第27話 嵐を運ぶもの
「ナイト!」
「少年!」
ジーフクリードとハンプティ・ダンディの声である。
危機一髪がぴんちでやべー状況に、千両役者よろしくナイト・マーティンが現れたのである。
「さっすが、ナイト!
来てくれると思ってた。
この役立たず人ってばさ。
あっ、役立たず人ってハンプティさんの事ね。
大人で偉そうで見た目だけ少しハンサムのくせに、なんにも役に立たないの。
私には未成年を守る義務がある。
なんてカッコつけたくせに。
ギガントは見捨ててたもんね。
女の子は助けるけど、男の子は見捨てるんだ。
サイテー!
信用できないにも程があるよ」
「聞こえてるぞ!」
「……ナイト、なにやってんのさ?」
「……少年?」
カッコ良く登場したナイト・マーティンだがおかしな行動をしているのだ。
ナイトはギガントを突き飛ばした。そんなに力を入れて押したようにも見えなかったが、一般的成人男性より図体のデカイ男が飛んで行きピートロさんの畑に落ちた。ギガントは畑の肥料として使われる動物の排泄物に塗れているのである。
ギガントを槍で狙っていた
そして狼の
少年は黒光りする鞘から長剣を取り出した。どこにでも転がってるような鉄の剣には見えない。柄に意匠を凝らした壮麗な剣。
少年の身体には少し大きく感じるが、それでも黒髪の少年は危なげなく凶器を扱う。
周囲は既に暗くなっている。浅黒い肌に鋭い目つきの少年が月明りに照らされ、その取り出した長剣が光を反射する。
ところがである。
少年はいきなり、剣を畑に捨てた。
ぽいっ。
「捨てたーっ!!
何してんの、ナイト。
現在
これから戦うんでしょ。
武器を捨てて、どうすんの!
……って……あれ?」
捨てた様に見えた。とゆーか冴えた光を放つ剣をナイトは畑に向かって放った。間違いなく放った。そのまま畑に撒かれた動物の排泄物に剣は塗れるはずだった。
しかし。
何故か、剣はナイトの手の中。
排泄物に塗れる事無く、少年の手の中で冴えた光を放っているのである。
そしてなんでだか、ナイト・マーティンは疎ましそうに剣を見ている。
その口がつぶやくのである。
「うるさい、しゃべるな」
ナイトが何をやってるか、と言うと。
数分前の事である。
村長の建物が視認出来た処でナイトは、村長の孫娘デレージアと同学年の学友アンネトワットと別れた。
ナイトは長剣を使って、近くに居た
剣を使うのにナイトは慣れていない。その練習でもある。目立たない程度に風を使い、巻き上げた砂で
父親の物から適当に目に入った剣を借りて来ただけなのだ。が、剣は良いモノであったらしい。剣を扱い慣れないナイトにも判別が着く業物。スルリと抵抗なく
近くのモンスターを一掃し、少女達と別れたナイトはジーフクリードやハンプティが居る場所へと急いだ。走りつつ、ついでに自分の背中を風を使って押す。加速度の乗った身体はおもしろいほど、早く走れる。
その走る中で誰かがナイトに語り掛けた。
「ご馳走さん、モンスターの魂か。
適度に邪悪なスパイスが効いて、目覚めの食事にはもってこいじゃのー」
ナイトは周囲を見回すが、彼の視界には話し声を出す事が出来る存在はいない。
「何処を見とるんじゃ。
ワシじゃよ。ワシ」
その声はナイトの腰から聞こえる気がした。正確に言うと腰の革ベルトに下げた剣の鞘。
「そーゆー事じゃ。
我が名は魔剣『ストームブリンガー』。
吸精のツルギ、魂を喰らうモノ、意志を持つ人に造られた存在。
持ち主から持ち主へ彷徨い歩く邪悪なる凶器。
伝説に讃えられる大いなる魔剣。
それがワシ『
その瞬間、ナイトは剣を自分の横に広がる森へと捨てていた。移動する速度を緩めず進む。
「……なにさらすんじゃーっ!!!
伝説の剣じゃぞ。
なんでぽいっつと捨てるーっ!?」
「……剣は喋らない」
言葉少なく答えるナイトである。
「じゃから!
伝説の魔剣じゃとゆーとろうが。
最近は珍しいのかもしれんが、昔はけっこう有ったんじゃ。
この世に二つと無い話す剣とかふれこんでおいてのー。
ところが話が続くうちに同じような武器がポンポン幾つも出てきたもんなんじゃ。
じゃから、ワシはこの世に二つと無い貴重な魔剣。
じゃけんども、そんなに恐れて捨てるような危険な剣じゃ無い。
どうじゃ!
言う事にスジが通っとるじゃろう」
「いや……全く矛盾してると思うが。
とにかく戦いの最中に話しかけられても、気が散るだけでなんのメリットも無い。
やはり要らない」
黒く塗られた壮麗な鞘を剣ごと投げ捨てるナイトなのである。
「やじゃもん!
もうオヌシが次の持ち主と決めちゃったもん。
魂と魂の契約じゃもん。
変えられやせんもん」
捨てた筈の鞘が再度ナイトの手の中に戻って来ているのだ。
そしてナイトはギガントを突き飛ばした。
ついでに風に乗せて畑に放り込んだのは、耕してある畑なら怪我をする事も無い、とゆー計算からである。決して動物の排泄物に塗れさせたれ、とゆー気持ちからでは無い。
狼の
風で聞いた話が真実ならばこの
剣を鞘から抜いた途端、ナイトに声が聞こえるのである。
「ヒャッホー!!!
敵か?
敵じゃな!
殺せ、殺せ、殺せーーーっ!!!
心の臓を貫いて、熱い血をドクドクと流させるんじゃー。
脳天をカチ割って、髄液チュウチュウ吸うてまえー。
斬れっ!
刺せっ!
砕けっ!
やれっ! 殺せ! いてもうたれ!
殺せ、殺せ、殺せ、殺し尽くすんじゃーーーーー!!!!!」
即座に捨てた。
なのに!
何故か手の中に剣があるのである。
「なにさらすんじゃーっ?!
敵を前に武器を捨てるヤツがあるかーっ」
「武器がしゃべるな。
気が散る」
「……おんどりゃー、伝説の武器をなんだと思うてけつかるんじゃ……
いや……
すまんこった。
ついな、久々の実戦なもんじゃから、テンション上がり過ぎじゃった。
もう少し冷静にするからのう、使ってくれんか」
ナイトは長剣を確認する。手にしっくりと来る
相当に出来の良いモノである事は剣に詳しくないナイトでも分かる。モンスターを切った時の手応え。スルリと剣が敵の身体に吸い込まれて行った。
「良いだろう」
ナイト・マーティンは伝説の魔剣『
ちなみに少し離れた場所ではジーフクリード少年がつぶやいている。
ナイトってば、剣に向かって話しかけてない?
うわー、どうしたんだろう。
さしものナイトも村にパニックが起きてる状況にココロ病んじゃった!?
それともアレかな。
絵物語や紙芝居で主役が愛用の武器に語り掛けてるシーン。
「いつも苦労かけるな、今日が最後だからよ、付き合ってくれよ」
とか
「俺にはオマエという強い味方があったのだ~~」
みたいなアレの気分に浸っちゃってるの。
うわー、意外!
ナイトそういうキャラだったんだ!
などと好き勝手言っているのだが、敵を前にしたナイトには聞こえていないのであった。
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