切手

「やっちゃーん、やーちゃん、やーぼーくーちゃーんー」

 呼んで返事があるとは思っていないけど、姿が見えない猫を探すのに呼ぶのが早いような気がした。

「ん? 矛盾してるな……」

 私は布団をひっくり返していた手を止める。この街に来てから一人でいることが多いし、一緒にいることが多い猫は会話もほとんどしてくれないから、自分の頭の中で物事を完結させている気がする。気がする。そんなのばっかりだ。

 夜墨はよく出かけるようになった。ねずみ取りの仕事を割り振られてからだ。怪我をして帰ってくることもないから心配していないけど、この前はさすがに迎えに行ってしまった。夕立にあったらどこかへ行ってしまうんじゃないかと思って。

 いつも、窓から出て行って窓から帰ってくる。帰ってくるとすぐにご飯の催促をしてとてもうるさい。今日も、さっきまで足元でにゃあにゃあ言っていたのだ。それなのにいつものご飯ができてみたら姿を消していた。窓辺にもいない。

 家具は備え付け、ビジネスホテルと大差ない。ベッドにクローゼットにデスク椅子、テレビ、テレビラック。家具の隙間にもいなかった。

 残るは持ち込んだボストンバッグくらいのものだ。戸が半分開いていたクローゼットを覗くと、ボストンバッグからくろい尻尾が伸びていた。

「やっちゃん!」

 ボストンバッグから夜墨が顔も出す。私が手を伸ばすと、ぴょいっと避けて私の横を通り過ぎていった。ご飯を食べる音が聞こえる。

「やっちゃん……」

 そういえば昨日、探し物があってボストンバッグの中をかき回したんだった。探し物を見つけて、バッグをそのまま放り出したままだったらしい。

 中の物は無事だろうか。確認すると、ごみみたいなものしか入っていない。なにをこんなに入れてきたんだっけ? 昨日探していたものもなんだったか。

 バッグの底に、硬い封筒を見つけた。便箋がたくさん詰まっているから重くて硬い。宛名は隣町の実家で、切手が貼ってある。消印もないからまだ出していない手紙だ。

「こんなの書いたっけえ?」

 封筒はなんとなくくたびれて古ぼけている。こんなのしか見つからなかったんだっけ、今の時代に切手って。宅配ではない郵便はごくたまに配達しているはずだ。

「集荷スケジュール確認しようとして忘れちゃったかなあ」

 講習のついでにポストに出して来ようか。せっかく書いたんだし。いつなにを書いたんだかすっかり忘れちゃったけど。

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