幼馴染の彼とあまーい恋人ごっこをする話 ~いちゃいちゃ必至のシチュエーションで迎え撃ち、恋を知らないキミを振り向かせるまで~

上村夏樹

第1話 恋人ごっこでドキドキしちゃお? ~私がキミに恋を教えてあげる!~

〇キミの部屋(放課後)


 SE:階段をのぼる音。

 SE:がちゃ、ばたん、とドアを開閉する音。以後、キミの部屋のドアはこの音。


 ◆千夏、キミの部屋に入室。



 おじゃましまーす。


 ……あ、ごめんね。

 またノックするの忘れちゃった。えへへ。


 こらこら。そんなにむすっとした顔しないの。私とキミとの仲じゃない。カタイこと言いっこなし! ねっ?


 うん。そうそう。キミは笑顔のほうが素敵だよ。ほら、もっと笑ってみ? ふにゃーって、優しく笑う感じでさ。


 あはは、照れるなよー。ま、そういう可愛いところ、好きだけどね。

 うんにゃ。冗談じゃなくて本当に好きだってば。届け! 私のあい・らぶ・ゆー!


 むー。『はいはい、そりゃどうも』って、なんで迷惑そうな顔するかなぁ。



 ◆千夏、小声でぶつぶつ言う。



 ……お世辞じゃなくて、本心なのに。


 こんなに可愛い幼馴染が精いっぱいアピールしてるってのに……どうして気づいてくれないかなー。キミのばか。にぶちん。おたんこなす。いつか絶対に振り向かせてやるんだから。



 ◆ここから千夏の声量が戻る。



 え? な、なんでもないよ。うん。乙女の独り言です、あはは……。


 ここ、座ってもいい?

 ありがと。よいしょっと。


 そういえば、キミの部屋に来るのってひさしぶりかも。小学生以来かな?


 昔はよく遊んだよね。例えばほら、おままごととかさー。私のやりたい遊びにキミが付き合ってくれたの。覚えてる?


 あはは、照れなくてもいいじゃん。旦那さんの役、結構ハマってたよ? 将来、いいパパになるんだろうなって思った。ふふっ、本当だって。お嫁さん役だった私が言うんだから間違いないよ。


 いやー懐かしいなぁ。思えば小さい頃からずっと一緒だよね、私たち。

 高校も同じ学校に入学できて、私はとっても嬉しいの。キミはどう?


 ……なんだよぅ、その顔は。可愛い幼馴染と毎日一緒に通学できるんだよ? 嬉しいでしょ?


 むむっ。手間のかかる妹といるみたいで疲れるって?

 なにおう。私のほうが2ヶ月も誕生日早いからお姉ちゃんなんだからねっ!

 そのわりに子どもっぽい?

 ぐぬぬー……笑いすぎだよ! からかうの禁止!


 べーっだ。いいもんねー。キミがどう思ってたって、私は同じ高校に通えて嬉しいもん。


 えっ……キミも一緒の高校で嬉しいの?

 きゅ、急に素直になるなし。はずいじゃんか……。


 あーもう。この話はおしまいね。


 ところでさ。話って何? 相談があるって聞いたけど。大事な話?

 おや?

 おやおや?

 何だね、キミ。その恥ずかしそうな顔は。


 ……私に面と向かって言うの、照れくさいの?


 なんで? 私たち、幼馴染じゃん。何でも言い合える仲でしょーが。

 私に言うのが恥ずかしいことなんて、そんなのあるわけない……あっ。


 うそでしょ。まさか、こっ、こここ告白だったりしてぇぇ……っ!

 ま、待って!

 私、まだ心の準備ができてな……え?


 ……恋愛相談?

 き、聞いてないんですけどー!

 まさかキミに好きな人がいたなんてぇぇぇ……!


 あ、相手は誰なの? 同じクラスの子? それともバイト先の先輩? ま、まさか女性教師との禁断の恋だったり……!


 ……ん? 好きな人はいない?

 というか、むしろ好きな人がいないから相談したいことがある?


 ……それって本当に恋愛相談なの?

 うん……だめだ。全然わかんないよ。

 ねえ。順を追って説明してくれる?



 SE:時計の針の音(時間経過)。



 はいはい、なるほどねー。だいたい把握したよ。


 キミはまだ、恋をしたことがない。つまり、人を好きになるって気持ちがよくわらかないんだね?


 ……うんうん。そうだよね。この歳になれば、恋バナとか恋人の惚気話とか、みんな普通にするよね。


 それでキミはみんながすごく幸せそうに恋バナするものだから、恋ってものが気になった。


 だから、私に恋をするってどういうことなのか教えてほしい……そういう相談でOK?


 はぁ……キミさぁ。よくもまぁ私に恋愛相談できたね?


 ここまで鈍感だと逆に清々しいっていうか、怒る気力もわかないっていうか……ほんと、そういうとこだぞ?


 はぁ……わからないならいいよ。まぁキミがそういう性格だってことはよく知ってるし。


 恋をしているって、どういうことか……あらためて言われると、難しい質問かも。


 そうだなぁ……恋ってね。その人のことを考えると、胸のあたりが苦しくなったりするの。でも、それ以上に幸せな気持ちもあってね。胸の痛みさえも愛おしいって思えるんだ。


 いまいちピンと来ない?

 だよねー。こういうのって口頭で説明してもわかんないよなぁ……。


 え? わ、私の初恋?


 そ、それはー……幼稚園のとき、泣いてる私を見たキミが優しく声をかけて……って、言えるかー! 絶対にナイショなんだからね!


 はあ。まったく、キミってヤツはデリカシーがないよね。私以外の女の子だったら、とっくに見切りをつけられてるよ? あ、いや。こっちの話だけどね。


 ……ん? 待てよ?



 ◆千夏、小声で独り言。



 私はキミのことが好き。そして、キミは私に恋を教えてほしい。

 つまり、キミが私に恋に落ちたら、お互いの目標が達成できてwin-winなのでは?



 ◆千夏、声量を戻してキミに提案する。



 あ、あのさ……私とお試しで付き合ってみる? そしたら、好きって気持ちがなんとなくわかるかもよ。


 どう、かな……?


 え? そんな軽い気持ちで千夏と付き合いたくない?

 いや真面目か! ま、まぁキミのそういう誠実なところは好きだけどね……。


 ぐぬぬ、手ごわいー……でも、このチャンスをみすみす逃すわけには……そうだ。


 ねえ。実際に付き合わなくても、恋人みたいな体験をしてみるのはどう?


 私が彼女役で、キミが彼氏役。恋人たちの日常をシミュレーションしてみるの。そうそう。いわゆる恋人ごっこってヤツ?


 まあまあ。話は最後まで聞いてよ。

 たしかに、恋人ごっこで恋愛が何たるかを知るのは難しいかもしれない。


 だから、私がキミをドキドキさせてあげる。


 恋人たちの日常をシミュレーションする中で、キミが彼女役の私にドキッとすれば、なんとなく恋ってものがわかるんじゃないかな?


 要するに、キミにいっぱい甘い体験をしてもらって、恋する気持ちを知ってもらうの。どう?


 ……なんだよぅ。その疑いのまなざしは。

 私にそんな難しいことができるのかって?

 できるってー。私、元演劇部だし。


 安心して?

 子どもっぽくて妹みたいな幼馴染かもしれないけど……これでも女の子だよ?

 可愛い彼女になりきって、キミを骨抜きにしちゃうから。

 二人きりでイチャイチャして、あまーい恋愛しちゃお?


 ……なーんてね。ふふっ、ちょっとドキドキした?


 そうと決まれば、明日からやってみようよ。


 さーてと。準備があるから今日はもう帰るね。

 明日の昼休み、屋上に来て。もちろん、一人で来てよ?


 ばいばい。私のかっこいい彼氏さん。



 SE:ドアを開閉する音。



 は、恥ずかしいぃぃ……なんか大胆なこと言っちゃったかもぉぉぉ……!


 なにが「キミを骨抜きにしちゃうから」よ! 演劇でも言ったことないよ、そんな歯の浮くようなセリフ! 私のほうがドキドキしちゃったじゃん!


 ふー……でも、照れてる場合じゃないぞ。これはアイツを惚れさせるチャンスなんだから。


 私のこと、幼馴染じゃなくて女の子として意識させてやる。いい加減、私の好きって気持ちに気づかせてやるんだ。


 絶対にドキドキさせてやるんだから……覚悟しなさいよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る