第6話 襲来
「見てっ、一条様と桜二様よ!」
そのひと言で、クラスの女子の顔が輝いた。
こそこそ隠れようとしているのは私だけで、突然盾にされたアキくんが驚いたようにこちらを見ている。
「お二人ともあまり教室を出ないタイプですのに、今日はどうしたのかしら」
「やっぱり、教室に外部の方がいるからじゃない?」
女子のほとんどが廊下側の窓に陣取り、花凛さんなんて廊下に出ていた。みんな顔は恋する乙女って感じなのに、口調にどこか棘がある。
「ねえ!こっちに来てない!?」
みんなの視線をものともせず、私が最も会いたくない二人がこの教室に近づいてくる。
バレないでしょと考えていた昨日までの私を殴りたい。なんで二人がそろいもそろってこんな大人気なんだろう。アイドルか。
「ユキちゃん?さっきからどうしたの?」
「な、なんでもないよ!ただあの人たち、すごい人気だなって」
「一条と白鳥は、“花持ち”でも格が違うからね」
「花持ち?」
一瞬にして、あふれんばかりの花を抱えた二人の姿が私の頭に浮かんだ。確かにそれなら注目をあびると思うけど、たぶんそういう意味じゃないと思う。
だけど私が答えを聞く前に、教室のドア付近で声が響いたのだった。
「__ほら見ろ桜二、やっぱりいただろ?」
「オレはときどき、本気でお前が人間かと疑う時があるよ。……よくあの距離で見つけたね」
聞き覚えのある声に、私はビシリと固まった。
「一条様?何かご用件でしたら、わたくしが聞きますわよ」
「探してたやつは見つけたから大丈夫だ。それより、ちょっとどいてくれないか」
そう言って一条くんは目の前で壁になっていた花凛さんたちを押しのけると、ツカツカと私の前までやってきた!?
しかもまっすぐ私を見ていて、さっきからずっと目が合っている。……まさか、探してたやつって私!?
「ああ、やっぱりこないだのヤツだ。俺のこと、覚えてるか?」
そう言った一条くんは満面の笑顔を浮かべていた。心なしか目がキラキラと輝いていて、声も少し弾んでいる。いや、そんなことよりも。
(ば、バレてるーーっ!?えっ、なんで?さっき入学式終わったばかりなのに!)
誤魔化す間もなくバレてしまったことに危機感よりも困惑が勝つ。混乱してしまった私はちゃんと返事できず、言葉に詰まってしまった。
助けを求めて周りに目線を巡らせると、一条くんの後ろにいるオウジサマとも目が合う。彼は感情の読めない表情でじっと私を見ており、私は調理される直前の食材のような気持になった。
二人は仲良いみたいだし、きっと私の事は耳に入っているのだろう。
(でも私の
少し怯えた私に気づいたのか、アキくんが前に出て視線を遮ってくれる。
「一条。何があったか知らないけど、自分の影響力を考えて。怯えてるよ」
「わ、悪い……。ずっと会いたかったから、嬉しくてつい」
ば、爆弾発言っ!
教室の空気が一気に下がった気がするし、花凛さんなんて恐ろしい顔で私をにらんでいる。絶対に勘違いされてるよ……。
「は、会いたかった?ユキちゃんに?」
「ずいぶん親しげに呼ぶんだね。仲いいの?」
ずっと黙っていたオウジサマが、好奇心丸出しで聞いてくる。アキくんは面倒くさそうに答えた。
「ぼくとユキちゃんは幼馴染みだよ」
「へー。……オサナナジミねえ」
オウジサマは、少し目を丸くする。そして何も言わず、じっと私のことを見つめた。居心地が悪い。
「何が言いたいの」
「別に?ただ、あの秋兎が女子と仲良くしてんのメズラシーって思って」
そう言って薄く笑ったオウジサマに、アキくんが少しイラ立つのがわかる。
そんなピリッとした空気を吹き飛ばすように、一条くんが明るい声で話す。
「奇遇だな、俺と桜二も幼馴染みなんだ!桜二はちょっと口が悪い時があるけど、こいつなりに秋兎のこと心配してんだよ」
「はあ?適当な言わないでくれる」
思いっきり眉をひそめたオウジサマは、少し一条くんをにらんだ。二人はアキくんと仲いいのかな?
「っていうかソウ、お前こんな世間話をするためにC組に来たわけじゃないだろ」
「あっ、そうだったな」
一条くんの表情が固くなる。
朗らかな笑顔は消え、代わりに真剣な眼差しが私を射抜いた。
「この間のお礼と……お前に大事な話がある。今日の放課後、少し時間を貰えないか?」
「――へ?」
一瞬何を言われたか理解できなくて、思わず間の抜けた返事をしてしまう。
お礼はまだ分かる。それも正直今ここで「ありがとう」って終わらせてくれた方が嬉しいけど……それより大事な話って!?そんなに深刻そうな顔をするほどの話なの?
やっぱり力のこと、バレちゃった……?
「はあ!?一条、お前何言って、」
我に返ったアキくんが問い詰めようとしたけど、タイミング悪く予鈴が鳴ってしまった。
「それじゃ、またあとでな!」
「ちょっ、一条!せめてどんな話か……ちっ、あのイノシシめ」
嵐のように去った一条くんたちに舌打ちをすると、アキくんは心配そうに私を見た。
「ユキちゃん、だいじょうぶ?」
「……あんまり大丈夫じゃないかも」
もちろん力のことも怖いけど、今は視線だけで人を殺せそうな目をしている女子の方が怖い。
「ユキちゃんが行きたくなかったら、一条のことは無視していいんだよ。あいつにはぼくから言っておくから」
「ううん、それはちゃんと行こうと思う」
無視したらそれはそれで怖いからね……!うう、ちゃんと誤魔化せるかな。
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