SHUN-TATSU.COM
そうざ
SHUN-TATSU.COM
スマートフォンの画面に『SHUN-TATSU.COM』という広告が表示されている。近頃、密かに話題になっているショッピングサイトだ。独自の画期的な物流ルートを開拓したとかで、配送の早さは群を抜いているらしい。『速達』を超えた『
興味本位でクレジットカード番号や住所等、個人情報を入力し、以前から気になっていた漫画の第一巻をショッピングカートに入れた。
ピンポーン――玄関の呼び鈴が鳴った。
一冊の本を手にした配達員が立っていた。制服の胸には『SHUN-TATSU.COM』のロゴが入っている。
僕は、受け取りのサインしながら然り気なく訊いた。
「こんなに早いなんて、一体どういう仕組みになってるんですか?」
「お客様のニーズに素早くお応えするのが当社のモットーです」
何だか要領を得ない回答と四十五度のお辞儀で、配達員はさっさと帰ってしまった。
漫画は期待以上に面白く、一気に読み終えてしまった。続きが気になる。僕は早速、第二巻を注文した。
ピンポーン――呼び鈴が鳴り、同じ配達員が立っていた。
「さっきより更に早いですねっ」
「お客様のニーズに素早くお応えするのが当社のモットーです」
物語は、第二巻で急展開した。また一気に読んでしまった。面白かった。
ピンポーン――また同じ配達員だった。
「えっ、何も注文してないけど」
「お客様のニーズに素早くお応えするのが当社のモットーです」
そう言って配達員が提示した注文票には、僕の氏名と共に第三巻を発注した旨が記されている。
「キャンセルも可能ですが、如何されますか?」
「あ、いいえ、どうせ注文するつもりだったから」
物語は、第三巻で山場を迎えた。巻末に次巻で完結する旨が予告されている。きっと凄い結末が待っているに違いない。期待が高まる。早く読みたい。
が、配達員は現れない。
五分待っても、十分待っても、何も起きない。やっぱりちゃんと注文をしないと駄目なのかな、と思った途端だった。
ピンポーン――馴染みの配達員が最終巻を片手に言った。
「こちらの商品は、ご購入をお薦め致しません」
「えっ? どういう事?」
「お客様のニーズに素早くお応えするのが当社のモットーです」
「だったら頂戴よ」
「一度受領されますと返品は不可になりますが」
「構わないよっ」
僕は、そそくさとサインをし、奪うように漫画を受け取った。
物語は、最終巻で尻窄みになり、消化不良のまま完結してしまった。最悪だった。金を返せと思った。
配達員の台詞が蘇った。
「お客様のニーズに素早くお応えするのが当社のモットーです」
SHUN-TATSU.COM そうざ @so-za
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