4話 陽だまりの朝

 僕は今、机を挟んで彼女と向かい合っている。



「昨日までアンリは魔法を使えたんだよね?」



 マリーナが髪を耳にかけながら言った言葉に、僕は頷いた。



「原因に心当たりはないの?」


「二日前に炎竜を討伐して、昨日は王国に行ってきたんだ。そして今朝起きたらこの様だよ」



 本当に、情けない。

 自己嫌悪が頭上からのしかかり、僕を押しつぶそうとしている。




「……まあ、魔法の使いすぎで魔力がなくなる、なんてことはないし

ね。寝れば基本的に回復するから」



 そしてうつむく僕に、彼女は言った。



「アンリはさ、魔法の扱い方を知ってるよね?」



 ……空気中の魔素を、魔力を以て操り、魔法とする。基本の事だ。今どき子供でも知っている。



「この場所に魔素は満ちてる。つまりね、君の『魔法喪失』の原因は、君の魔力にあるんだ」



 『魔法喪失』。聞き馴染みのない言葉だ。しかし、こんな言葉があるってことは……。



「これまで僕に似た症状の人はいたってこと?」


「いや、前例はないよ。魔法喪失っていうのは、私が今名付けた」



 なんだ、そうか。少し期待外れだ。

 彼女は「結構良いセンスしてるでしょ!」なんて軽口を叩いている。



 彼女にも、この事態を打破する方法は分からないのだろうか。

 そんな僕の思いを察するようにマリーナは言った。



「でもさ、アンリと私。昔一緒に過ごした大賢者が二人いれば、どんなこともなんとかなる気がしてこない?」




 ──いつだって、そうだった。彼女は底抜けに明るく、その笑顔で僕の不安をかき消してくれる。まるで、太陽のように。



 そして今も、そうなんだ。彼女はいつでも信頼できる、そして彼女の言葉に偽りは無いと断言できる。


 僕は笑顔で、彼女に応えた。



「ところで、何か気付いたこととか感じたことはないの?」


 

 気付いたこと、か……。



「そうだ、魔力を失うというか、何かを失くす感覚がニ回目のような……」


「もしかして……呪いのせいで魔力がなくなったってこと?」



 呪い。人に害を与えるために作用し、解呪を行わない限り効果が永続する、あの──



 ──思い出した。一回目は、あの時だ。



「あの日……僕が初めて呪われた日。君と出会う前……」



 無意識に自分を守るため、重石を乗せて封じていた幼い頃の記憶が蘇った……。

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