第19話 マジレスもやめるのじゃ!

 ──そして放課後、僕は神社に来ていた。ベンチに座っているミミハ様を見つけた僕は、彼女に声を掛けたんだ。


「ミミハ様。もう雪丸は来てる?」


「ああ、春か。えっと、それがじゃな……」


 ミミハ様は困った表情で言い淀む。何かあったのだろうか?


「どうしたの?」


「実はお主よりも先に来ておるんじゃが……ずっと彼女は隠れておるんじゃよ」


「え、隠れてるって……何で?」


「うむ……なんじゃか、凄い怖がっておるみたいなんじゃ。こんな弱気な心の音は、ウチも初めて聞いたわい」


「そっか……」


 うーん、怖がってるか……まぁ『絵馬の願いを叶えてる』なんて言葉、めちゃくちゃ嘘っぽいもんな。それでもここに来たってことは……本当に絵馬の内容を口にされたくないのだろう。結構悪いことしちゃったかな。


「それで、ウチだけでは彼女に干渉出来ずにおったんじゃが、春が来てくれたらそれは変わるんじゃ。じゃから、2人で彼女に会い行ってみんか?」


「それは構わないけど、雪丸はどこにいるのさ?」


「あっちの茂みの方じゃ」


「そりゃまた凄いところに隠れてるね」


 言いながら僕らはそっちの方に近づいてみる。そしたらガサガサと草木の揺れる音がして……僕が覗いてみると、そこには小さく縮こまっている雪丸の姿があったんだ。結構ガチで隠れていたのか、制服やスカートには汚れが見えたんだ。


 そして僕らに気づいた雪丸は驚き、立ち上がって大きな声を上げるが。


「……よ、米村君……!? ……と、えっ……?」


 僕の隣にいたミミハ様を見たのか、呆然と言葉を失うのだった……そしてミミハ様はいつもの自己紹介を繰り出した。


「うむ、ウチはこの神社の守り神、ミミハじゃ! 気軽にミミハ様と呼ぶが良いぞ!」


「…………え。やっ、え、えっ?」


 ……当然と言えばそうなのだが、雪丸はもっと困惑していた……そりゃそうだよな。生まれてこの方霊感の強い僕や、もともと神様の存在を知っていた店主らが例外で、ミミハ様を見たらこんな反応するのが普通だもんな。


 僕は彼女を落ち着かせるためにも、ミミハ様のことを説明したんだ。


「えっと……雪丸さん。こいつは尻尾とか生えてる変なヤツだけど、別に危害を加えたりはしないから安心していいよ」


「え、なんじゃ、その説明は!? ウチはモンスターか!? もっとこう……あるじゃろ!?」


「無いよ。完璧な説明だった」


「どこがじゃ!?」


 ワーワー騒いでいる神様は置いておいて……雪丸の反応は?


「…………か、神様、なんですか?」


「うむ、そうじゃ! この子は春と違って、物わかりが良いのっ! この子と契約結ぼうかのー!」


「そうしてくれると、こっちも願ったり叶ったりなんだがな」 


 一発で信じてくれた雪丸を気に入ったのか、ミミハ様は雪丸にハグをした。雪丸は嫌がる……というか、どんな対応すれば良いのか分かっていないようで、直立不動のままでいたんだ。何か……シュールだな。


「……ま、契約は1人の人間としか結べんから、それは叶わんのじゃがな」


「しかも解除できず、死ぬまで続くんだろ? ホントとんでもないことしてくれたよな、アンタ」


「もう、蒸し返すのはやめるのじゃ! そのことは謝ったじゃろ!」


 別に許した訳でもないけど……まぁ雪丸がミミハ様見えてるのは、僕がいるからなんだが。だから、雪丸が神様と契約を結べた可能性は限りなく低い……。


「マジレスもやめるのじゃ!」


「どこで覚えたんだ、そんな言葉」


「ネットじゃ」


「ネット」 


 某芸人みたいな聞き返し方してしまった……つーかちょいちょい神様、ネットのこと知ってるよな。この神社にWi-Fiスポットでもあるのか?


「それはおいおい説明するとしてじゃな……お主が雪丸栞で間違いないんじゃろ?」


「えっ、あ……そうです。私が雪丸栞です」


 急に話を振られた雪丸は、なんとか自己紹介をした。見た感じ、警戒心も少し減っているみたいだった。


「うむ、それでじゃな栞。春から話は聞いたと思うが、ウチらは神社復興のために願い事を叶えていっているのじゃよ。で、次の願いが……」


「……私、ってことですか?」


「そうじゃ! やっぱり栞は物わかりが良いのー! 春とは大違いじゃ!」


「……」


 いちいち比べなくていいだろ。まぁ……ミミハ様が雪丸のこと気に入ってくれたら、僕に構う時間が減って楽だから助かるんだけどな。


「……じゃあ早速本題に入っていこうと思うんじゃが、栞。絵馬に書いてたことについて、詳しく話を聞かせてくれんか?」


「え……あ、はい。わ、分かりました……!」


 雪丸は信用してくれたのか、はたまたこの状況、断れないと思ったのか……真相は分からないが、とりあえず願い事の全容を僕らに話してくれるのだった。

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