グローリーシティ

燦々東里

──青嵐──



 体から次々と血が流れ出ていくのがわかる。このまま放置していれば、確実に死に至る。死への恐怖はないが、この状況で死ぬのは時期尚早というものだ。じわじわと心のどこかが熱くなっていく。絶望を上回る焦りが心を掻き立ててくる。とうに使命など忘れていたと思ったが、誤った死を前にして浮き上がってきたらしい。

 どうにか生にしがみついて、生き延びて、見届けねばなるまい。惨めったらしい生き方だ。だから逸れた。それでも、死にかけたこの体は、生を求めている。

 さくさくと草をかき分ける音が聞こえる。先程攻撃してきた者たちが、帰ってきたらしい。足音の数が一つ増えている。隊のリーダーでも呼びに戻っていたのだろう。

 相手は怪我一つ負っていない。この体では逃げ切る術はない。

「もう……ぐ………で……」

 声が聞こえた。会話をしながらこちらに近づいてくる。

 意識が闇に引っ張られていく。わざと怪我した部分を動かし、痛みで目を覚ます。呻きをこらえていると、いよいよ大きくなった足音が耳に入る。

「ここです、アテンダさん」

「……酷いな……」

 足音が止まる。靴が目の前まで来た。全部で五人分の靴に取り囲まれている。驚きとも恐怖ともつかない男の声が聞こえる。

 気力で顔を動かす。男の顔が見える位置まで、頭を、ずらして。

「研究の役に立つでしょうか……」

「わからない。だが……」

 その男の顔を、瞳を見て、思わずほくそ笑みそうになった。最後の最後に幸運を手に掴んだ。

(殺す……?)

 男に短い一言を投げかける。長い長い余興の始まりだ。

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