第5話 闇の殺し屋

[真剣なんです!お願いですから僕を殺してください。報酬は、全財産の80万円です!]


[私を闇にほうむってください。整形で失敗して片方の目がおかしな形になったんです。もう生きていく自信がありません。600万円、有り金全てをあげます]


[私は逃げ回るのに疲れてしまった。18年前に過って人を殺してやっと時効という時、殺人罪は時効がなくなるというではありませんか。いらい建設作業員などをやりながら逃げ回り……260万円の貯金があります。死への旅へのお手伝いをたのみたい]


 俺は殺し屋。といっても、想像するような殺し屋じゃない。言い換えれば自殺幇助屋とでも言おうか。


 今日も約束の場所に10人乗りの大型ワゴン車で向かう。


 6人ほどの顔をうつむかせている集団がいた。自殺志願者達だ。


 俺は車を横付けし、車に乗るように案内をする。


 バッグに報酬を入れるように指示する。バサバサと音がする。俺は金を確認し、運転席へ行こうとしたその時。


 その中に素晴らしいほどの美人がいた。例の整形を失敗したと告白してきた女だろう。しかし顔を見るかぎりまったくおかしくない。本人にとっては失敗したと思えても、他人には分からないのはよくあることだ。自意識過剰なのであろう。


 色白な肌。うれいいを含んだ瞳。美しい輪郭。あろうことか俺はその女に一目惚れをしてしまった。整形したと分かっていても心が抑えきれない。


 車を走らせ富士の樹海へ向かう。登山口になっていない、まず人には見つからない停車場でストップし、後ろからボンベを取り出すと、前から順に笑気ガスを吸わせていき、気絶させてまわる。


 おれはミチエと名乗るその女だけを車の外に出し、通路に七輪を3つ置き、練炭に火をつける。


 ドアをシャットアウトし、あとからついてきた手下の車に乗り二時間ほど待つ。その間後ろの林道を通過する車は一つもなかった。このような停車場を東京近郊だけでも七十ヵ所は知っている。


 全ては終わった。ガタイのいい手下が、ひとりひとりを緩やかな崖下に落としていく。


「ご苦労」


 そう言うと、俺は報酬の中から百万円取り出し手下に渡すと、嬉しげな顔をして受けとる。


「兄貴、その女だけ遊んでいくんですか?」


 にやついた目でこちらを見るので


「ば~か、そんなんじゃねーよ。お前は七輪を取り出してとっとと帰れ」


 と、笑いながら俺は答える。


 女を後部座席に座らせ、俺はまた東京の自宅へ戻り、ウイスキーの栓を開けた。




「う、う、う、う~ん……」


 ミチエは目を覚ました。しばらく辺りを見回すと俺を見つけて後ずさった。


「わ、私は集団自殺をしたはず……なぜ生きているの?……はっ、あなた私に変なことしたの!?」


 俺はミチエを怖がらせまいと優しい口調で答える。


「何もしてねーよ。ただお前の顔があまりに美しかったもんで……」


「け、警察を呼びますよ!」


 俺は一歩近づく。


「いやー!」


 溢れんばかりの情動にかられ、俺はミチエを抱きしめる。


「生きろ!そして俺の女になれ!愛してしまったんだ……」


 するとミチエがさめざめと泣き崩れる。そして俺にしがみつき大泣きをし始める。


「ひっく、……こんなに醜いのに」


「お前は美しい……」


 ミチエの服を脱がせ、二人は一つになった。




 ある日俺はミチエに百万円を渡した。


「そんなに気になるんだったら整形をやり直してこい」


「どんな顔になっても愛してくれる?」


「ああ、お前はお前だ」


 ミチエは出て行った。




「ただいま、開けて……」


 ミチエの声が玄関の前から響いてくる。


 俺は喜びながらドアを開ける。


「ただいま」


「だ、誰?」


 そこにはぼったりとした一重に戻った、ただの不細工な女が立っていた…………


 ………


 ……


 …


「いや、そうじゃなくって……」




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