生きる

@syuki0000

第1話

私は、難病だ。この前医者にはあと3年

生きられたら良い方だと言われた。それはそうだ。私は今17歳で、この病気で死んでいく人間のほとんどは20歳になれず死んでいる。奇跡は起こらない。この体はとにかく不便だ。全力で走ることもできなければ、目が覚めてもすぐに起き上がることはできない。なので私はただ白い天井をぼうっと眺めていた。ここは病院の一室で、私は人生のほとんどをここで過ごしてきた。この部屋は4人まで入院できるのだが、1年前に右斜め前のお婆さんが癌で亡くなってからは私の貸切状態となっていた。目覚めてから5分、看護師さんが私を起こしてくれた。

そして窓の外を見て私は思う。どうして家族は私に生きてほしいのだろうと。どうしてこの世界の人は私たち病人を長生きさせようとするのだろうと。私たちの死というのは決定している。それは運命とかそんな芸術的なものではなく、ただ医者というその道に精通した人間が提示する事実だ。家族やら友人やらが何を言おうと気休めにすらならない。それならまだ、馬鹿みたいに保険金をかけてからさっさと死ねと言われる方が優しさだと思う。...と、相変わらず捻くれた考えだなと自分自身を嘲笑した。毎日毎日つまらない。私は酒も飲めず、友人と旅行することもなく死んでいく。長く細い退屈な人生だったなと思った。でも、そうだな。一度くらい、[恋愛]なんてことをしてみたかったな。まあこんな体の私を愛してくれる物好きなんているわけないのだが。

そんなある日のことだった。私の貸切となった部屋に新しく患者が入院することになった。少し意外だったのがその人は私と同い年くらいの男の子だったことだ。この病院は私を除くと年配の方ばかりのため、若い男の子というのは中々希少なのだ。彼が入院することになったきっかけは交通事故に遭ったからだ。そしてもっと意外だったことがある、それは。

[おはよう!水谷さん!]

彼がめちゃくちゃうるさい人間だったということだ。悪いことではないと思う。言い方を変えれば元気ということだし、早寝早起で挨拶までしてくれる、礼儀正しい人間だ。しかし私のような根暗を絵に描いたような人間の前ではそれは逆効果だ。その果てしない活力はかえって腹が立つし、ましてや寝起きで起き上がることができない私の前でそんなことをされるとストレスが溜まって仕方がない。

[お、おはよう...ございます]

[うん!おはよう!]

なんだ、なんなんだこの太陽みたいな明るさは。窓の外にしか太陽はないはずなのに、私の目の前にはギラギラに輝く太陽があった。この部屋はいつから銀河系の一部になったのだろうか。

[水谷さんはいつから入院してるの?退院はいつ?]

質問がやたら多い。私が入院してるのは物心つく前からだし、退院なんてものは恐らくできない。私がこの病院を出る時は、私が死んだ時だ。

...

[私はずっと前から入院してる。退院はいつになるかわからない、難病なの。わかる?君と違って私には退院した後の未来なんてないの]

はぁ。なんでこう私は、嫌な言い方しかできないのだろう。彼は何も悪くない。

[そっか。大変だね。野暮なこと聞いてごめん]

私はその謝罪に対して無言で返した。余計に自分の器の小さが嫌になった。

それから何日が経ったのだろう。彼は1日に何回か私に話しかけてきた。その度に私は冷たい物言いをして、彼と自分自身を傷つけた。

[それでさ...]

[ねぇ、ちょっといい?]

私は初めて彼の言葉を遮った。

[何?水谷さん?]

[どうして私に毎日話しかけてくるの?]

[あ、ごめん。嫌だった?]

[いや、嫌とかじゃなくて]

...ただ

[ただ、君に冷たい態度を取ってるのに毎日話しかけてくれるのかなって]

[ああ、そういうことね。俺はただ少し寂しがり屋なだけなんだ。それに水谷さんと話すの楽しいし]

[話すのが楽しい?私と?失礼だけど、君正気?]

[正気だよ。だって水谷さん、冷たいふりしてるけどしっかり相槌とか打ってくれてるし、俺の話ちゃんと聞いてくれてるんだなって。水谷さん本当は優しいんでしょ?]

[優しい?ないない。私は他人に優しくするどころか、自分にすら優しくできない人間なんだから]

[そんなことない。まだ知り合ってから2週間も経ってないけど、水谷さんは優しい人だよ。絶対]

そう言う彼の真っ直ぐな目を見て、私は黙ってしまった。誰かに優しいなんて言われるとも思ってなかったし、彼がお世辞を言う人間にも見えなかったからだ。

[君は...]

[瑛太です]

[え?]

[さっきから君君って、最初に自己紹介しましたよね?八坂瑛太、16歳って。まさかとは思ってましたけどやっぱり忘れてたんですね]

忘れてたというより聞いてなかっただけなのが、それは黙っていた。なるほど、彼が敬語なのは私より年下だからだったのか。

[えっと、じゃあ瑛太君]

あ、いきなり下の名前で呼んでしまった。

[はい!なんでしょう!]

どうやら気にしてないらしい。

[何でしょうか!恵華さん!]

...

.....

.......

ああ、この子。...しっかり恵華呼びにシフトチェンジしてきやがった...

そんなことを思いながら私は瑛太君と少しばかり話をした。



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