傘のない帰り道
花依だんご
傘
「困ったな……」
突然の大雨に、俺は下駄箱前で立ち尽くす。
今朝のニュースを見損ねたが、朝は雲一つなかったので、油断していた。
学校に置いてある貸出用の傘は、既に先客がいたらしく、中身は空っぽだった。
折り畳み傘を使って帰路につく学友の背を見ながら、どうしたものかと息を吐く。
時折、男女で傘をシェアする相合傘を見かけ、つい羨ましいと思ってしまった。
それは彼氏彼女がいる事に対してか、傘を持っていることに対してか。
俺は考えるのも億劫になり、ぼーっと立ち尽くすだけだった。
すると、そんな俺の背に声を投げ掛ける者がいた。
「あれ? 竜くん傘忘れちゃったの?」
「ん? あぁ、愛海か」
声を掛けてきたのは幼稚園時代からの幼馴染である愛海だった。家が隣だったため、親の仲がよかったのだ。
そんな彼女に、見ての通りだ、と俺は肩をすくめて見せる。
「そういうお前はどうなんだ? 朝は傘持ってなかったが」
「え? あ、えっと、私は……持ってないよ」
傘を持たない負け組が二人。まぁ、雨が止むまでの話相手にでもなってもらおう。
そう思っていたら、愛海がある提案をしてきた。
「ね、ねぇ、一緒に走って帰らない? 小学校の時みたいにさ」
「走って? あー、あったなそんなこと」
あれは小学校5年生の時。突然の土砂降りに遭い、ランドセルを頭に乗せて、二人で走って帰った記憶がある。
「行くか。いつ止むかもわかんねぇし」
「そうこなくちゃ。じゃ、それぞれの家まで競争ね! 負けたらアイスで!」
「ちょ、ずるいぞ!」
そう言って、俺たちは二人して雨の中を駆け出した。
スタートダッシュの関係で俺の前を走る愛海。絶対に負けはしない。
「やったー! 私の勝ち。後でアイス買ってきてね」
「はぁ、はぁ、やっぱ陸上部には勝てねぇ……」
「お? 負け惜しみか?」
「わーったよ。いつものヤツでいいな?」
「うーん、今の私はチョコの気分」
「はいはい」
ったく、注文の多いやつめ。
結局レースに負けた俺は、無事愛海のパシリに。雨の中、今度は傘を差してアイスを買いに出た。
コンビニでいくらかアイスを買い、隣の家を訪れる。レジ袋の中にはチョコアイスを二つ。
「おい愛海、買ってきたぞ」
「案外早かったね。アイスありがと。竜くんの好きなクッキー焼いてるとこだから焼けたら食べよ?」
「マジか、砂糖多め?」
「もちろんだよ!」
「流石」
愛海の部屋に置かれていたカバンの中に、実は折り畳み傘が入っていたなんて、俺には知る由も無かった。
傘のない帰り道 花依だんご @Hana_dango333
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