第2話 独裁者
彼はその国のナンバー2の男が演説台に立ったとき、彼に頭を下げずに素通りしたことに殺意を覚えた。
演説が始まった。彼はゆっくりと後ろから近づき、演説に夢中になっているナンバー2に銃口を向けた。
パン、パン、パン!
ナンバー2は崩れ落ちた。ほぼ即死だった。側近達が後始末をするなか、演説台を降りていった。
これでよしと思った。ナンバー2がクーデターを企てているという情報を得ていたのた。
そのような輩をこれ以上のさばらせてはならない。
なぜなら彼は独裁者なのだから。
目の上のたんこぶを亡き者にして、彼は上機嫌だった。久しぶりに後宮に行き、10年連れ添った妻に報告に行った。
妻は一月ぶりの訪問を大層喜び、風呂に入り香を焚き染め化粧をして出迎えた。
特に老いを隠すため頬紅を強く塗りたくっていた。
彼はそれを見て妻の事を「リンゴ」と呼んでいた。
妻に今日あった事を報告すると、妻は、酒を出して一緒に喜んでやった。
少しだけ酔いがまわった。もう話すこともなくなると、この前後宮に入ってきた若い女の事を思いだしスックと立ち上がった。
「∞>♀&%£№!」
「リンゴ」は必死に止めようと、彼の足にしがみついた。彼のうろんな頭は「リンゴ」の言葉を理解できずにいた。
パン、パン、パン!
「ふぐぅ」
「リンゴ」は腹を押さえて突っ伏した。ほぼ即死だった。彼は上機嫌で若い女の元に出向いて行った。
これで「リンゴ」のご機嫌伺いをしなくてもいいと思うと気が楽になった。
なぜなら彼は独裁者なのだから。
ところでこの惑星には一つの大陸しかなかった。その大陸には彼が統治するガベリア帝国と、敵側最後の拠点ノーランド共和国の二つの国があった。
面積は、ガベリア帝国が大陸の九割をしめ、ノーランド共和国は度重なる侵略をへて、もはや風前の灯火であった。
彼の野望はノーランド共和国をぶっ潰し、天下統一をすることにあった。
今日も彼は装甲車に乗り、ノーランド共和国の首都めがけてばく進していた。
銃弾が飛び交い、遂にノーランド共和国の首都は陥落した。
大統領官邸に入ると大統領夫人と思われる遺体を発見した。その首にかかっているダイアモンドのネックレスを見つけ、取り上げた。
彼は「リンゴ」にプレゼントしようと思った。しかしなぜか心にポッカリと穴が空いているような気がした。
それがなんなのかは彼のうろんな頭では思い出せないでいた。
はっきり思い出せないことは、どうせたいしたことじゃないと思った。
忘れることにした。
なぜなら彼は独裁者なのだから。
完
(この作品は筒井康隆氏の作品のオマージュです)
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