくのは砂の荒野ばかり。

 まるで世界が色を無くしたみたいだった。



「あっ……」



 いつもとは少しルートがずれていたのか、右前方に建造物を見つける。



「どうしたのシーちゃん?」


「あれ、何かある」



 巨大な柱の様ものが見えていた。



「うわぁ、何だろね!」


「……」


「……」



 見覚えのない建物に興味がそそられる。

 まだ昼過ぎだ、寄り道する時間ぐらいはある。



「……行く?」


「行こう行こう!!」



 娯楽の少ないこの世界では、心に従うのが一番の娯楽だ。

 ウチらはクルマの方向を変えた。








「初めましてマイマザーズ」



 柱に併設された建物で出迎えてくれたのは、少し派手な髪色をした年上の女性だった。

 女性はスカートの裾を摘まむと、ゆっくりと御辞儀をする。



「……」


「……」



 綺麗な容姿や所作にウチらは思わず見とれてしまっていた。

 その視線に気付いて女性はニコッと優しく微笑んだ。



「マ、マイマザーズって?」



 サナが少し震えた声で疑問を問いかける。



「私にとっては人類は母親同然ですから」



 ……まるで意味が分からない。



「は、母親って」


「どういうこと?」



 ウチらは声を合わせて質問を続けた。



「申し遅れました。私は自律思考型AI搭載の人型人形SAKI-A10109、個体識別名”先絵トドク”と申します」



 自律思考? AI?

 さっぱりと分からない。



「ねぇ、シーちゃんどういう意味かな?」


「多分……人間じゃないって意味かな?」



 疑問を疑問のまま投げ返すと、トドクさんはその問いに答えてくれた。



「そうですね……、私は人間ではありません……」



 少しショボンとした顔になるトドクさん。

 指先を合わせてイジイジとしていた。


 ……可愛い。



「あれ、ちょっと待ってシーちゃん!」


「ど、どうしたのサナ?」


「今、先絵トドクって言ったよ!?」



 そう言われてハッとなる。

 改めて目の前の女性に目を向けた。



「はい、私は先絵トドクです!」


「やっぱり! いつもラジオ聴いてます!!」


「ぱぁ!」



 ……ぱぁ?

 キャッキャとはしゃぐサナの前で、トドクさんが”ぱぁ”っと目を輝かせていた。



「嬉しいです! ありがとうございます!!」



 トドクさんも胸元に手をやって嬉しそうにしている。

 その二人が盛り上がっている姿をぼーっと眺めるウチ。


 何か、何か疎外感を感じる!?



「わたしの名前はサナです、こっちがシーちゃん」


「サナさんに、シーちゃんさんですね!」


「ち、ちがっ!? サナー!!」



 怒った表情でサナに詰め寄る。



「えー、シーちゃんはシーちゃんじゃない」


「じゃない! ウチはシタリだから!!」


「またまたそんなシタリ顔で」


「してないでしょー! このー!」



 サナをポカポカ叩く。

 痛くない様に優しくだ。



「あははー、ごめんなさい!」


「許さないからー!」


「ふふ、御二人は仲良しさんなのですね!」



 ウチらの様子にトドクさんは楽しそうにそんな事を言った。

 は、恥ずかしい!?



「うん! シーちゃん大好き!」


「はぁ!?」



 恥ずかしい事を言うなよ……ぅぅ……。









「こちらが放送室です!」



 サナが興味津々だったからか、トドクさんが建物の中を案内してくれていた。



「へぇー、ここでラジオを放送するんだぁ」



 透明な仕切りで囲まれた部屋の中を見渡す。

 机と椅子に放送機材、そして奥の棚には紙の束が沢山積まれていた。



「もしかして今ラジオにわたし達の声が乗ってるのかな!!」



 サナは嬉しそうに言う。



「え、嘘でしょ……?」



 ウチは嬉しくなさそうに言った。



「現在は放送時間ではないのでラジオは放送されていないのです!」


「そっかー、残念」



 何が残念なんだ……。



「恥ずかしながら午前に一時間と午後に三時間、そして深夜に七時間の御休みをいただいております!」


「いやいや休息は大事だよー、長く続けるコツだよー!!」


「まだ子供でしょ、何を長く続けたのさ……」


「えー、シーちゃんは年下なのに小言が多いよー!」



 ぐっ……、ちょっと早く生まれたからって……。



「このー! ウチの方が身長高いんだからなー!」


「あー! 気にしてるのにー!?」



 サナがポカポカと叩いてくる。

 全然痛くない。



「御二人はとても仲が良いのですね!」


「あぁ、また言われちゃった!?」



 恥ずかしさがドンドン高まっていった。



「けど良いなぁ、ラジオで色んな人が自分の声を聴いてくれるのって楽しそう!」


「……別に」


「もー、シーちゃんは夢が無いなぁ」


「それは夢の問題なのかな?」



 割と怪しい。



「そうです!」


「!?」



 不意にトドクさんがウチらに言った。



「もし宜しければ、一緒にラジオを放送してみませんか!!」



 凄く良い事でも思い浮かんだかのように、胸元で手を合わせている。

 予想外の提案だった。


 ウチらは顔を見合わせた後……。

 ……。








『本日はスペシャルゲストの御二人に来ていただいております!』


『サナでーす! 宜しく御願いしまーす!』



「……」



『あっちで膨れっ面なのが、シーちゃんです』



「こらサナ―!!」



『ドア越しだから聞こえないよー』



 こちらは機材からの音声で二人の会話は聞こえるが、こちらの声は届いていない様だ。



『ふふ、御二人はとっても仲良しさんなのですよ!』



 あぁ、また言われてしまった!?



『御二人はどちらから来られたのですか?』


『わたし達は丘の民なんです』


『丘の民、ですか?』


『うん、あっちの方から来たの』


『あちらですと北西の方角でしょうか』


『なのかな? 何でも元々は山があったんだけど、それがグググッって沈んじゃって』


『えぇ!? 山って沈むんですか!?』


『あはは、みたいだね。だから元々は山の民だったのかも』



 サナは楽しそうにペラペラと話しをしている。


 昔からそうだった。

 御喋りが好きでウチが黙ってても一人で喋ってる様な。



『今はこの先の集落に商いに向かっているんだー』


『そうなのですね、御仕事大変ですよね』


『へへ、全然。シーちゃんと一緒だと楽しいんだよ!』



「こらサナ! 恥ずかしい事を言わないで!?」



 声が届かないと分かっていても叫ばずにはいられなかった。



『ふふ、やっぱり仲良しさんですね!』



 う、うぅ……。

 もう言葉もない。



『昔から仲良しさんだったのですか?』


『ううん、以前はそうでも無かったの』



 最初の頃は同じ集落に居るというだけで特別仲が良い訳でもなかった。

 あれはいつの頃だったろうか。



『けど今はシーちゃんに助けて貰ってばかりで』


『とても頼りにされているんですね』


『うん。でも……』



 サナは少し困った様な顔をしてこちらを向いた。



『少しはわたしも力になれたらなって……』



 きっとそれはサナの本心だったのだろう。

 いつも笑顔でウチの傍に居る女の子が見せた。

 少しばかりの心の内側。


 ……。

 少し、心が痛かった。



『その気持ちは私も分かります』


『トドクさん?』



 サナの気持ちに応える様に。



『私は皆さんの御便りからとても元気を貰っているんです』



 寄り添う様に、当り前の様に。

 優しく言葉を紡ぐ。


 トドクさんは積み上げられた紙の山を見つめていた。


 あれはいつもラジオで詠まれている御便り。

 もう存在しない時代を紡いでいる、言の葉。



『だから私も皆さんの力になりたいって思ってます。少し似ていませんか?』



 そう言って笑みを浮かべるトドクさん。



『そうだね……。わたし達似てるかも!』


『はい! 嬉しいです!!』


『あはは、わたしもです!!』



 サナは笑みを返すと本当に嬉しそうに言った。

 二人が楽しそうに笑みを浮かべている姿を見て。


 羨ましいなっと思ってしまう。

 ウチもあんな風に素直に言葉を紡げたのならば。



『あ、そろそろ時間みたいですね』



 予定の11時が来てしまい、トドクさんが残念そうに言った。



『もう終わりかー、もっと御喋りしたかったですー!』



 サナの言葉に胸が痛む。



『本当ですか! もし御二人さえ宜しければ12時からの放送も御一緒にお願いできますか!』



 何だかトドクさんは嬉しそうに言った。



『うん、是非是非!』



 合わせたようにサナも嬉しそうに言った。

 ちくちくと胸が痛い。


 別室から出てきたサナに声を掛ける。



「何勝手に決めてるの……」


「大丈夫だってー、まだ陽は高いし!」


「陽が落ちたら商いもできないでしょうが」


「うぅ、確かに……」


「ごめんなさいトドクさん、ウチらは仕事に向かいます」


「そうですか……」



 トドクさんは悲しそうな表情を一瞬見せた後。



「では、また御会いしましょう!!」



 心から期待する様にそんな言葉を放った。

 本当に素直な人だと思う。



「そうだ、帰り! 帰りに寄ります!!」


「ちょっとサナ!?」


「商いが終わった後なら良いでしょ? シーちゃん御願い!!」


「……!」



 何も言わないがトドクさんも期待に満ちた表情をしている。



「もぅ、仕方ない……」


「わーい! シーちゃん大好き!!」


「なぁ!? 抱きつかないでよ!?」


「御二人はとっても仲良しさんなのですね!!」



 また言われちゃった!?







 ウチらはクルマに乗り込むと荒野を駆ける。



「いけーシーちゃん!! 全速だー!!」


「サナが運転する番だったはずなんだけどね!?」



 力になりたいとは何だったのか。


 それから数時間で近くの集落に着いた。

 崩落した洞窟に住んでいた人達が避難してきて大忙しとの事だ。


 資材はいくらあっても足りないらしい。

 ここは地下水源が生きているらしく、ウチらは大量の水と丘の資源を取引した。



「いつもありがとな!」


「いえいえ、こちらこそありがとうおじさん!」



 ウチはサナに合わせる様に御辞儀をする。



「終わったー!」



 サナが声を上げた。



「御疲れ様」



 クルマに乗っている貯水タンクを見ながら思う。

 これだけの水があれば一月は生活が成り立つだろうか。


 本当は丘を捨てて別の所で暮らす方が楽ができるだろう。

 だが丘の民には気軽に動けない年配の方も多い。


 それを見捨てる事などできなかった。

 今はこの集落との交易が生命線になっている。


 せめて別の水源でもあればいいのだけど。



「よし、早速トドクさんの所に帰ろー!」


「え、本気だったの」


「当り前だよ! 急げー!!」


「だから運転はサナの番だからね!?」



 結局ウチが運転したまま帰宅の途についた。








「お帰りなさいませ、マイマザーズ」



 トドクさんが優雅に出迎えてくれる。

 まるで作り物の様な美しさに目を奪われた。


 同じ人間とは思えないな……。

 ……。


 トドクさんは人形さんだった!?

 すっかり勘違いしてしまっていた。



「御疲れの御二人に満足なもてなしもできずに申し訳ありません」



 ショボンっとなるトドクさん。

 ……可愛い。



「いいよいいよ、それよりラジオってもうすぐ放送ですか?」


「時間まであと半時間ほどございます。宜しければ二階で休憩なさってはいかがでしょうか?」


「いいの?」


「はい、ごゆっくりどうぞ!」



 ウチらはトドクさんの案内通りに二階へと向かう。


 二階には幾つもの部屋があった。

 その中の一室に入る。



「御邪魔しまーす!」


「誰も居ないって聞いたよ」


「これも礼儀ですよー」



 そんなもんかな……?



「うわぁ、綺麗な部屋だね!」


「うん、綺麗」



 無駄な物が無い整えられた空間は、それだけで美しかった。



「見てみてシーちゃん、砂嵐だよ!!」


「いつも見てるでしょうに」


「凄い凄い、この寝具ふかふかだよ!!」


「ふかふかって何さ……」



 促されるままに触ってみる。

 めっちゃふかふかだった。



「……」


「……」


「……シーちゃん」


「はっ!?」



 意識が飛んでいた。




 それから少しの間、静かで柔らかい心地の良い空間で時間を潰す。

 不思議な感覚だった。


 生きるので精いっぱいのウチらなのに、ここでサボっている瞬間が。

 とても幸せだったからだ。


 トントンッと入り口の扉を叩く音がする。



「サナさんシタリさん、ラジオの時間ですが如何なさいますか?」



 ウチはサナと顔を合わせると。



「行くー!」


「行きます」



 名残惜しい心地良さに別れを告げた。






「緊張するね」


「うん……」



 今回はウチもラジオに出演する事にした。

 きっと胸の痛みがそうさせたのだろう。



「あぁ! トイレしたくなってきちゃった!?」



 サナが急にそんな事を言い始めた。

 声を張り上げて言う様な事じゃないでしょうに。



「トドクさん、トイレを借りても良いですか?」


「はい、御自由にと言いたい所なのですが……」


「んん?」


「水道が通らなくなってからは衛生の為にトイレを封鎖しているのです……」


「そんなぁ!?」



 サナはショックを受けていた。



「いつもみたいに外でやってきなよ」


「あーあー!」



 ウチの言葉にサナは声を上げる。



「シーちゃん酷いよ!! 女の子に向かってそれは酷いよ!!」



 いつもの事なのに今更何を……。



「うぅ……」



 サナはトボトボと建物の外へと歩いていった。



「大丈夫でしょうか……」


「大丈夫大丈夫、外で寝てても死なないぐらい丈夫だから」


「何と! サナさんは凄く御強いのですね!!」



 トドクさんは目をキラキラさせている。


 何かサナの印象が強い女みたいになってしまった。

 ……まぁいっか。



「では時間ですので、御先に始めましょう!」


「え、ちょっと待ってウチらだけで?」


「ふふ、大丈夫ですよ!」



 トドクさんはこちらに笑み見せる。

 ウチの事も心配して欲しい!?






『皆さん、こんにちはメッセンジャーの先絵トドクです!』



 は、始まってしまった!?



『本日はスペシャルゲストに来ていただいております!』


『えっと、あっと、あの、その』


『ふふ、シタリさんです!』


『は、初めましてシタリ……です……』


『もう御一人いらっしゃいますので後ほど御紹介させていただきます!』



 な、なな何を話せば良いのだろうか。



『シタリさん、緊張なさっていますね!』


『は、はい』



 恥ずかしくて俯いてしまう。



『お気になさらずに。まず自分が緊張していると言ってしまうと緊張が解れるそうですよ!』



 そう、なのかな……?



『き、緊張してます……』


『ふふっ。シタリさんは交易の御仕事をなさっているのですよね?』


『そう、です。丘では水も碌に手に入らないから……』


『それは大変ですね……』


『でも辛くはないです。毎日楽しいから』


『御一緒されてたサナさんも同じことを仰られていましたね』


『うん、多分一緒だから……』



 緊張していたからだろうか。

 知らずに、ウチは昔の事を語っていた。



『丘の民って言っても、前は幾つもに分かれていたんです。でも人が減ってしまって、一つに集まって今の人数になった……』


『そうだったのですね』


『昔のウチは一人だったんです。同じぐらいの年の子は周りに居なくて。でも全然寂しくは無かった、そういうもんだって慣れちゃってて』


『……』


『ある時の合併で人が増えた時に、サナがやってきたんです。あいつは本当に飾りっけも無くて、無遠慮で、ウチの隣で好き勝手な事ばかり言ってた』



 今でも思い出す。

 あの時の感情を何と言えば良いのだろうか。



『嬉しかったんですね』


『……!』



 薄い笑みを浮かべたトドクさんの言葉にハッとなった。



『そっか、そうかも知れないですね』



 言葉にしてなかっただけど、薄々は気付いていたのだろう。

 寂しくないと強がっていただけで、ずっと欲しがっていたんだろう。



『きっとサナが居ないと、もっと息苦しい生き方をしてた気がする』



 今はそう思う。



『サナと友達になれて良かった』



 何となく、言葉にしたくなってしまった。

 きっと想いを言葉に紡いでいる、目の前の女性を見習いたくなったのだろう。



『あぁはは、恥ずかしい事を言ってるなぁ』


『いえ、とても素敵な事を仰っていますよ』



 優しく寄り添う様なその言葉に面食らってしまった。



『そう、かな……、ありがと』



 トドクさんが人間では無いからだろうか。

 何故かその言葉を素直に受け入れられた。



『シーちゃぁあん!!』


『うわ!? サナ!?』


『シーちゃんがわたしの事をそんなに想っててくれたなんて!!』


『え、あ、いやいや!? 聞いてたの……?』



 コクコクとサナが頷く。



『聞いてなかったことにしてぇ!?』


『無理ぃい、シーちゃん好きぃい!』


『なぁ!? 何処触ってるんだよぉ!?』


『ふふ、やっぱり御二人はとっても仲良しさんですね!』


『また言われちゃった!?』



 遂にラジオにまでウチらの恥ずかしい所が乗ってしまった。



『もし宜しければ一つ、詠み上げたい御便りがあるんです』



 不意にトドクさんがそんな事を言った。

 ウチらに関係する御便りという事だろうか?



『宜しければ聴いていただけますか?』



 ならば聞いてみたいと素直に思える。



『はい』


『是非!』



 トドクさんは頷くと、何も見ずにそらんじ始めた。



『雨の日にカエルさんの様子を見ていたんですよ。ずっと止まったままのカエルさん、雨が降っても風が吹いてもジッと我慢してたカエルさんでした』


『あ、これって』


『うん……』



 朝、ウチがラジオを消した時に詠んでいた御便りだ。



『暫くして、遠くから別のカエルさんがやって来ました。そのカエルさんは止まったままのカエルさんの正面まで来ると、ジッと見つめていたんです』



 まるでウチの事みたいだった。

 止まったままだったウチの元に、寄り添ってくれたサナの存在。



『やがて耐えかねたのか、止まったままのカエルさんは大きく跳びます。その後を、もう一匹のカエルさんは追っていきました』



 頑なだったウチと一緒に居てくれる親友。



『足踏みしていたカエルさんも、二匹なら跳んでいける。そんな風に思ってしまいましたね』


『二人なら……』


『跳んでいける』



 その言葉にトドクさんはこちらを向くと。



『はい! 御二人が一緒なら無敵ですね!!』


『ぶふっ……』



 思わず吹き出してしまう。



『あはは! トドクさんそれ最高ですー!』


『うん、最高』


『良かったです!』



 トドクさんは心底嬉しそうに笑みを浮かべた。



『一人じゃないから世界を広げられる。私も皆さんの御便りを読む度に同じように想います』



 その後。



『ちょっと照れくさいですけど、ふふっ』



 そう言って照れ隠しをしたトドクさんの姿が、自分と重なってみえて。

 とても親しみを覚えたのだった。





 それから色々な事をお話しして、色々な事を聴いて。

 夜も遅くなったから泊めさせてもらって。


 楽しい時間はあっという間だった。








 次の日の朝。



「じゃあ帰るねトドクさん」


「ありがとう、トドクさん」



 気が付けば素直にそう言えた。

 もう胸の痛みは無い。



「また御会いしましょう、私はいつでもここに居ます!」


「うん、わたし達はトドクさんのマザーだもんね」


「必ず来ます」


「……はい! お待ちしていますマイマザーズ!!」



 手を振ってくれるトドクさんに元気よく手を振り返す。

 さよならじゃなくて、また会おうという想いを込めて。







 砂の荒野をクルマが走る。


 隣には大切な友達。

 ラジオからは大切な人類の娘友人の声が響く。


 それだけで世界が輝いて見える。



『自分自身で頑張るからこそ、助けて貰った時に心から感謝できるのかも知れませんね!』



「やっぱりトドクさんは良い事を言うね!」


「うん。サナがこのままずっと運転してくれたら助かるなぁー」


「えぇー、もうすぐ一時間だから交代してよー!?」


「もぅ、仕方ないなぁ」



 ウチは冗談っぽく笑った。

 頑張っているサナの隣でウチも頑張って行こうと、そう思う。


 あの人類の為に言葉を紡いでくれている彼女に。

 いつでも頑張っているトドクさんに感謝を届けられる様に。


 今はただ。



『私の言葉と皆さんの想い、ちゃんと届きましたか?』



 ラジオから聞こえるその愛おしい声に。



「ちゃんと」


「届いてますよー!!」



 息を揃えて、高らかに声を上げるのだった。



『では次の御便りです!!』

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