第7話 女子のリーダー
次の休み時間、私の席に女子の人だかりができていた。
少し離れたところでアキくんが心配そうに見ている。アキくんだって聞きたいことがあるのに、優しい幼馴染みだ。
「七瀬さんは一条様たちとお知り合いですか?」
花凛さんの隣にいる子が口を開いた。
敵意と探り合い。それでも問答無用じゃないだけマシだ。
「ううん、採寸会の時に初めて会ったの。たまたま一条くんの落とし物を届けたから、そのお礼だと思うよ」
何とか笑顔を保ちつつ、こっそり花凛さんの様子を伺う。目をつけられたらおしまいだ。
「そう、運がいいのね。一条様の落とし物の件はわたくしからもお礼を言っておくわ。まあ、そうじゃなきゃ七瀬さんみたいな方が一条様の目に留まるはずもありませんね」
「さすが一条様。たったそれだけのことにここまで優しくしてくださるなんて」
花凛さんの言葉がちくりと胸に刺さる。
……だけど、納得してくれたみたい。口々に一条くんのことを褒めるその目はハートマークだ。
でも、みんなどこか花凛さんを気遣っている。どうやら、花凛さんは本気で一条くんのことが好きのようだ。
「……ところで、七瀬さんは三葉くんと仲がいいの?」
「うん、幼馴染みなんだ」
「そうなの!羨ましいわ。三葉くんは特待生に選ばれるほど素晴らしい絵をかくのだけど、クールな方でなかなか話してくれないのよ」
「だから私たち、さっきはとても驚いたのよ」
「ねえ、みなさん。わたくし、お二人はとってもお似合いだと思うのだけど、いかがかしら?」
花凛さんがそういうと、周りから楽しそうな声が聞こえる。
慌ててアキくんの方を見れば、男子と話していた。よかった、この話は聞かれてないみたいだ。
(私とアキくんをくっつけて安心したいんだ)
人の気持ちを全然考えていない。
私ははやし立てられないように、なるべく冷静に否定した。やっと丸くなった空気を壊さないように注意を払って。
そしてついにやってきてしまった、放課後。
何度も断ろうかと考えたけど、一条くんがそれで終わりにしてくれそうにもない。まだ数回しか話してないけど、あきらめ悪いのは想像つく。これで明日も乗り込んできたら、こんどこそ私の中学生活が終わる。
この世の終わりのようなため息をついて、私はA組に向かった。休み時間のような大注目を避けるためだ。
私一人だったら考え付かないことだけど、ありがたいことにアキくんが一緒に話を聞いてくれることになった。採寸会の日にあったことを話したあと、絶対に一緒に行くと珍しく怒っていた。
アキくんは祖母以外で唯一私の力を知っているから、とても心強い。けど、花凛さんさんたちに色々言われたこともあって申し訳なさでいっぱいだ。
「あいつらも終わったみたいだね」
前を見れば、前から一条くんが手を振りながらこちらに来ているのが見える。その隣にオウジサマもいた。
「今度は逃げなかったんだね」
「秋兎も来たんだな。悪い、頼んだのはこっちなのに、遅れてしまった」
「先生の話が長引いたんなら仕方ないよ」
あの日私が逃げたことを根に持っているのか。でも怒っているわけではなさそうだから無視する。
話がもう回っているのか、誰も帰ろうとしない。みんなが聞き耳を立てている。居心地悪いけど、これなら変な噂が立つこともないだろう。
そう安心していると、周りを見回した一条くんが困ったように眉をひそめた。
「……人が多いな」
そして突然私の手をガシリと掴んだかと思えば、早足で階段を下りて行った。あんまり力を入れているようには見えないのに、ぜんぜん振りほどけない。
「わっ、い、一条くん!?どこに行くの?」
「俺の名前、覚えててくれたんだな!」
それはどうでもいいよ!
でも一条くんはそのまま嬉しそうに、さらに歩くスピードを上げた。その横顔があんまりにも嬉しそうだったので、私は思わずぽかんと眺めてしまった。
「ちょっと、教室で話すんじゃなかったの?」
「そんなこと、ひと言も言ってないけど」
「~~っ、確かにそうだけど!じゃあ、どこで」
「蘭の館」
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