ペンギンたちのファーストコンタクト➁
「あーくそっ! 最近はランキングに入れないどころか、PV数も減ってきてる! そんなに俺が考えたストーリーってつまんないのかよ! この間の休みの日に、構成を考え直して練りに練ったのによ……」
椎名から「福岡小説の会」の集まりの連絡がグループチャットに届いてから数日後。バイトを終えて帰宅した肇は、いつものように小説投稿サイトへログインし、自身の作品の閲覧数やランキングのチェックを行っていた。そしていつものように落胆し、愚痴をこぼしていた。
「ここに限らずだけど、最近のウェブ上の小説投稿サイトは、異世界ファンタジーが強いよなぁ。ランキングがほぼそれで占められてるんだもん。やっぱり俺も、異世界転生モノを書かないといけなのかなぁ……」
肇は、主に事実を元にしたフィクションを書くことが多かった。具体的には、実際に肇自身が体験した、あるいは世の中で起きた事実を元にして、それに想像を取り入れたり、構成を変えたりしながら作品を書いている。
逆に、ゼロから何かを創造していくのは苦手であった。そのため、肇は壮大な世界観や個性的なキャラクターといったものをゼロから設定する必要のある、いわゆる異世界モノやファンタジーといったジャンルを避けてきたのである。
「そもそも異世界モノをあんまり読まないから、書き方がよく分かんないんだよな。とりあえず主人公を死なせて、何らかの形で転生させれば良いのか……?」
肇は、これまであまり触れてこなかったジャンルの構想をあれこれ考えながらサイト内をうろうろと徘徊していた。すると、グループチャットに新着のメッセージが届いていることに気付く。
「あ、グループチャットに新着のメッセージが届いてる。全然気付いてなかった。この前のやつかな? 集まりの日時が決まったのかな?」
新着のメッセージが届いているグループチャットを開くと、肇の推測通り「福岡小説の会」の集まりに関する内容を椎名が発言していた。
「前日は突然のご連絡にもかかわらず、予想を上回る、10名以上の参加希望者の方からメッセージをいただきました。本当にありがとうございます。つきましては、「福岡小説の会」の集まりの日時の候補を連絡差し上げたく思い、メッセージを送らせていただきました。参加を希望される皆様の活動報告を拝見したところ、概ね日曜日がお休みの方が多いように感じましたので、来月の日曜日のどこかで集まろうと考えておりますが、いかがでしょうか? そこで、来月の日曜日のどこかで都合の付く日時を教えていただけると幸いです。よろしくお願い致します」
「10人以上も参加を希望してたのか。最初は参加するのを渋ってた俺と違って、皆んな精力的なんだなぁ。集まる日の候補は来月の日曜日のどこか……。んー、俺はどこでもいいけど、出来るだけみんなと被る日を選んだ方が集まりやすいかな?」
肇は椎名のメッセージの後に続く、参加希望者それぞれの都合の良い日が表示されたメッセージを確認していく。
「……なるほどねぇ。じゃあ俺は……、この日かな」
肇はなるべく都合の良い日としている人の多い日曜日を選んだ。具体的には、翌月の第2日曜日。そしてこの日は、肇にとって特に重視すべき日でもあった。それは、「夏川カケルが都合の良い日としている日」だったのである。
※
介護施設での業務にあたっていた柚希は、昼休みの時間を迎えていた。昼食を食べ終えた後の残りの時間は、小説投稿サイトにログインし、自身の作品に対する反応や、新着の投稿をチェックするのが柚希の日課である。
この日は、椎名から届いた「福岡小説の会」の集まりに関するメッセージを閲覧していた。
「10人以上も参加を希望してたんだ! みんな活発だなぁ。さすがに全員が集まるのは難しいだろうけど、参加出来たら一人でも多くの人と交流出来たらいいな。えーっと……、候補は来月の日曜日のどこかか。日曜日は休みが被りやすいから、早めに山本さんに相談してた方がいいな」
柚希は昼休みが終わらないうちに、休み希望の相談をするべく山本の元へ向かった。
「山本さん。来月のシフトの件で相談があるのですが、今お時間よろしいでしょうか?」
「あぁ、いいよ。柚希くんがシフトの相談なんて珍しいね」
「ありがとうございます。実は来月の日曜日のどこかで、どうしても参加したい用事がありまして。日曜日は特に人手が足りなくなりやすいと思うので、大変心苦しいのですが……」
「心配しなくてもいいよ柚希くん。たぶん、柚希くんの休みの希望に対して文句を言う人なんて誰もいないんじゃないかな?」
「え?」
「むしろ、柚木くんはもうちょっとわがままに生きていいと思う。今回の休みの希望だってそう。いつも他の人のシフトが決まってから、それに合わせるように休みを決めるでしょう? だから、今回に限らずもっと自分の意見を主張してもいいんじゃないかな? 来月の日曜日、どこでも好きなタイミングで休みを取るといいよ」
「山本さん……。ありがとうございます! お気遣いまでしていただいて……。では、また決まり次第すぐに報告をしに来るので、よろしくお願いします!」
「分かった。来月のシフトは今週中に決めればいいから、焦らずゆっくり決めるといいよ」
改めて山本に一礼し、元にいた場所へ戻った柚希は、早速どの日曜日にするかを決めるべくグループチャットを開く。
「えーっと……、この中だと第2日曜日が一番人数が集まりそうだな。よし、ここにしよう!」
柚希は第2日曜日に参加を希望する旨を書いたメッセージをグループチャットに投稿する。
「これでよしと。当日は貴重な話が聞けたら良いな。楽しみだなぁ!」
午後の勤務が終わって帰宅した柚希は、いつものように帰りの道中に立ち寄ったスーパーで購入した弁当や惣菜を机の上に並べる。そこへ、物音で帰宅したことを認知した和希がやってきた。
「おかえり。今日もお疲れ様」
「ただいま。和希も勉強お疲れ様。お腹すいてるだろ? 今日は俺も一緒に食べるから、まとめて温めるぞ」
「あれ、珍しいね?」
「まぁ、たまにはね」
「何かいいことでもあったんでしょう?」
「なんでそう思うの?」
「今日の兄ちゃん、なんだか顔が嬉しそうだから」
「あれ? やっぱり分かる?」
「兄ちゃんは昔から顔に出やすいからなぁ。今日もバレバレだよ。で、何があったの? もしかして、彼女でも出来た?」
「バカ、そんなんじゃないよ! 実は来月の日曜日、小説を書いてる人同士の集まりがあるんだ。それに参加しようと思ってさ」
「へぇ! 兄ちゃん最近忙しくてなかなか外出出来てないし、良い気分転換になるんじゃない? 家のことはいいからさ、行ってきなよ!」
「和希がそう言ってくれるなら安心して参加できるよ。ありがとう!」
夕飯を終え風呂に入り、明日の準備をしてから床に就く。眠りにつく前にスマートフォンを開き、小説投稿サイトへログインする。グループチャットに新規のメッセージがいくつか届いていた。
柚希はグループチャットを開き、主に参加希望者の都合の良い日時の連絡を確認していく。その中から、柚希が最も気になっていた人物のメッセージを見つけることが出来た。
「参加を希望するソラです。第2日曜日を希望します。よろしくお願い致します」
「お、ソラさんの希望も第2日曜日だ! もしかしたらお会いできるかもしれない! 楽しみだなぁ」
柚木は早くも、参加した時のことを考えて胸を躍らせていた。
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