第四話

キラキラ

 夏の日差しがきらきら輝いていた。寝起きの朝一番に窓を開けると、草と土の湿った空気がむっとする。外気はギラギラに熱い。それでも夏の陽がさわやかなのは、窓から見える街が理路整然と美しいからだ。

 アパートの二階角部屋の窓からは、等間隔に公園らしき樹木のかたまりと、その合間合間に同じようなアパートが陽を銀色に照り返しているのが見える。そのずっと先には頭一つ抜けた白い建物がある。この街の中心だ。

 わたしは、ここで電気保守見習いとして研修を受けにきた。

 街のことがなんでもわかる超最先端バイザーをかぶり、でもバイザー部分は額に上げたまま、夏の道を電動自転車で走る。

 道には等間隔にごみ捨て場のボックスが配置されている。赤くランプの点いたボックスを、ボックスより二回りは大きいボックスが中身を回収する。大きいボックスは自走式無人ゴミ収集箱だ。収集箱のシャーシの部分からアームが出てきて、ランプの点いたボックスを持ち上げ、収集箱の上でひっくり返す。そうして収集箱は次の回収ランプが点いたボックスへ向かう。

 足がキャタピラの掃除ロボも街じゅうをウロウロしている。だからこの街は最低限の人間で成り立っていける。

 研修所にはわたしと同じような人たちがた十人弱。それでもとてもとても絞られた数だ。この街で研修生としてでも住むことができるのは、一握りよりももっと少ない数の人間だった。

 体育館にそっくりな実習室での実習は、冷房が弱くて暑くてたまらない。昼休憩に外へ出ると、実習室の裏に猫がいた。

 くろくてふわふわの、高級そうな猫だ。

 きいろい眼がわたしを睨みつけていた。

 どうしたの、迷子になっちゃったの?

 声をかけても、猫はぴくりともしない。

 きみ、働きに出るような猫ちゃんじゃないでしょ? おうちに帰してあげる。

 優しく話しても、うんともすんともいわなかった。が、昼食を分けると簡単に抱き上げることができた。

 わたしは首輪を探す。だけど見つからない。脱げちゃったかな。猫の返事はない。

 わたしは猫を警察に届けることにして、昼休憩を猫と一緒にあがった。

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