SPREAD BLUE~最強能力者の無双生活~
ベルカ
『S』ランクの転入生
「第2学年のクラス張り出しは、と……」
ポケットからwPhoneを取り出して確認する。進級に伴うクラス分けに関しては各生徒に割り振られたIDとパスワードを入力すれば学校ホームページにアクセスが可能になっており、前年度からの生徒は校門を入ってすぐの場所に設置されている掲示板を見なくても自身のクラスと配席がわかるようになっていた。
「……あっ、2-Aだ!」
IDとパスワードを入力すると表示される座席表は『2-A』とタイトルが振られてあり、前から5列、合計30人分用意されている席のうち、最後方窓側の席に名前が表示されていた。
『
「やったー!」
自身の名前を確認した少女、桐嶋花楓は校門入ってすぐ、それほど人がいない掲示板の前で誰が見てもわかる程の小躍りをしていた。そのままスキップするように3つ並んだ校舎の1つ、真ん中の校舎へと入っていく。
「あ、花楓ちゃんじゃん。やっほー」
クラス移動の間に話しかけてくる女子生徒に手を振りながら自分のクラスへと移動する。特徴的なダークブルーの髪の毛を揺らしながら教室に入ると、既に見知った顔が数名席に座っていた。花楓はその中からとある人物を目線で探し、見つけると嬉しそうに駆け寄っていく。
「京香ちゃ~ん!」
「お、花楓!今日はちゃんと遅刻せずに来れたんだな」
「ひど~い!私だって新学期くらいは遅刻せずに来るよ~」
「それをちゃんと卒業まで続けられたら、先生たちは評定を決めるのがもうちょっと早かっただろうにな」
「あ、え~っと……それは、あんまり皆に言わないでね……」
照れ臭そうに笑う花楓と、その花楓に京香と呼ばれた少女はくっくっと笑う。
「ま、アタシも評定結構ギリギリだったんだけどな」
「京香ちゃんは本当にすごいよ~。私なんか日常生活の欄がE付けられてたんだから~」
「2年連続Aクラスに席用意してもらえてるんだから、ちゃんと結果出してるって事だろ。アタシなんか能力の欄は3学期全部Cだったぞ?」
「でもいっぱい努力してたでしょ~?やっぱり京香ちゃんはすごいよ~」
花楓や京香が去年度、及び今年度在籍することになるAクラスは、彼女達が所属する『
「……当然だけど、見知った人ばっかりだね」
「まあ、1年の時から顔ぶれなんてそう変わるもんじゃないだろ。変わるとしたら、アタシたちの頃の1-Aの頃の誰かが落ちて、1-Bの頃の誰かが上がったくらいなもんだろ。それでもCもDも優秀な生徒しかいないんだし、むしろ花楓がBに落ちてないことの方がびっくりだ」
彼女、
「も~、すぐそういうこと言う~」
「いやだって、成績はともかくとして日常生活が……」
「あ~あ~!」
「週に3回遅刻する……」
「あ~!あ~!」
京香が淡々と告げる事実に耳を塞いで大きな声を出す花楓。教室の何名かは声に反応して2人の方に首を向けるが、やれやれいつものことかと首を元の方向に戻してしまう。
「……それを言うなら京香ちゃんだって、頭悪いじゃん」
「それでもテストの点数は高いだろ?」
「授業中は寝てるくせに……」
「しょ、しょうがないだろ。毎日ギリギリまで勉強とかしてるんだから」
「まあ、京香ちゃんの努力は私が一番よく知ってるからね~……」
京香は大きく口を開けて息を吸う。彼女が大きな口を開けることに抵抗がなかったのは、そこにいたのが皆見慣れた生徒たちばかりだったからである。
「あれ、そういや花楓の席どこなんだ?」
「私?あそこだよ」
花楓はピッと指を指し、その方向を京香は見る。5列目窓側。
「……青空授業?」
「一番後ろだよ!!!」
「は?なんで」
「なんでってなんで!?ほら見て!」
懐疑的な目を向ける京香の疑いを晴らすべく、花楓は自身のwPhoneの画面を京香に見せつける」
「……マジで?」
「大マジ」
「ホームページの不具合じゃない?」
「どうあっても私の席に納得してくれないんだ!?」
「いや、だって……なぁ」
京香が今座っているのは1列目真ん中。教壇の丁度前に当たる席に運悪く配席された京香と違い、花楓は窓側後方というまさにベストポジションを手に入れていた。
「アタシより授業態度、いいか?」
「いいと思うよ」
「このクラスの誰よりも、いいか?」
「それは……ちょっと自信ないかも」
「この世界の誰よりも、いいか?」
「私を否定するために世界まで遡っちゃった!?」
花楓がツッコミを入れながら自分の席に座ると、今度は京香が立ち上がって花楓の席の隣に移動してくる。
「まじか~……羨ましい」
「ふふ~ん、いいでしょ~」
「で、お前隣は誰なんだ?」
「え?」
京香の発言を聞いた花楓は、はっとして自身のwPhoneを見る。基本的にホームページで確認できるのは自分の席と、自分の席の前後左右に座る生徒の名前である。花楓の場合、窓際後方に配席されているため後方と左側に名前はなく、前方及び右側の席に名前が表示されているはずである。
「……あれ?」
「……ないな」
wPhoneを覗き込む花楓と京香。花楓の席の前には、前の学年でも一緒だった生徒の名前が表示されていたが、右隣の席には名前が表示されていなかった。
「……やっぱりバグなんじゃないか?」
「え、えぇ~……」
「まあ、新設校だしそういうこともあるさ。元気出せよ花楓」
「う、うぅ~っ!!!」
番犬の如く吠える花楓だが、京香にはそれがポメラニアンの威嚇と見分けがつかなかった。
「……ま、先生来たら聞けばいいだろ。仮にバグだったとしても、窓際から1個離れてる以外は一緒なんだし」
「う、う~ん……」
「元気出せって。それに普通は席は中途半端に空けないだろ?やっぱバグなんだって」
「そ、そうなのかなぁ……」
段々と自信を無くしてきた花楓の肩をポンと叩く京香。教室のドアが開かれたのは、そのタイミングと同時だった。
「はい、席に就け~」
教壇に上がる、wPadと呼ばれるタブレット型コンピュータを携えた女性。気だるげなその声に合わせて、立ち話をしていた生徒たちが自分の席に座る。
「ホームルームを始めるぞ~。まずはお前ら、無事に進級おめでとう」
教壇に立つ女性は適当に手を叩いて目の前に座る29名の生徒の進級を祝う。一見すると不真面目そうに見えるその態度に、声をあげる生徒は誰一人としていなかった。
「去年からAに進級したやつもいるだろうから一応自己紹介しとくぞ。
桃花と名乗る教員は、wPadの画面と目の前にいる生徒を2、3度見ると、名簿を教卓を置く。
「……はい、29名ちゃんと遅刻無しで登校できてるなえらいぞ~。花楓はこれが来年の4月まで続くことを祈ってるからな」
「が、頑張りま~す」
後頭部を掻きながら照れ臭そうに答える花楓。花楓の反応を見た花楓はため息をつく。
「……あ、先生~。一つ質問があるんですけどいいですか~?」
「なんだ花楓。言っとくが登校の定刻は伸ばしてやらんぞ」
「えっと、それじゃなくて……私の隣の席なんですけど……」
花楓が席に指を指そうとする前に、花楓が言いたいことを理解した桃花は話し始める。
「……そうそう、今日のホームルームはその件で一つ話すことがあったんだ」
クラスの全員が桃花の言葉に耳を傾ける。
「喜べ、花楓の隣の席は空席じゃない。『転校生』の席だ」
その言葉に教室内がざわめき始める。「転校生……?」「嘘だろ……」「天原学園に……?」等、桃花の言葉に疑問を持つ声が上がっていた。
「はーい静かに。私を疑う気持ちもわかるだろうが事実だ。ちゃんと能力の測定も行われているし、クラスも合ってる」
手拍子を打ってクラス内のざわめきを鎮める桃花。桃花は続けて言葉を発する。
「……しかもただの転校生じゃない、スーパー転校生だ。喜べ、我が校で2人目になる、『S』クラスの生徒だ」
その言葉に、先ほどよりも大きなざわめきが教室内を満たした。驚くのも無理はないだろう、創立10年にして1人しか存在しなかった評価『S』の生徒が、このクラスにやってくるのだから。
「まあ驚く気持ちもわかるが、あんまりお前らがざわめいてると転入生の子も委縮するだろうし、さっさと紹介させてもらうぞ」
桃花は生徒から向かって教壇の左側に移動すると、教室のドアに向かって少し声を張って告げる。
「入ってきていいぞ」
その言葉を置いて数秒後、教室のドアが開けられる。そして、ドアを開いた生徒が教壇に上がる。
「……!!!」
1年から進級した生徒たちとは違う、新調した汚れひとつないブレザー。教壇に立つ桃花が猫背なのもあるが、彼女よりも高い身長。整った顔立ち、身体つき。桃花の話を少し眠たそうに聞いていた花楓だったが、教室に入ってきたその転校生の顔を見てできちゃった結婚をしそうだった上の瞼と下の瞼が開かれる。
「……はい、先ずは自己紹介をしてくれ」
桃花はwPadの画面を何度かタッチする。そして教壇の後ろに設置された大きなモニターの真ん中に、転校生の横に並ぶように名前が表示される。
『
名前が表示されたタイミングとほぼ同時に、青年が言葉を発する。
「……初めまして。今年度から天原学園に転入した、真田蒼介と言います。これから2年間の間、よろしくお願いします」
真田蒼介。それは、この世界に破壊と再生をもたらす、歴史に名を残す男の名前だった。
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