緑陰

 街に住むペットは全て登録が義務付けられている。感染症の予防接種とチップの埋め込みも義務付けられ、チップによって居場所をいつでも人間が把握することができる。

「やっちゃん、チップ入ってなかったのおかしいよねえ」

 黒猫の飼い主は黒猫を撫でつつ、メールをスクロールする。

 この街に登録されたペットには仕事が与えられる。犬は地域の見回り、猫は害獣駆除だ。

「そんなうまくいかないと思うけどねえ。ま、明日から頑張って、やっちゃん」

「にゃん」

 黒猫がそれらしい返事をすると、飼い主は目を丸くした。わしゃわしゃ撫で回そうとするのを、黒猫はやすやすと避け、定位置におさまる。

 黒猫は窓から見える街をじっと観察している。猫には見えないはずの遠くのものや、細かな部分まで見えているかのように。

 翌日、黒猫は網戸でない窓から外へ出た。周りを見渡すこともなく隣の緑地へ入る。

 緑地は鬱蒼として、舗装された道に枝は伸び低木が埋めている。元はベンチであっただろう金属製の手すりが葉の狭間からの陽光を照り返していた。

 緑地の中には生き物の気配が詰まっている。黒猫が入ってきたことで、ピリピリしていた。

 黒猫は埋まった道に沿って進む。毛を逆立てて唸る猫の鼻先を通り過ぎ、目の前を横切っていった子ねずみに目もくれない。

 そうして緑地を通り過ぎて住居の敷地に入り、うろついていたねずみを一匹仕留めて帰ってきた。だが緑地に入ったとたん、縄張りの猫が我が物顔でねずみを奪い取った。

 黒猫は何度かねずみを取ってきては奪われを繰り返し、とうとうねずみを取らずに緑地を突っ切って帰った。

 その日、帰宅した飼い主は黒猫の釣果が無かったことを笑ったが黒猫を労った。黒猫の移動履歴を調べ、ねずみ取りに挑戦したが、失敗したのだと思ったからだ。

 黒猫はノミとダニのために、翌日無理矢理入浴させられた。

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