第26話 畑に突き落とされる男
「操られる人間は
これが現在のオーディンヴァレーの状況だ!」
「ハンプティさん、それは分かったけどさ。
じゃ、実際この人達どうすればいいの?」
訊ねたのはジーフクリード少年。前髪を少し長めに切り揃えた普通の少年。平凡で気の弱そうな雰囲気を醸し出してる割に、口を開くと毒舌の多い言いたい放題の少年である。
ジーフクリードとハンプティ・ダンディを男が襲ってくるのだ。大剣を大きく振る戦士。その顔は狼の毛皮で出来た
ハンプティの言葉が真実ならこの外套こそ
「テメェ、何やってやがる? 俺は雇い主だぞ。こんなマネしたらクビだぞ、
と、ギガントが脅すのも聞いちゃいないのである。
「ね、アレ馬鹿でしょ。
他人の話聞いて無いんだよ。
操られてるって言ってるのにな。
そういう事わっかんない辺りが頭悪いんだよね」
「聞こえってぞ、ジーフ!」
「言ってる事は分からんでも無いが、今言う話でも無いだろう」
ハンプティ・ダンディを大剣が横薙ぎに払われるのを身を屈めて躱しながら言う。
「だから、どうすればいいの?って訊いてるじゃん。
ハンプティさん、王都の偉い役人さんなんでしょ。
「そんな品有る訳が無いだろう。
辺鄙な場所にあるこの村の協会にいる助祭程度では適わない!
少年のように辺鄙な場所に住む人間では分からないだろう。
王都もしくは相当な規模の神殿に赴き高位の神官や巫女に頼むしか方法は無いっ!」
「それってつまるところ今はどうにもならないって事じゃないの。
役に立たない事を長々講釈しないでよ。
イチイチメンドクサイ言い回ししないで簡単に言ってよっ!
俺はこの場では役立たずだってさ」
「キミは! 人の後ろに隠れているくせによく言えるな!」
ハンプティ・ダンディが大剣も持つ戦士と対峙している、その後ろにジーフクリードは隠れているのである。
相手が戦士にしては大ぶりの粗い攻撃なので、なんとか避けてはいるがハンプティの不利は明らか。ハンプティは相手の攻撃を避けているだけ、反撃をしていない。
ステッキで打撃を加えて、牽制をしたりはしている。だがその下に秘めた刃を取り出し男を斬るまではしていないのである。
「ハンプティさん、なんで斬らないの?」
「相手は人間!
操られているとは言え、おそらく死んでいる訳では無い。
これでウカツに反撃して切ってしまった場合、暴行だ!
もしも切りどころが悪くて、相手を死に至らしめた場合、殺人罪が適用される可能性もある」
「ええええっ!?
こんな無垢な少年を刃物で攻撃してくるんだよ。
ワルモノはあっちじゃん。
セイトーボーエイでしょ」
「……キミが無垢な少年かはともかく!
勿論、純粋な殺人罪とされる事はおそらく無いだろう。
ある程度の正当防衛も認められる。
その場合、未成年を相手が刃物で攻撃していたと言う部分はポイントとなる。
だが!
こちらも仕込み杖を持っていたとすると、最初から害意があった、相手を殺すつもりであったと断じられかねない」
「ええええええっっ!?
ばかばか、なんでそんなの持ってくるのさ」
「……キミ、本気で見捨てるぞ。
これのおかげで命拾いしているんだぞ。
ともかく!
殺人罪として10年以上の刑を喰らう事はあるまい。
しかし無罪になるかは難しいだろうな。
なにより
「ハンプティさんが自分で言ったんじゃん。
「だから、それを司法官が認めてくれるかが難しいと言っている。
どのモンスター研究書にも
「だから役人なんて役に立たないんだ。
役人が役に立たなかったら、役立たず人じゃないの。
明日からハンプティさん、王都から来た役立たず人です、って名乗ってよね」
「……この男は切れんが、キミの事は斬っても良い気がするな。
おそらく王都の司法官も、そこまで言われたなら刃物を振るうのもやむなし、と認めてくれるだろう」
とノンキにハンプティ・ダンディとジーフクリード少年は言い争っているようであるが。
実際には剣で切られようとしてるのである。
現在も狼の
危険がアブナイのである。エゲツなくデンジャラス。危機一髪がぴんちでやべー事この上無いのである。
その一方ギガント・マックスの方はと言うと槍を持った戦士に攻め込まれている。
自分も真剣を持ってはいるものの本気で本物の武器を持つ相手と戦った経験など無い。
ギガントの方は平気で男に斬り込んでいる。自分の雇った男では有るが、こちらを攻撃してくるのだ。一方的に殺られてたまるかよ。殺人罪などと難しい事を考えられるギガントでは無いのである。
しかし相手は鉄の胸当てを着けた戦士なのだ。胴体を斬ってもギガントの剣は撥ね返されるだけ。なんとか向こうが攻撃してくる手の先を狙って、傷つけた。……のだが相手はほとんど変化が無い。
剣の先で刺した手の甲から血を流してると言うのに、まったく気にするそぶりが無いのである。負傷箇所を抑えもせずに攻撃してくる狼の
「クソッ!
なんだコイツ。
少しは痛がれよ」
「だから!
操られてるんだってば!
こっちの話も少しは聞いてよ!
他人の話を聞かない人はろくな大人になれない、って言われなかったの?
っていうか、図体だけはもう大人だっけ。
じゃあムリか、これ以上成長しないもんね。
どう考えても精神も身体もこれ以上悪くなる事はあっても良い方向に成長しそうに無いよね。
誰が見てもそうだもんね。
助祭のヤコブタさんだって、助祭様だってのにギガントに関しては注意するのも教え諭すのも完全に放棄してるもんね。
今さら言っても……だよね」
「ジーフ、テメェ聞こえてっぞ!」
「なんで悪口だけ聞こえるのさ!!!」
そんな会話に気を取られた瞬間であった。ギガントの肩に槍が刺さった。木製の柄に鉄の刃物が埋め込まれた長槍。その先端がギガントを捉えたのである。
狼の毛皮で出来た
腕の立つギガントでは無いが、そんないい加減な攻撃位なら避けるなり、剣で払うなり出来ていた。
しかし
ついにギガントはその攻撃を喰らってしまった。
「…………ギガント!……さん!」
「いかんな。
アレは利き腕を傷つけられた」
ハンプティの言う通り、右肩を刺されたギガントは剣を取り落としてしまった。
「イッテェ!
いでいでいでで!
いっでぇーーーーー!!!」
ジーフクリード少年は目を逸らす。気に入らない相手では有るが、傷つけられ痛がる姿を見て喜ぶほど悪趣味でも無い。
「……ハンプティさん、なんとかならないの?」
「…………なんともならん。
こっちも逃げるのに精いっぱいだ」
その通りハンプティとジーフも大剣を振るう男から逃げ回っているのだ。
その数メートル先で展開される光景。
肩を抑え剣を取り落としてしまったギガント。とても少年には見えないが、年齢的に言えばまだ未成年の男。その抑えた方から赤いものが流れていくのである。
狼の
しかし、その槍は空を切る。
ギガントは誰かに突き飛ばされていた。そのまま畑に身体ごと飛び込んでしまう。
「なっ、なにしやがる、テメェ」
そのギガントの視界に居たのは。証拠が有る訳では無いが昼間も彼を畑に突き落とした男。ナイト・マーティンであった。
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