第2話 ふたりきりの屋上であまーいランチタイム!

 〇学校の屋上(昼休み)


 SE:ぎぃぃ、ばたん、と屋上のドアを開閉する音。以後、屋上のドアはこの音。


 ◆千夏、様子をうかがいつつ、そろりと屋上にやってくる。



 ……よし。彼はまだ来てないみたい。


 今のうちに確認しておこっと。

 お弁当よし。レジャーシートよし……うん。前髪もばっちり決まってる。可愛いぞ、私。


 これでアイツをもてなす準備は万端、ってね。


 あとは私の演技次第。

 たっぷりイチャついて、ドキドキさせちゃうんだから。



 SE:屋上のドアを開閉する音。


 ◆キミ、屋上にやってくる。



 あ、きたきた。

 こほん……落ち着け。シミュレーションどおりやれば、きっと上手くいくはず。


 作戦名は『彼氏のために手作り弁当を作る健気な彼女を演じて、甘々な雰囲気になっちゃおう作戦』。


 あまーいランチタイムで、ドキドキさせちゃうんだからね?



 ◆千夏とキミ、ここから疑似恋人関係がスタート。演技が始まる。



 遅いぞー。待ちくたびれちゃったよぅ。私、もうおなかぺこぺこ。

 キミもお腹すいてるんでしょ?

 ふふっ。食いしんぼさんめー。


 ところで、約束どおり、お弁当は持ってこなかっただろうね?


 うん。よしよし。えらい、えらい……え? これからお昼ご飯を買いに行くのかって?


 ぶっぶー。ちがいますー。


 キミは本当ににぶちんだなぁ。お弁当を持たずに彼女と屋上でランチだよ? 普通はわかるでしょーが。


 いい? お昼にキミを呼び出した理由はねー……じゃじゃーん! キミのためにお弁当を作ってきましたー!


 ほら見て。キミの好物のから揚げもあるよ。他にもエビフライとか、たこさんウインナーとか! 一緒に食べよ?


 え? まぁ、そりゃ早起きしましたよ、ええ。


 どうしてそこまでするのかって……そんなの、キミの喜ぶ顔が見たいからに決まってんじゃん。言わせんなし。ばか……。


 うー……あー、はずい!


 そんなこといいから、ほら。お弁当たべよ?


 どれから食べる? から揚げ? なははー、キミは本当にから揚げが好きだね。小さい頃から変わんないや。


 ねえ……あーん、してあげよっか?


 あはは。何恥ずかしがってんのさー。私とキミの仲でしょ?


 ううん、ただの幼馴染じゃないよ。

 恋人、でしょ?

 付き合ってるんだよ、私たち。


 さあさあ。観念して口をあけなさいな。

 はい。あーん。


 ……どう? 美味しい?


 恥ずかしくて味がわかんない?


 なんだよー。せっかく早起きして作ったのに、その感想はひどいと思うな。

 彼氏のコメントとしては0点です。なので、やり直しを命じます。


 だーめ。彼女命令はゼッタイなんだから。

 もう一回、口あけて?


 ふふっ。よくできしました。

 はい。あーん。


 ……どうかな?


 美味しい? ほんと? 嘘じゃない?


 そっか……褒められると、ちょっぴり照れくさいな。えへへ。


 ささっ。たくさんあるから、いっぱい食べて?


 ん? 私は食べないのかって?


 食べるけど、もうちょっとこのままでいさせて。


 キミが美味しそうにお弁当食べてるの、見ていたいの。だって、キミが夢中で食べてる横顔、すごく幸せそうなんだもん。


 私だけが知ってる、キミの可愛い一面、だね。


 なははー。照れるな、照れるな。


 てか、私もこういうこと言うの、照れくさいんだからね?


 ううん、だーめ。やめてあげないよ。

 千夏ちゃんはイチャつきたいお年頃なのです。えっへん。


 それより早く食べてよ。

 あははっ。もう「あーん」はしないから安心して食べなって。ま、お望みならいつでもやってあげるけど?


 お、なんかすごい勢いで食べ始めた。もぉー。そんなに「あーん」するの嫌なの?


 ……あ、そうだ。

 ねえ。私にもあーん、やってよ。


 そんなこと言わずにさぁ。自分だけやってもらってズルいぞ。


 ……私も彼氏に甘やかされたいんだよぉ……だめ?


 えへへ。ありがと。

 じゃあ、そのたこさんウインナーをくださいな。


 自分で言っておいてアレだけど……なんか緊張するね。


 うん。いいよ。食べさせて?

 はむっ。


 あぅぅ……思っていたより恥ずかしいかも……。


 でも、ちょっぴり幸せだね。


 ……こうしてキミと二人きりでイチャつく時間、好きだよ?


 私、甘えんぼだから……今は二人きりだし、もっと甘えちゃおっかな……なんてね。


 ……あー! なんか恥ずかしいこと言っちゃったなー!


 今のナシ! 忘れて!

 そんなことよりお弁当たべちゃおーよ!

 ちゃんとお野菜も食べるんだよ?

 好き嫌いは、めっ、だからね?



 SE:鳥のさえずり(時間経過)。



 ごちそうさまでした。

 んふふー。どやどや、彼女の手作り弁当は。美味しかったでしょ?


 そっか。美味しかったならよかった。また今度、作ってきてあげるね。


 ……ん? なんだー、その大きなあくびは。

 もしかして、たくさん食べて眠くなっちゃった?

 あははっ。赤ちゃんみたいで、なんか可愛い。


 いいよ、寝ても。お昼休みが終わる頃に起こしてあげる。


 あ、こらこら。コンクリートの床で寝たら汚れちゃうよ。レジャーシートの上で寝なさいってば。


 え? あー……たしかに私の座るスペースがなくなっちゃうね。


 ……じゃあ、ココで寝てみる?


 うん。千夏ちゃんのひざ枕ですっ。


 ぶっぶー。キミに拒否権はありません。何故なら彼女命令はゼッタイだからでーす。


 恥ずかしいの?

 大丈夫。屋上には私とキミの二人きりだから。誰も見てないよ。


 あのさ……恥ずかしいのは、キミだけじゃないよ? 私もドキドキしてるんだからね? 彼女に恥かかせないのー。


 ほれ。観念してひざ枕で眠りなさいって。


 ……うん。いいよ。きて?


 ……どうかな。私のひざ枕の寝心地は。


 ふーん。あったかくて柔らかいんだ? 気持ちいいの?


 よくわからないけど、なんかえっちな感想だなぁ……。


 あははっ。そんなに慌てて弁解しなくても。冗談だから安心してよ。


 そう。寝心地いいんだ。

 じゃあ、しばらくそうしてなよ。私は起きてるからさ。


 ふふっ……こっそりキミの可愛い寝顔、見ーちゃおっと。


 イイエ。何モ言ッテナイデスヨ? ただの独り言でーす。


 ほらほら。早く寝ないと、お昼休み終わっちゃうよ?


 はい。目を閉じて?


 あなたはだんだん眠くなーる……なーんてね。


 それじゃあ、おやすみなさい。



 ◆しばらく間をおいて、千夏、キミの寝顔を見下ろして微笑む。



 ……ふふっ。可愛いくて無防備な寝顔。


 今ならキスしてもバレないかも……なんてね。



 SE:チャイムの音(時間経過)。


 ◆まだ寝ているキミから顔を背け、顔を真っ赤にする千夏。



 くぅぅー……めっちゃ恥ずかしいんだけどぉぉぉ……!


 あーんとか、ひざ枕とか、サービスしすぎでしょ、どう考えても! どんだけイチャイチャしたがりなのよ、私! 演技だからって自分に正直になりすぎ!


 で、でもさ……キミもだいぶ照れてたよね? あーんするときとか、顔赤かったし。

 それって私のことを異性として意識したってことじゃん?


 ……私に恋、してくれたかな?


 はあ……キミ、まだ寝てるんだね。人の気持ちも知らないで、幸せそうな顔してる。


 ……なんか腹立ってきたんですけど。

 乙女の恋心がわからないにぶちんめー。

 いひひー、悪戯してやろっと。


 こらー! チャイム鳴ったから起きろー! 授業間に合わないぞー!


 あはは、びっくりしすぎ! そんなに声大きかった?


 え? 起きたら私の顔が近くにあって驚いたって……ち、ちっちゃくて可愛い顔!? な、何恥ずかしいこと言ってんのさ。ばか。


 ……あのさ。昼休み、恋人ごっこしてみたわけじゃん?


 その、どうだった?

 だ、だからぁ! ちょっとは私にドキッとしたか聞いてるの!


 ……まだよくわからない?


 マジか。あれだけイチャついてもドキドキしないのね……。


 私の猛アピールに何も感じないの、なんかむかつくんですけど。ぐぬぬー……キミ! また明日、恋人ごっこやるよ!


 なんで困った顔してるの。キミが相談してきたんでしょ。もうちょっと頑張ろうぜー?


 ……キミのために一生懸命になれるの、私くらいしかいないんだからね?


 そこんとこ、もっと意識してよ……ばか。


 べっつにー? 怒ってませーん。


 とにかく! 明日こそドキドキさせてあげるから、覚悟してよね!


 実は次のシチュエーションも決めてあるの。明日の放課後、キミの家に行くね。


 ん? どんなシチュエーションかって?


 ずばり! 私がキミを看病します!


 人が恋するときってね、弱っている自分に優しくされたときが多いんだって。ほら。男性患者が看護師さんに惚れちゃうとか、よく聞くじゃない? 明日はそのシチュエーションをやってみようよ。


 頑張っていっぱい看病するから、キミもちゃんと病人の彼氏を演じてよ? その方が私も役に入りやすいから。


 ……何その不安そうな顔。大丈夫かよー、って顔に書いてあるんですけど。


 心配いらないよ。

 明日は私にたっぷり甘えていいからね?


 めいっぱいご奉仕して、ドキドキさせてあげる。


 というわけで、とりあえず教室もどろっか。

 ほらほら、遅刻になっちゃうよー?

 急げ急げー!


 SE:二人、走る音。徐々にフェードアウト。

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