甘えたがりの『人工改造半吸血鬼』《ハイブリッド・ダンピール》

@dekai3

甘えたがりの人工改造半吸血鬼

バシュウン バシュウン


「いいぞ、リリ。吸血鬼とはいえ物理法則には逆らえん。二発目を回避先に置くのは有効だ」


 電極を利用して弾を放つ銃から、二発の弾丸が放たれる。

 片方はこちらの胸元へ、もう片方は回避をしようとする先へ。

 吸血鬼の身体能力を持ってすれば銃弾なぞ見て避ける事が可能だが、高速移動中に急旋回をするのは難しい。

 この二発の弾丸は一発目を避けられる事を前提とした射撃方法だ。吸血鬼になりたての若造にはこれだけで十全に通用する技術だろう。前回の反省が生きているな。

 だが、【不死者の王】ノー・ライフ・キングと戦うにはまだ未熟すぎる。


「しかし、銃弾の防ぎ方は避けるだけではない」


ギィン


 わざと一発目の銃弾を回避してやり、二発目の銃弾の着弾点に立ちながら、体を大きくくねらせて銃弾を歯で受け止める。


「なっ!」

「ほふふふほほはふ」


プッ カンッ コロンコロン


 吸血鬼に限らず、夜を生きる物は無手に見えても油断してはいけない。牙と爪という、原始的故にどの生物も持ち得る武器を持っている。

 これは弾丸が炸裂弾や聖刻弾の様な掴めない種類の物ならば出来ない防御法だが、防ぐ手段にも様々な方法があるという事を教えるのが私の役目である。


「バカにしてっ!」


シュルッ ギィン


 対吸血鬼用の射撃方法を考え付いたのを褒めてやったというのに、何故か激昂しながら銀の剣の切っ先を向けられる。

 やはり、若い娘の情緒はよく分からんな。


「はあぁぁぁ!!!」


ブォン ブゥン ビュッ


 人工筋肉により風を切り裂いて振るわれるのは、今や稀少となった天然銀で作られた両手剣。

 その一撃は当たれば岩をも砕くが、振りが素直なので避けるのは簡単だ。


「前も言ったが、吸血鬼は銀が当たった部位が消滅をするから銀が有効なのだ。そんなに振りかぶる必要は無い」

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!!」


ブォン ブォン ブォン


 忠告を聞いて余計に振りが荒くなる教え子に落胆しながら、当たれば肉体が両断される斬撃をわざと大きく身を逸らしながら避ける。

 回避先を誘導して追い詰める連撃を繰り出すのならば良いのだが、これでは獣の相手が関の山だろう。折角射撃は及第点を超えたというのに…


「せめて太刀筋が予測出来ない工夫をしろ。真っ直ぐ振り下ろすだけでは鳥でも避けれるぞ」

「分かってる!」


 私の問いに反抗的な態度で応えながら、剣を振り回すのを止めるリリ。

 そして銀の剣を左手で逆手に持ち、右手は軽く前に出し、腰を左に捻りながら丸めて刃を背に隠す構えを取る。


「ほぅ」


 吸血鬼を滅する刃を背中に隠しながらも目線を真っすぐにして構える姿は、まるで吸血鬼を滅する為に作られた自身の在り方を現わしている様で、初めて取った構えでありながらも妙にしっくりと来る。


「いいだろう。今日はその攻撃で最後だ。全力で思うが侭にやってみるがいい」

「その余裕ぶった口を切り裂いてやるッ!!」


ダッ!


 そう言いながらリリは剣の先を背中側に向けたまま右足を大きく踏み込み、右手を突き出したままこちらの懐へと突進を始めた。

 剣で攻撃をすると見せかけての打撃。致命打はならずとも嫌がって避ける者はいるだろう。恐らくはその回避先を剣で追撃するという感じか。対吸血鬼用の射撃方法の応用という事だな。

 ならば、思惑通りに避けてやろう。


フワッ


 追撃がしやすいようにとわざと跳躍してやりながら、指導者として一挙一足を見逃すまいと目を凝らす。


「はあああぁぁぁぁ!!!」


ビュッ!


 体当たりを避ける為に跳躍した私めがけ、踏み込んだ右足を軸にし、体を回転させる勢いと共に左手を振り抜いた、空気の壁を切り裂く追撃が飛ぶ。


グンッ


 だが、私は首を後ろに反らすだけで斬撃を避ける。

 事前に『口を切り裂く』と言われれば狙いは丸わかりだ。

 しかし、これは中々良い一撃だった。身体能力に物を言わせただけの乱暴な攻撃ではなく、きちんとしたとして認められる物だろう。


「いいぞ。素直な太刀筋だが工夫しているな。これなら…」

「今ッ!!」


バッ ガシッ


 刃が私の顎を掠めて過ぎ去た瞬間、

 人工筋肉だからこそ可能な横から縦への強引な軌道の変化。

 体当たりを避けるために跳躍しているので身動きは取れず、霧化をしても霧ごと叩き潰される。武術を使う吸血鬼にも十分通用するフェイントだ。中々やるではないか。


「潰れろぉぉ!!」


ダァン!!!


 だがまあ、この程度では私に有効打を与えるのは難しい。

 肉体を霧化しつつ左右に分断し、銀の剣の通り道を作る事で回避する。

 銀の剣がある部分だけ結合解除と再結合を連続で行うという、物体が通り抜けたかの様に攻撃を回避する高等技術だ。

 わざと攻撃を受けてやっているとはいえ、私にこれを使わせたのは評価に値する。


「中々良かったぞリリ。私には通用しなくともそこいらの…」

「まだ…まだぁ!!」


ガバッ


 剣を振り下ろしてしゃがんだままの体制から、突如倒立する様に体を起き上がらせるリリ。

 いつの間にか銀の剣は手ではなく、右足の裏のワイヤー脱着用アタッチメントの接合部分に固定されていて、まるで蟷螂が獲物を刈り取るかのような形で私に向けて振り下ろされる。


「喰らえッ!!」


ギュイン バッ ビュン  ビュンビュンビュン!!!


 振り下ろされた銀の剣は床に着く事無く、そのまま腕を軸にして逆さまのまま回転するリリの足に合わせ、でたらめな軌道を描きながら幾度も私が居た場所へ襲い掛かる。

 成程、人でも吸血鬼でもない機械の体サイボーグであるという強みを攻撃に取り入れる事に成功したか。これは後で褒美を与えねばなるまいな。


バタン


「ど、どうだ…これなら……って、えっ!?」


 回転が収まり、横に倒れつつ私の方を見るリリ。だが、そこに私の姿は無い。

 先ほどの攻撃は見事な物だった。上手く決まれば私でさえも滅する事が出来るだろう。


「や、やりすぎた! どどど、どうしよう…マスターになんて言えば……倒しちゃったって…」

「何を馬鹿なことを言っている」


ガバッ


「わ! キャ、キャア!!」


 倒れたまま辺りをキョロキョロと見回すリリの右足を掴み、そのまま逆さまに持ちあげてアタッチメントに固定された剣を外してやる。

 思った通りだ。無理やり固定したので細部が変形している上に、遠心力で過大な負荷がかかってしまっていて損傷が激しい。部品の調整が必要だろう。

 又、相手から目線を外したまま攻撃をするのもよろしくない。今の様にでこうも簡単に勘違いしてしまう。


「は、離せ! 変態!! 足ばっか見るな!! スカートの中覗くな!!」

「下着ではなくレオタードだろう」

「でも見るな! 変態!!」

「分かった、離すぞ」

「待っ、いきなり…」


バタン


「きゅう…」


 手でスカートを抑えていたからか、受け身を取れずに顔から床に着地して無様な声を挙げるリリ。


 やれやれ。

 最後の攻撃は自分から尻をこちらに向けていたというのに。やはり、若い娘の情緒はよく分からんな。

 そもそも、15cmも無いスカートで何を隠すのだ? レオタードも角度が急すぎだろう。

 このファッションセンスは誰の影響なのか。せめて人前ではちゃんとして欲しい物だが。


「じ~~~」


 教え子のセンスに嘆いていると、その教え子がわざとらしく足元からこちらを見上げる。


「どうした。訓練は終わりだ。さっさと調整室に戻れ」

「だっこ」

「はぁ?」


 足の損傷を治す為に調整室へ行けと言った筈だが、当の本人は抱きかかえろと言わんばかりに腕を広げ、寝転んだまま動こうとしない。


「さっき持ち上げられた時に関節が伸びちゃって歩けないからだっこ。ほら、早く」

「…正気か?」

「私の世話も役目の一つでしょ? 早くだっこして?」


 納得はいかないが、確かにリリの世話も契約の中に入る物であるし、このまま無視をするのが良くないというのは長く生きていれば否応にも理解できる。

 どうせ後で面倒な事になるのならば、今ここで面倒を解消するのが無難だろう。


「…っはぁ、分かった。持ち上げるぞ」

「ん」


 わざとらしく溜め息を吐きながら、延ばされた腕の間に体を割り入れ、勢いよく持ち上げる。


「よっ。これでいいな」

「……なんで肩に担ぐの?」

「足を痛めているのならばこの方が負担が少ない」

「……あっそ。早く運んで」


 注文通りに抱き上げてやったというのに、何故不機嫌になる。

 やはり、若い娘の情緒は全く分からんな。

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