中編
「なるほどね」
夢の事はちゃんと伏せて、同じクラスの女子・
「まー、あるにはあるよ」
「本当!?」
大田さんなら上級生と関わり合いがあるし、と思って、訊いて見て正解だったな。
「微妙に違うから探してる相手じゃないかもだけど」
「まあそれはいいよ。いつ?」
「今日でいいなら放課後で」
「じゃあそれで」
ありがとう、と言って大田さんの手を握った私は、もしかしたら思いのほか早く見付かるかも、という期待を募らせていた。
なんだかんだで放課後になって、私は大田さんに連れられて、結構古い感じな第1部室棟へとやってきた。
「奇人変人の巣窟みたいに言われてる所だっけ」
「まあだいたいあってるよ」
大田さんは、私のオブラートに包まなかった言い方に苦笑いを浮かべていた。
「やあやあ、よく来たね」
部屋に入ると、いきなり紙コップを手にした、私より少し背の低い上級生がかなりの大歓迎感を
「この人入部希望じゃないです」
「なんだそうかね。まあコーヒーを飲んでは行きたまえよ」
「うん。頂こうじゃないか」
「ハカセ殿の分はないぞ」
「ええー」
「あっ、お構いなく」
たき火同好会、というかなりニッチな部だけどソファーまである部屋に、部長だという
坂之上先輩の方はしゃべり方は近いけど、そもそも背があの先輩より10センチぐらい低いし、西宮原先輩は逆に頭1つ分以上は大きすぎるからハズレだった。
それに、
「その時間なら私は美名美くんやハカセ殿と干物を食していたな」
「宇宙干物美味しかったね」
その時間、ここに居る3人は裏の庭で七輪をつかって、干物を炙っていたから行くのは無理だと分った。
「あっ、そういえばそうだった。ごめんね
「いやまあ、どうせ見付かるまでしまくりなんだしいいよ」
「ところで式根くん、その探し人とはどういう人物なんだね?」
ちょっと落ち込んでいる大田さんをフォローしていると、ちょっと興味があるらしく坂之上先輩の方がそう訊いてきた。
大田さんと全く同じ事を伝えると、坂之上先輩は何かを思い出そうとしてか腕組みをして難しい顔をした。
「この魔窟の住人にこの人物はいないはずだ」
顔写真を見せて訊いてみたけど、先輩2人の知り合いにはいない事が分っただけだった。
「オカルト研なら詳しいかもしれませんね」
「お、その手があったか。では訊いてみるか」
大田さんの提案を即採用した坂之上先輩は、携帯でオカルト研の部長に連絡をとった。
「――ふんふん。ありがとう助かったよ」
「どうでした?」
「所属はしていないそうだが、どうやら3年生の間ではかなり有名人らしい。名前は
「水地、夜見……」
字は夜を見ると書いて〝よみ〟という、あのどこまでも深い濃紺の瞳にはピッタリの名前だった。
「ありがとうございましたっ!」
「うむ。ちなみに我が同好会は来る者は拒まな――」
私は腰を素早く謝罪の角度まで曲げてお礼を言うと、ぬるめになっていたらしいコーヒーを一気飲みして部室を駆けだした。
やっとスタートラインに立てただけだから、気を引き締めてかからなきゃ、と思っても、どうしても頬が緩んできて自分が浮かれているのが良く分かった。
まず初手に失敗したらマズいから、いろいろ読んで最適解を探さなきゃね。
図書館でそういう本が無いかを調べようと思って、どういう方向から行けば良いのかを考えながら歩いていると、
「うわっ、いたっ」
寝不足でぼうっとしていたか、前を見てなかったせいで、私は廊下と管理棟の境目にある防火シャッター横の扉に額を打ち付けた。
同時に、足元に誰かが放置した菓子パンの袋を踏んで、私は尻餅までついてしまった。
いたたた……。
よいしょと、立ち上がったところで、私がぶつかったドアが真・七不思議『ごっこ鬼』に関係するものだと今気が付いた。
ええっと、条件ってどんなのだっけか。
メモした所を見ると、防火シャッター横のドアに額でぶつかって尻餅をついた時は、3秒以内にドアを開けないと違う世界に引きずり込まれ――。
メモを読んでいる内に3秒経っていて、私は全身から冷や汗が吹き出る感じがした。
――なにか、来る……!?
私は意味が無いかもしれないけど、とりあえずドアを開けてから、私は後ろからよく分らない気配を感じてその場から逃げ出した。
「おや。昨日ぶりだねぇ」
後ろをチラチラ振り返りながら走っていると、教室棟の方からあの吸い込まれそうな濃紺の瞳を持つ先輩――水地夜見が廊下の曲がり角から現われた。
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