おでんサバイバル

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 気のいい兄貴分である「ちくわの兄貴」そんな兄貴を支える「はんぺん姉貴」。


 二人は将来を誓い合った仲だった。


 いずれは、豪華な結婚式を挙げて、子供に恵まれ、暖かな家庭をきずき上げたいと考えていた。


 しかし、そんな日々は一転してしまう。


 平和に生活していたおでん達は、ある日人間デストロイにロックオンされてしまった。


 人間デストロイは鬼畜の存在。


 おでん達を根絶やしにしようとしている、悪魔の生物なのだ。


「きゃあああ! 悪魔がやってきたわ」


「俺はもう駄目だ! おまえは逃げろ!」


「そんなっ。いつまでも一緒っていったじゃない」


 おでん達は必死の抵抗を見せるか、その努力はむなしく、人間デストロイに吸収されてしまう。


 けれど、希望はあった。


 おでん達の母「だし・グランマザー」の加護によって、おでん達はぎりぎりのところで一命をとりとめたのだった。


 人間デストロイの体内で、延命できる時間は3時間。


 その間に、そこから脱出しなければならなかった。


 とはいっても、サイズ感が違い過ぎる。


 おでん達は数センチから十数センチほどのものしかいない。


 しかし人間デストロイは一メートル以上もある。


 人間デストロイはしかも頑丈だった。


 おでん達がどれだけパンチやキックをしても、耐えてしまう。


 綿が鉄に攻撃を加えているようなものだった。


 人間デストロイの体内にいるおでん達は、悲壮感にあふれていた。


 しかし。


「ぼく、おおきくなったらりっぱなお医者さんになるんだ。だからがんばってここから出なくちゃ!」


 健気にがんばる最年少のおでん「たまごぼーや」の姿勢に心を打たれたおでん達は、手をとりあって人間デストロイの内部から脱出する事を決めた。


「こんな小さな子供ががんばってるんだ。俺達が先に諦めてどうする」

「そうね。まだ希望は残されているはずよ。頑張らなくちゃ」


 奮起したおでん達はそれから行動を開始する。


 体をとかす酸の川に気をつけながら進んでいくおでん達。


「ここはとっとも危険な場所だわ。グランドマザーの加護の範囲から出ないようにしてすすみましょう」

「はぐれるおでんがいないよう、互いに気を付けるんだぞ!」


 だしの加護に守られたおでん達はおっかなびっくり酸の川を進んで行く。


 無事にわたり終えたおでん達は、ほっとした。


 そして、これならいける、と互いを勇気づけ合ったのだった。







 人間デストロイの体内のその先へ進んで行くおでん達。


 そこ先で彼等は、主人を失ったペット「こんにゃくわんこ」を発見した。


「わんわん。わーん」


「こんにゃくわんこ」は、とても機敏な生き物だ。


 だから酸の川でも溶ける前に進む事ができたのだろう。


 川の中には、水面から出ている陸地などもあったから、それをつたってきたのかもしれない。


 しかし、「こんにゃくわんこ」の主人はそうではなかった。


 近くにちからつきたおでんの亡骸がよこたわっていた。


「もちきんちゃく」のきんちゃくがやぶれて、内部のもちがはみ出ている。


 ここに医者がいて、「もちきんちゃく」が元気だったならば、きんちゃくを縫って治療ができただろう。


 しかし、医者はおらずおでん達がやってきた時もすでに手遅れのタイミングだった。


 おでん達は静かに死者の安寧を祈った。






 気持ちを新たにしたおでん達。


 その彼等の前に、立ちふさがる障害は脈動する回廊だった。


 目の前には、幾筋にも通路が張り巡らされた迷路があた。


 その迷路の壁は動いて、おでん達を押しつぶそうとしている。


「潰れないように気を付けてすすめ。誰かが潰れそうになったら、引っ張ってたすけるんだ」

「最後まであきらめちゃだめよ、みんな!」


 おでん一体は非力だ。


 人間デストロイとは比べ物にならない。


 それに押しつぶされてしまったら、おでん達は無事ではいられないだろう。


 彼等は慎重にだしの加護をまとって進むことにした。







 満身創痍のおでん達。


 彼等が挑むのは最後の試練だった。


 そこでは、上下左右どこからも降り注ぐ。


 死の概念だ。


 それはまさしく嵐の中のようだった。


 荒れ狂い吹きすさぶ、死そのもの。


 それは細い通路がのびた、通路の先を見渡せないくらいだった。


 真っ黒な「死」を前に、おでん達は膝をつくが。


「ここまできたんだ! 俺達ならきっとのりこえられる」


 ここまで頑張って来た経験が彼等の背中を押した。


 互いに手を握り合い、進んで行くおでん達。


 死の概念は容赦なくおでん達に襲い掛かった。


 仲間の死や、自分の死の未来。


 死に至る様々な想像、幻の痛みがおでん達頭を侵食していく。


 しかし。


「光だ! 光が見えるぞ!」


 彼等はとうとうそれを乗り越えた。

 

 真っ暗な闇の向こうに見える光へと走り出していく。


 様々な苦難を乗り越えた彼等は、もはや自由。


 非情にふりそそいだ不条理はもはや敵ではなく、悲劇は過去のものだった。


 彼等の心は未来を向いている。


 希望の溢れる未来へ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おでんサバイバル 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ